見よう見まね
ロケッツの先頭打者は育成一位指名の武松。武松は独立リーグ3冠王の輝かしい実績を残した右のスラッガー。本人は即戦力のつもりで入団したために3軍で6番打者扱いはかなり不服に違いない。
低評価を覆すためには結果が必要だが、渡部には完全に封じ込まれる。取り戻しに3打席目、左腕投手は武松にとって得意中の得意だ。
内角に飛び込んでくるスライダーを見事なバット捌きで弾き返す。
「あれだ!!」
白縞は思わず声をあげる。間近でみた左腕打ちの手本を教本にネクストサークルでスイングを繰り返す。
「思えば左腕が苦手だったのも、高校時代、お手本がどこにもなかったからだ……プロはやっぱり違う! 独立リーグや大学生相手にも大敗を喫するが参考にすべき技術は転がっている……。食い込んでくるボールがなぜ打てないかというと……バットとボールの距離が取れずスイングが窮屈になるからだ……武松さんがに見せたように……脇をしめて内側から振り出す意識を持てば距離は保たれ……。チェンジアップ狙いは辞めだ! インコース狙いに切り替える……!」
突貫工事のフライボールレボリューション打法に見様見真似の内角打ちを加えて、即興で左腕攻略を推し進めるが、せっかく持ちつつあったいいイメージも次の打者ミサンゴの酷いスイングで理想像を保てなくなる。
「これで10打席連続三振か。同じポジションを争うライバルとはいえ……ちょっとかわいそうかも……ジャパニーズドリームを果たすために誰も知り合いのいない異国に来たんだから……このまま僕との争いに敗れ首になったら……母国ドミニカでミサンゴの稼ぎを持つファミリーはどうなってしまうんだろう……」
白縞は複雑な思いを抱えながら打席に立つ。それでも打つために最善な策略を仕掛けるのは白縞らしい。
白縞はあからさまに打席の立ち位置を変える。
ホームベースに覆い被さるように構える。捕手の児島がジロジロ白縞を見上げる。
インコース狙いで、そのインコースを投げづらくさせるようにように覆いかぶさるのは一見逆説的に思えるが、児島はその立ち位置をみて、白縞はインコースが弱点と思い込む。
「これは基本中の基本。打者は自分の弱点を消すための最善を尽くす。インコースが打てないからそのコースを配球から消すために覆いかぶさって投げづらくさせる……。捕手の児島さんはこれで決め球をインコースに持ってくる配球をしてくる……僕はそれを狙う9……。見様見真似の即興インコース打ちフライボールレボリューション打法で……」
梨田ー児島の白楽大バッテリーはまんまと白縞の策略にハマる。
決め球のインコースを際立たせるための、アウトコースにストレートとチェンジアップを配するオーソドックスな攻めを見せて、白縞を追い込む。
「あれ……でも今の2球目、三味線を引いてわざと空振りをしたけど……真ん中で打ち頃だったよな……」
少々の後悔を持ちながらも待ってましたのインコースを白縞はじっと待つ。
「インコースに切れ込んでくるスライダー……インコースに切れ込んでくるスライダー……」
白縞は頭の中で復唱しながらインコース打ちの打法を思い浮かべる。
ワンボールツーストライクと追い込まれた4球目、遂にそれは来る。
インコースに切れ込んでくるスライダー。白縞は狙い通り、思い描いてた通りにインコース打ちを披露する。即興の、しかもしゃくりあげのアッパースイングのために明らかに振りなれていない不自然なバットの動きだが、偶然にもスライダーの変化軌道とピタリ合う。
曲がり落ちるボールをむりやりにすくい上げてセンター方向にかっ飛ばす。高々と上がったフライに白楽大のセンターは全力で背走するが届かず、頭上を超えてフェンス手前で落ちる。
白縞プロ初ヒットは意外にも会心の一撃だ。
白縞は控えめにガッツポーズをし、二塁ベースに滑り込まなくとも十分間に合うのに滑り込む。二塁走者も悠々と生還し、初打点のおまけ付き。
プロは絶対無理と断言された高校時代1割男が早くも結果を出したわけだが、白縞に浮かれる様子はない。
「プロ初とはいえ、アマチュアの大学投手から打っただけ……。しかも渡部さんのようにプロで活躍が約束された投手じゃない。僕と同級生の1年坊主だ……打って当然と思わなきゃ……このあと打線はつながるぞ……僕の初安打が埋没するくらい……そしてつながれば僕に4打席目が回ってくる。そこで打つか打たないかで初めて真の評価になるんだ……そこまでは破顔一笑は堪える……」
白縞はあえて気を引き締めるが、打って当然の相手投手からロケッツ3軍はまるで太刀打ちできない。
ここまで2安打の市島が初の右打席で苦しんだのか、三球三振、さらにトップに帰ってのベテラン上岡も寂しい結果を残す。
「あれれ……プロの意地は? 打って当然の投手で僕の活躍は埋没するんじゃなかったっけ……」
結局、残す9回裏も3番手サイドハンドの前に三者凡退……ロケッツ3軍はまたもアマチュア大学生相手に屈したことになる……。
独立リーグ相手と続いての敗戦で、せっかく初安打をタイムリーの長打で飾った白縞も逆に落ち込むことになる。
「はあ……3軍とはいえこれでプロと言えるのか……アマチュアにこてんぱんにやられるこのメンツでちょっとレギュラーを確保したところで支配下……その先の一軍レギュラーは遠いのか……」




