ハッタリ
ノックサバイバルマッチ、勝ったのは意外にも横山だった。
「はあはあ、はあ……スタミナ不足……」
白縞はその場にへたり込んで息を整えるのに一苦労。
最初の方は白縞がリード。グラブ捌きの安定感と守備範囲の広さが目立っていたが、次第に疲労の色が見え始める。
「こんなに足にくるノックは始めてだ……はあはあ」
小嶋のノックの嫌らしさはまさしくそこにある。左右に大きく動かしたあとは前に出すボテボテのゴロととにかく振り幅の大きさで相手の体力を徐々に削りに来る。いつものようにノックを受けているつもりでもいつも以上に疲弊することになる。
白縞はまだ高校生の身分。体力はプロで何年もトレーニングした選手にまだ敵わないのか。
「プロが求めるのは技術だけじゃないぜ……新人! 技術を安定して出せる体力こそプロで成功する鍵だ……残念だったな、新人。横山みてみい、足腰の肉づきが違うだろ」
こうしてサバイバルマッチに破れ去った白縞は三軍練習試合初戦でベンチを温めることになる。
三軍に帯同している野手は14人。控えは5人のみ。白縞と同期の新人市島はベンチからのスタートとなる。
対戦相手は神奈川に本拠地を置く独立リーグ 横浜ベイサイドスターズ。昨年度の勝敗は2軍が勝率.550 三軍は勝率.400とどちらが格上かわからない数字だ。
さらにベイサイドスターズには注目の選手が何年かいる。
まずは4番の枝原、昨年までロケッツの主砲で待遇面で揉めて退団。さらには新人投手の川上は白縞が昨夏ベスト16で対戦した港南台付属の左腕投手だ。
「あの川上がプロから指名されないで僕がプロにいるとはな」
川上は最速143キロ出る左腕として大学からも引く手あまたであったが、早期のプロ入りを熱望して、一年でドラフト指名が解禁される独立リーグを選んだ。
川上もリリーフ役でブルペンからスタート。さらに注目の元ロケッツ枝原もスタメンにいない……なんとも見どころにない状況で試合は開始される。
「枝原は逃げたな……あのチキン……」
コーチの小嶋は枝原の大学の先輩でもあるためズバリな物言いができる。
「逃げた……ですか?」
「ああな……新人(白縞)。枝原はどうせこういうコメントを残す……元同僚の生き残りをかける3軍選手から打つのは申し訳ないし、同情して打たないのもまた相手に失礼……ならばあえて引いて、仲間の活躍をベンチから応援することにしたとかそれらしいコメント述べるぞ、あいつ。本心は格下相手から打てないと恥ずかしいからだろ……」
「有名ですもんねえ、枝原さんがええカッコシイ性分は」
「寒い2月の平日昼に集まった数百人の物好きの大半は枝原見たさで来たってのによ。だからあいつはウチを首になったあとどこも取らなかったんだよ。去年17本塁打打ったスラッガーが引取先なく独立リーグに転落って普通ありえねえしな……」
「独立リーグって年俸安いんでしたよね?」
「オレも戦力外になった一年だけいたが、プロ出身のオレでも月収20万でしかもシーズン中しか出ねえ」
「それって年俸240万の僕以下じゃないですか……枝原さん3億円プレイヤーだったのに……」
「だからプロ復帰したいなら練習試合でも大事なのによお……枝原のそういう性格を見透かされてどこの球団もスルーしたんだよ……プロ復帰なら3億は夢の数字でも実績からして5000万は相場っていうのによ」
白縞がプロの現実、社会の厳しさを嫌でも感じるなか、試合はハイペースに進んでいく。7回裏、遂に宿敵川上の登板である。
「あ、川上だ!!」
白縞は演技かかったジャスチャーを多分に加えながら叫ぶ。
「僕去年あいつの高校に勝ったんですよ!」
白縞はプロで大成するのは、図太い精神が第一であることを賢明にも気づいている。
ときには人を蹴落としでも……ときには嘘をついてでも……。
「逆転3ランホームラン打ったんですよ!!」
打ったのは前の打者である島中で白縞は手も足も出ずに三振に終わったにも関わらず、平気で嘘をついたわけだ。
県大会のベスト16の試合詳細などベンチは誰も知らないので嘘もばれない。
「白縞は去年試合で2本塁打しか打ってないと言うてたが、その1本が川上からなんか……」
3軍監督である山吉(64歳)はまんまと信じてしまって代打白縞を告げてしまう。
「横山も無安打だしちょうどええのお……」
「僕がいっていいですか!! 絶対打ちますから見ててください!!」
よし、プロ入り初打席だと白縞は本来威勢のいい台詞通りに意気込むべきなのだが。
「左腕が苦手……しかも川上相手には2打席2三振……。これで打てなかったら嘘つきだ。どうしよう……嘘だけはいけないよと母親にことあるごとに言われたのに」
ハッタリ上等でここまできたクセに、今更人間性を気にする白縞であった。




