5犠打目
春の県大会は予定通り、バント野球の手の内をほとんど見せずに初戦敗退した。
ほとんどと……限定したのも、1番今宮2番平野の業師コンビだけ現況のバント力を確かめるために積極的にバントを試みたからだ。2人で4出塁とのかなりの好結果を得た。
それ以外は普段着野球で挑み、主砲島中は2安打、エース河野は7回4失点とそこそこの結果を残した。一方4番でキャプテンの白縞は4打数無安打で送りバントも1回失敗と散々の結果だった。
この春大会期間、菊名投手コーチに託された近藤はいったいどんな投手に育てられてるのだろうか? 近藤はゴールデンウィーク明けにチームに帯同したが、「まだ投げるなと言われてる」の一点張りでベールを脱ぎたがらない。
あっという間に時間は過ぎて、夏の大会直前に。ついにバント野球と近藤の真価が明らかになるのか?
1番セカンド今宮 3年
2番ショート平野 1年
3番ファースト島中 3年
4番サード白縞 3年
5番キャッチャー弓岡 3年
6番センター山本 3年
7番レフト緒方 3年
8番ピッチャー河野 2年
9番ライト大久保 3年
左打ちは島中と山本と大久保のみ。
左投げ島中と山本のみ。
近藤を控えメンバーとしてベンチ入りを果たした。なお大会前に発行された神奈川県大会展望の雑誌で有望選手として名前が上がったのは島中と河野のみだった。
島中 スイング鋭い左打者
河野 130キロの178cm右腕
しかもごく短い評価である。
そしていよいよ大会初日、対戦校は同じ県立高校で8割勝てると川相と白縞が見切っている“南太田工業”だ。
南太田工業は再来年度で廃校が決まっているだけに野球部だけでなく、学校全体に活気は皆無。津浜側のスタンドもガラガラだが、南太田工業側はもっと酷く、野球部の友達らしいいかにもヤンチャそうな金髪の女子生徒が3人いるだけである。
ほぼ皆無のスタンドをバックにいよいよバント野球がお披露目か。
「今日はやらないのか、バント」
川相と白縞、これではどっちが監督だかわからない。
「やらないす、てゆうかできないっすよ、監督……相手の投手があれではねえ」
先攻は津浜で南太田工業の投手が先にマウンドに立つが、投球練習からしてシッチャカメッチャカでまるっきり制球できていない。
「立ってればフォアボール祭りっすよ」
「だな、ここで手の内をみせることはないか」
白縞の見立て通りフォアボール、フォアボール、フォアボールでいきなり無死満塁で打者はその白縞。
「よっしゃ思い切りフルスイングできるのは今日が最後かもしれないから思い切り打つぞ」
と意気込むがあえなく1塁側スタンドへのファウルフライに終わる。
4番キャプテンがこのザマでも打線はつながる。初回いきなり5得点でコールドゲームの目も出てきたが、津浜も投手と守備が不安との白縞の予想通り、取った分だけ吐き出してしまう。
「やっぱ、外野守備練習足りなかったか……」
外野に飛んだら最後、3人の外野たちは打球判断すらままならず、簡単に間を抜かれてしまう。
3回終わって8ー8の大乱戦。8割勝てると見下してた相手にこのざまである。
「あれ……えっとあの……弱小野球部を奇策で甲子園に導いた名将誕生物語はどこ?」
話が違うとばかりに目を白黒させる川相をよそに白縞はいまだに余裕たっぷりだ。
「ここまでは想定通り……取ったり取られたりでも最後うちが勝つ……」
「その根拠は?」
「……」
「ないのか……あー借金してまでプロにコーチング頼んだのに……ああー」