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1犠打目

「バントで甲子園に行こう!!」


 まだ肌寒さが残る4月、神奈川県立津浜高校野球部3年でキャプテンの “白縞三択” は新校舎移転に伴う仮校舎増設でかなり手狭になったグラウンドに集まるナインに向かっていきなりそう宣言した。


「はい!? 急にわけのわからないこといいだして」

 狭いグラウンドにぎゅうぎゅうに押し込められた20数人の部員の中で、まず初めにケチをつけたのが3番打者でファーストを守る島中。彼は誰よりも気が強くてらいなく意見を述べるが、孤高の存在というわけでなく、それなりの信頼を部全体から集めている。


「そもそも大会で1回勝てばああ良かった〜ってなるレベルの高校で甲子園を目指すのが不可能なのに、それがバントでって……まともに捉えるのがムリ」


「だって、グラウンドがだいぶ狭くなったろ? これでどうやって効率的な練習するんだよ。サッカー部や陸上部と分け合うとマウンドとホームベース間を取るのがやっと。県立高校の悲しさで練習場を借りる費用もない。この状況でできるのはバント練習くらいだろ。ならバントを極めればいいだろ」


「極めるのは勝手だがそれでどう甲子園行けるんだよ」


「結論から言おう、高校生はみなバント処理が下手くそだ。プロみたいに緻密な練習が足りてないから強豪校だってミスを多発させる。それでもバントが失敗するのは、やる方もバントのスペシャリストではないという簡単な理屈。つまり、バントを自由自在に転がらせる技術さえあれば、いくらでも勝てる」


「バントって全員がやるのかよ」


「ああ、全員だ、よほど打てるやつ以外」


「オレはよほど打てるほうでいいのか?」


「島中は確かに3割を越す打力があるが、僕の計算上ではうまいバントは5割ヒットになる」


「は? オレにもバントやらせる? バントヒットはしょせん単打だろ? オレはホームラン……はそうでもないが二塁打は打てるぞ」


「相手守備が悪送球するから記録は単打だけど実質二塁打相当になるから、島中もバントしたほうがいい」



「は……つか、全部机上の理論すぎるだろ……まずは実戦で示してくださいよお、キャプテン」


「それもムリ、夏の大会まではバント野球の尻尾も出さない。相手が警戒するから」


「なら練習は? こんな弱小野球部誰もスパイにはこねえから」


「だから、いくらでも練習できる!」


 白縞は早速実戦とばかりに右打席に立ち、誰か自分に投球するように促す。


「いいか、今更だがバントの基本はこうだ!」


 マウンドに立ったのは2年生ながら背番号1を付ける178cm右腕河野。130キロとそこそこのスピードを誇る。


「河野! 思い切りスピードボールを投げてくれ! バントの大敵は球威とスピードだ! それに打ち克てば甲子園が見えてくる!」


「へーい……」


 受け答えはやる気のない河野だが、投げるボールは本気だ。白縞の胸元をそれなりの速球が襲う。

 白縞は予めとっていたバントの姿勢から、ボールにバントを合わせに行く。


 守っていた一塁の島中と三塁の緒方がそれに合わせてダッシュしてくる。


 ところだ、結論からいうと白縞は見本を見せると意気込んでいたわりに、虚しく失敗してしまう。


「やば……」

 

 球威を押し殺すことができずに、ボールは一塁方向への小飛球……。


 処理した一塁の島中は思わず失笑を浮かべる。

「で、キャプテンで今このざまで、どうやってバントのスペシャリスト集団になるんだ?」


「……夏の終りにはこう思うさ……最初の一歩は後退から始まったからかえって良かったって!!」


「……ずいぶんポジティブだな……まあでもどうせ勝っても一回戦なら乗ってやってもいいか……オレは絶対バントしねーけどな」


 バントで甲子園を目指すと豪語した津浜ナインに勝機はあるのか?

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