49.本当の魔法
走り出してすぐに違和感を感じた。
「あれ、なんかいつもより早く走ってないか?」
「いつもを知らないからわからないけど、たしかに魔力の動きが見えるから早くはなってると思うわ。その状態のまま戦えれば、常人よりはマシになるでしょ。ま、普段は今の、ピンチのときは魔法、みたいな使い分けでもしてみたら?」
俺はイーリアの提案に従い、半日間は足に魔力を集中させて走る練習をしていた。
だが、長い時間一つのことを続けていくとたいてい集中力は切れてくるものだ。俺もその例に漏れず、段々と走る速度が落ちているように感じられた。
「やっぱり、だんだん落ちてくるものよね」
いかにも分かっていたというふうに彼女は言った。
「分かっていたなら教えてくれたらよかったじゃないか!」
俺は彼女に強めの語気でそう言った。最初から言われるのと後から言われるのでは心持ちも変わるものだ。
だが、彼女も彼女なりの言い分があるようで、負けじと言い返してくる。
「さすがに、ずっと走ってたらスピードが落ちていくことくらい考えればわかるでしょう。それに初めから限界を教えていたら、余力を残そうとするでしょ?魔力は使い切ることが大事なの!」
俺には深くわからない魔力という概念を持ち出されては仕方がない。なんかどこかで聞いたことがあるような言葉ではあるが、おれは彼女の言葉に耳を傾けることにした。たしかに限界というかゴールを知っていれば、そこにちょうどたどり着くような力の出し方をしてしまうことも事実だからだ。彼女は続ける。
「その足に魔力を集中させていることだけならほとんどの魔力は消費されていないはずよ。だから、少し違う練習もしていくわ」
そうして、彼女がいう違う練習が始まった。
「1番大事なのは手の先に力を集めることじゃなくて、イメージよ。今からこんな現象を起こすっていうのを具体的にね。一応付け加えておくと、魔力の消費はさっきよりは速くなるはずだから」
彼女に最初言われたことを思ったようにできない俺はより詳しいアドバイスを彼女から貰っていた。
言われた通りにやってみると、虚空に雷光が走った。
「おおっ!」
思わず驚嘆の声が漏れた。さっきまでやっていた訓練では魔法というものをうまく感じることができなかったが、実際に魔法を実感できたからだ。
「ま、一日目でこれだけど魔力量を発言できたら上出来ね。重力魔法は難しいし、当分はこの練習の繰り返しね」
そうして、毎日剣を振り、魔力を使い切るまで魔法を使い続ける日々が三日ほど続いた。