令和の新怪物
新2軍の一発目練習試合の対戦相手は地元社会人の強豪 “産業石油”。この時期の両者の対戦は既に6年連続と定期戦扱いで、メラメラ対抗心をたぎらせ煽りあうのが毎年恒例になりつつある。
“社会人に負けるってそれでもプロですか!?”
“お金をもらって野球漬けでプロじゃない!?”
などと試合を告知する宣伝ポスターには刺激的なコピーが並ぶが、これは当然プロレス的な演出の一貫で話題作り目的である。
実際は選手や監督たちも和気あいあいと年一の交流を楽しんでいた。だが、今年は雰囲気がまったく違う。
2軍新監督の山吉弟とこれまた就任したばかりの産業石油・中久保監督にはシャレにならない因縁があるからだ。
中久保は元プロで山吉弟と同じ捕手。現役時代はお互いデッドボールをわざと? 当てては当て返す負の連鎖で乱闘も日常茶飯事だった。
「負けたらぶっ殺すよ。わかってるだろうな」
コンプライス遵守はどこへやら、不謹慎ワードで産業石油ナインを鼓舞する中久保監督。そして一方の山吉弟はいつにましてパワハラ全開だ。
「負けたら明日から練習メニューは3倍だ。勝ったときのご褒美? なものあるわけねえだろ!! プロがアマに勝つのが当たり前なんだからな」
普段の10倍きつい山吉弟の顔つきにナインは震え上がってるが、白縞だけはそれでも許容範囲だと平気の平左でいつもどおり楽観的である。
「まあどうせ僕スタメン落ちだし、しかもうちの投手は……絶対負けるわけないあいつが先発だし……。練習3倍にはまあならないだろうな」
ロケッツの先発は6球団競合のすえ当たりくじを引いた令和の新怪物こと“雨宮零牙”。194cmからMAX161キロを投じる超本格派である。
白縞とは同じ高卒で寮も隣同士の部屋。さらに雨宮は田舎出身で東京首都圏の暮らしぶりに不慣れであり、地元生まれの白縞に何かと頼りきりだ。
買い物や東京へのちょっとした遊びなどどこへ行くのも白縞と一緒で、あまりにも二人はべったりなためにホモ疑惑も湧き上がるほど。
「白縞、社会人の強豪てどれくらいの強さなんだ!?」
「2軍より強いけど、お前なら相手にならない」
「そうか。どれくらいの出力で抑えれる?」
「2割でOK。150キロで打たれることはないだろうね」
「2割か……そのくらいなら今の段階でもいけるかな……」
白縞は雨宮のメンタルトレーナーの役割も果たしている。沖縄キャンプの期間は一軍帯同してた雨宮は横須賀残留の白縞とは離ればなれ。
雨宮は白縞なしでは精神的安定が保てないためか本調子が出ず、沖縄キャンプ終了後のオープン戦帯同を勝ち取れず2軍落ちとなった。
しかし絶対負けたくない山吉弟は雨宮に無理難題を押し付ける。
「おい、雨宮……160キロ狙いにいけよ。7回までは死んでも投げろ」
高卒新人とならば過保護なまでな調整が当然な令和の時代、この寒さが残る3月頭、普通の金の卵はせいぜい2イニング30球投げれば充分なところ、パワハラ監督はその3倍以上の負担を要求させる。
2軍投手コーチの立野は、球団フロントから雨宮の使い方を厳しく制限されている。
立野愛用のタブレットには球団から授けられたあるファイルがインストール済みだ。
その名は “雨宮管理ファイル”
そこには雨宮に対して絶対やってはいけない指導方法などが事細かに記載されている。さらには立野には雨宮にかけた言葉やどう指導したかも漏らさず報告する義務もある。
「7回120球投げたとかどう球団に報告すればいいんだよ……2回投げ終わったら、適当に豆が潰れたとかで降ろすしかねえか……まったく山吉のわがまま野郎が……」
立野は山吉とは同年齢で親友だ。ズケズケものが言い合える親友関係だったが、監督とコーチになってからは一線を引いている。山吉就任以降立野は山吉に対して敬語で接してる。もちろん上司の命令は絶対である。
「だが、雨宮降ろすとそれ以降がきつい。産業石油打線を抑える投手が今の2軍にいるかっていうと微妙だ……雨宮を壊すとオレのコーチ生命は絶望的だが、それ以外の投手に無理強いして壊したところでコーチの評判には響かない……。この時期の寒空で長いイニングを全力投球は可愛そうだが、やつに泥をかぶってもらうか」
立野は絶対勝ての厳命に応えるために、産業石油打線を入念に研究する。立野のタブレットには知人のアマチュア野球関係者から得た産業石油打者の動画集がインストール済みだ。
「たく……なんで練習試合しかやらない相手の研究なんぞせないかんのだ……時間のムダ」
愚痴る立野だが、動画集を穴が空くほど眺めるとある答えが出てくる。
「あいつがいけるぞ……冴えないあいつだが、産業石油打線には通じるかも………フハハ……あいつならここで壊しても別にいいか……よくて敗戦処理だもんな……」
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