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呪われ少女は不幸になりたい  作者: こめぴ
呪いの真実
41/41

最終冊『呪われ少女は不幸になりたい』

あとがき


 初めましての方は初めまして。前作、前々作に続きお手に取ってくださった方は、ありがとうございます。立川四葉です。


 まず初めに、今作を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


 はい、今作を読んでくださった方は、お気づきかと思います。そうです、立川四葉です。幸せを感じると死ぬ呪いにかけられ、水流夏樹の恋人であった、立川四葉です。


 単刀直入に申しますと、今作は私の実体験に基づいたノンフィクションとなっています。

 はい、わかっています、信じられるようなことではないと。しかし誰がなんと言おうと、信じようと信じまいと、これが事実なのです。


 ただ、まだ編集さんに送る前ですので、このあとがきも変えられるかも知れませんが――もしこれを読まれているのなら、嬉しく思います。


 私は今作を書くにあたって、過去を見つめ直すとともに、幸せについて深く考えることになりました。


 幸せとはなんでしょう。不幸とは、なんなのでしょう。


 書きながら考えに考え、出した結論は、『わからない』といったものでした。

 人それぞれ違う。私の幸せも、読者様方の幸せも、それぞれ違うものです。また不幸もそれに同じです。


 ですから人に自分の幸せを強制することはできません。ですが――願うくらいなら、できるのではないかと思っています。


 ここまでご拝読、ありがとうございました。皆様方の幸せを、それがどんな幸せの形であれ、私は願っております。


 長々となりましたが最後に、作中冒頭の私のセリフにて締めようと思います。




 これは物語の話ではありません。これは――私自身の話です。


                  立川 四葉』




「ふぅ……」


 そこまで書ききって、四葉は一つ嘆息。そしてそっとノートパソコンを閉じた。

 ちょうど昼時。外から白い光が差し込むリビングで、四葉はぐっと上に伸びをする。そして眼鏡を外しまた一息。


 肩あたりまでのボブカットが揺れる。


 高校の時は背中辺りまであった長い髪も、大学に上がるタイミングで切ってしまった。それと同時に、もともと読書ばかりしていた四葉は、自分でも小説を書き始めたのだ。

 いろいろあって本も出した。今書き終わったのは三作目になる。


 ノートパソコンの隣にあるスマホを付けてみれば、もう一二時。今日書き出してからすでに四時間が経っていた。


「そんなに書いてたのね……」

「お疲れ、四葉」

「……!」


 声と同時にカタンとコーヒーが机に置かれ、四葉はピクンと肩を跳ねさせた。そして振り向いて笑みを浮かべ、



「ありがとう――夏樹君」



 ()に向かって、そう笑いかけた。


「ずいぶん集中してたな。もう終わったのか?」

「ええ、全部書き切ったわ。あとは見直して、編集さんに送らないと」

「…………それ、本当に出すのか?」

「あら、どうして?」


 いや、ダメなわけじゃない。でもなと思ってしまう。

 四葉が何を書いているか、俺は事前に聞いていた。


 つまり、俺と四葉のノンフィクション。四葉の呪いの物語。


「四葉はいいのか? その……呪いのこと」

「私は構わないけれど。どうせあなた視点の話ですもの。楽しかったわよ? あの時あなたがどんなことを考えていたのか、全部知れたし」

「やめろ。やめてください」


 その小説を書くにあたって、四葉はあの時のことについて俺を質問攻めにした。いや別に四葉主人公にすればいいじゃないかと言ったけど、どうしても俺がいいと。だから俺は赤面しながら一から一〇まで、あらゆることを話すことになってしまった。


「あら、私は嬉しかったけれどね」


 そう言ってクスクス笑う彼女を見ていると、怒るに怒れない。

 だから俺は、コーヒーに口をつける四葉に、呆れたようなため息を漏らすことしかできなかった。


「ていうかいいのか? 最後」

「最後?」

「いや、終わり方だよ」


 尋ねてみても四葉は首を傾げるだけだ。


「いや俺は小説はあまり知らないけどさ。終わり、急じゃないかって」


 四葉の小説では俺の意識がなくなったところで終わっていた。そのあと俺がどうなったかも、四葉の呪いがどうなったかも、何もない。そんなふわふわした状態で終わっていいものなのだろうか。


