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39犠打目

「ははは……やっぱわかった? 絶対打たないだろうと思ってた。他の得点方法をずっと模索してた」

 白縞も幼馴染には正直だ。

「でもオレは打ったぜえー ドライチ確実の将来の日本の大エースから!!」


 あの矢坂から得点した事実にスタジアム中が大盛りあがり。ここまで来ると弱小が強豪を食う展開を否応なしに期待しだす。


 裏の攻撃も大久保がすべていい当たりされつつもことごとく守備の真正面にいく三者凡退。

 8回表のマウンドには矢坂は……いなかった。矢坂はライトに退避し、代わってマウンドに上がったのはサウスポー大西。


「よし! さすがの小山監督も矢坂は7回までか!(本来小山は投手の酷使を嫌うが監督解任をちらつかせた今、信念と外れる采配をするしかない) でもこの大西も……」

 白縞が憂慮するように大西も矢坂とまた違うタイプのとんでもない投手。

 サウスポーだけで津浜は見たくもないのに

おまけに腕の出どころはサイドハンド、高校野球には滅多にいない投げ方だ。


「あんなボールの軌道みたことないよ……打てるどころか……当てれるかだよ……8番河野……あいつじゃ無理だよなあ……9番大久保……河野より期待できるが、やっぱ無理か……1番今宮……こいつになんとかしてほしいが……ああ……」

 矢坂が降りてもなお難敵が注ぎ込まれる横浜星港の層の厚さに白縞は嘆くしかない。

 この投手陣を作り上げたのが部長としてベンチ入りしている岡島コーチ、小山の一個下で現役時代はバッテリーを組んだことも。

 とはいえ蜜月関係はなく投手育成能力に進捗がない小山に業を煮やした前監督がむりやりねじ込んだ人事だ。


 岡島は小山が解任されたあとの監候補筆頭でベンチでの二人の関係も当然微妙である。


「岡島部長……大西は次の回の2人目の左打者の島中までいこうか? 白縞からは右投手に……」


「小山監督、何度も協議したじゃないですか、試合中の采配には口出ししません。たとえ投手に関してでもです。負けた責任がこっちまでにも来たらたまったもんじゃないですし」

「そうだったな……」

 二人の微妙な関係はナインにも嫌でも波及する。

 矢坂以外の投手陣は岡島が作り上げたもので皆岡島信奉者である。

「大西、9回は島中までは行ってくれ」

「え? 島中までですか? 島中を切ってもツーアウトですよね……回終わりまで投げたいなあ……そんな信頼ないのかなあ……オレは岡島コーチの創作物だから信頼ないのかしたくないのかあ……」

 堂々と不満を口にしそれを小山もベンチの誰も咎めない。

 ベンチの雰囲気が不穏でも結局は勝つのが前監督からの星港の伝統とは、嫌なオーラは今にも心折れそうな津浜ナインに元気を与えてしまう。


「ふふふ、揉めろ揉めろ……揉めても勝つのが伝統? それは揉めても勝てる相手だっただけだ……津浜は違う! 僕は違う! 揉めたらそのスキをついて足元をすくってやる!」

 白縞は躁鬱状態に陥っている。イニングによって気持ちのアップ・ダウンが激しくなっている。


 8回裏星港の攻撃、1対1の終盤、本来なら監督の的確な指示で対戦経験のない投手攻略を図る状況だが、ナインは小山の言うことを聞くものと聞かないものに二分されているために一気呵成の攻撃とはならない。

 このイニング先頭打者が小山の指示に逆らい勝手に変化球狙いにいって凡退すれば、次の打者は小山の指示通りストレート待ちで凡退に倒れてしまう。まさにチグハグで雰囲気はより悪くなる。


 9回に突入、大西は平野島中を簡単に連続三振に取る。小山が伝令を飛ばし、主審に交代を告げに行く。大西はブツブツいいながらマウンドを降りる。見守るナインは小山派閥を含めて誰もこの采配に納得していない。


 交代であがるのはライトに退避してた矢坂でなく小泉……星港のクローザーである。

 必勝パターンであるが、ナインは白けたまま。

「小泉できてくれた……」

 対峙する白縞は鼻を思わずぷくうと広げる。

「小泉なら打てる……150キロと矢坂より遅いし大西のように変則でもないオーソドックスのタイプ……おまけにフォークスライダーカットツーシームと球種も豊富なコントロールも破綻がない……あれやっぱノーチャンスじゃん……」

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