6犠打目
「手の内を見せる見せないどころか、ここで負けたら当たり前だがオシマイだぞ、白縞」
「……なら4回から行きますか!?」
「どっちが監督がわからんが、言い出しっぺのお前が責任取るなら……」
「よし、なら行きますか……史上初のバントバントバントで相手をとことん追い詰める野球を! あーあ9割勝てる相手に使いたくない手なんだけどなあ」
4回表は先頭打者の今宮からというもってこいの打順。白縞がネクストサークルの前までわざわざ足を運び打席に入ろうとする今宮に向かって声をかけてバントのポーズ、これが史上初のバントだけで相手を圧倒する作戦開始のポーズだ。
今宮は無言でうんうんうなずくとその初球、電光石火のセーフティーバントを見せる。
だいたいの場所に転がすことを目標にしてたバント作戦だが、4月からみっちり3ヶ月もバントばかりしていると思った場所に転がすことができる。
三塁線ギリギリのラインに転がった打球を三塁手が拾ったころには、今宮はとっくに一塁ベースを駆け抜けていた。
「ヨッシャ、今宮!!」
白縞はまるで満塁ホームランを打ったかのように大きくな声をあげる。
2番平野も業師の異名通りに簡単にバントを決めて、1,2塁。3番島中は強打でここまで2安打だけに南太田工業ナインは誰もバントを警戒しておらず、前の二人と比べてだいぶ雑なバントだったが、それでも決まる。
これであっという間に満塁だ。
4番は白縞、作戦の発案者であり、責任者だ。
「僕も続くぞ! 満塁でスクイズしてくるとは相手は思ってもないだろ」
「いや白縞、お前は打てだ」
「え!? バント作戦は始まってるんですよ! 3バント成功の勢いにのり僕がバントをしないでどうするんですか!」
「だってお前バント下手だろ、満塁でフォースプレイだからホームゲッツーもあるぞ」
「……」
「監督はあくまでもオレだ、サインには従ってもらうぞ。思い切り振って満塁ホームラン打ってこい……」
「……」
白縞は意思を表明せず、主審に促されて早足で打席に向かう。
「言い出しっぺの僕が見本を見せなければ。ここで例え満塁ホームラン打って4得点を上げても流れはをそこで止まる。バントを成功させれば得点は1だが走者はいて流れは止まらんない。いくらでも得点は入る……バントするしかない」
白縞は予めバントの構えをする。相手バッテリーはまさか無死満塁で4番打者がスクイズを敢行してくるとは思ってもいない。
ただの揺さぶりの構えと見切って、そのつもりで初球を投じるが、白縞はバントの構えを辞めない。投球と同時に満塁の走者もスタートを切る。
もしも空振りなら三塁走者はホームで憤死。フライを打ち上げたら併殺どころか、三重殺もありえる。
セーフティスクイズ(打者が転がすのみて三塁走者はスタートを切る)もありえたが白縞は退路を断つために自らのサインでスタートを切らせた。
「あの馬鹿、監督の指示を無視どころか、勝手にサインまで出しやがって……」
川相は呆れ返るが、ここで結果を出すのが奇策の発案者であり責任者であり4番キャプテンの重責を担う白縞の役目だ。
白縞には重い責任がのしかかるが、それが重圧にはならない。
肩の力が抜けてあくまで自然体で練習のままにバントができる。
「あいつ、まるで練習のときのまんまだ……」
川相もそれと気づいたが、練習のままの自然体ということは……。
ポ~ン、白縞の、バントは虚しく投手前への小フライとなる。
「あ……」
思わず天を仰ぐ白縞、監督の指示を真っ向から無視した結果は最悪となる。
投手は前のめりに捕球。そのまま三塁へ送球、飛び出していた今宮はとっくにホームベース手前にいたため戻ることすらできない。
ダブルプレー。なんとかトリプルプレーは免れたが、無死満塁は一転、二死一、二塁となる。