「でも書いてもつまらないでしょう? 結局、何も起こらなかった(・・・・・・・・・)なんて」


 まあ、それもそうかと納得した。


 事実、何もなかった、何も起こらなかったのだ。

 俺はあの時意識を失って、次の日、普通に自分のベッドで目覚めた。死にもしなかった。俺としては良かったけど、当時は逆にかなり混乱した。

 そして四葉はというと、呪いは消えていた。きれいさっぱりにだ。


 小説にすればハッピーエンド。しかし四葉は「あまりにも拍子抜けでしょう」とそこを書こうとしなかった。


「それに……そこから先は、私たち二人の秘密にしたかったのよ」


 彼女はコーヒーカップを両手で持ち、水面を見つめながらしみじみと呟いた。


「呪いもなくなって、普通に過ごして。大学受験もなんとか突破して。それに、こうやって一緒に住むのなんて、想像もできなかったから」

「まあ、な……」


 二人して視線を向けた、四葉の家の中のリビング。そこにはもう、前のように血痕はなかった。


 大学合格して、少し落ち着いて。その辺りで二人で住むことになった時に全部掃除したのだ。流石に年月が経ちすぎて落ちなかった部分もあったが、かなりきれいになった。


 ……俺としては、四葉と同棲することになったのが本当に信じられない。


「誘われた時はかなり驚いたぞ。なんせ急だったから」

「前に一度聞いたじゃない」

「初めて四葉の家に行った時か? あんなのわかるわけないだろ……」


 普通はただからかってるだけと思うに違いない。実際俺もそうだった。でもあれやこれやと流されるままくれば、気がつけば四葉と同棲していた。


 まあ、俺も嫌じゃないからいいけどさ。


 自分の分のコーヒーを持って四葉の隣の椅子に腰掛ける。一口飲み込み、二人揃ってほぅ……と息を吐いた。


 平日の昼間。今日は二人とも講義もなく、並んで穏やかな時間を過ごして。


「ああ、不幸ね」


 不意に、四葉がそう言った。


「……それ、もういいんじゃないか?」

「それって?」

「ほら、その『不幸ね』ってやつだよ」


 それはもともと四葉の口癖だった。呪いのせいで幸せと感じてはいけなかった四葉は、自分に言い聞かせるためにそう唱えていたのだ。

 俺が呪いを受け入れてからその口癖は減ったけど、呪いが消えてからはまた増えてしまった。


「別に今は幸せなら幸せでいいだろ?」

「まあ、そうかもそれないけど」


 なら――そう、口にしようとすると、それを遮るように四葉が「でもね」と続けた。


「これは、忘れないための『呪文』なのよ」


 そう言って彼女は、コーヒーカップの縁をつつと撫でる。


「呪文?」

「ええ、『呪文』」

「忘れないって、何をだよ」

「あなたを一度、死なせてしまったこと」


 ついため息をこぼしてしまった。

 あれはもう終わった話だ。あの四葉に認めてくれと迫った時、あそこで全て解決したはずなんだ。


「俺は気にしてないのに」

「そういう問題じゃないでしょう」

「別に思い詰める必要はないんだぞ?」

「思い詰めてるわけじゃないわ」


 再びため息。こういう時の四葉は絶対に譲らない。何度もいいと言ってるのに、これは私の問題だからと取り付く島もないのだ。


「それに、八年もしていた習慣がすぐに取れるわけないでしょ?」


 まあ、それはそうだけど。

 なんだか納得がいかない俺に、四葉はやはり優しげに笑いかけた。


「私にとって、幸せと不幸は同義だった」


 穏やかな昼の空気にコーヒーの香りが漂って。


「その感覚はもうずっと、体に染み付いて取れることはないと思う」


 彼女の黒真珠のような瞳は俺を映して。


「でも私は、幸せになりたいから。幸せであるから」


 昼時の淡い光が、彼女を照らし。




「だから私は不幸でいたいの。――不幸になりたいのよ」




 四葉は、自由な笑顔を浮かべていたのだ。







『呪われ少女は不幸になりたい』完


後書きです。

今度こそ本当のあとがきです。

『呪われ少女は不幸になりたい』、最後まで読んでくださりありがとうございました。これにて完結でございます。

「とにかくヒロインを○したい」というぶっ飛んだ欲求のもと、書き出したにしてはなかなかいいものができたのではとは思ってます。


最後までご拝読、ありがとうございました


よろしければ最後に、評価や今作の感想などお聞かせください。



また別の作品でお会いいたしましょう。



『呪われ少女は不幸になりたい』作者、こめぴでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬあああ!!!(二度目) [一言] あがいてあがいて、絶望して、死を受容して。 それでも、最後の最後でふわりと救い上げられる。 素晴らしい読後感でした。
[良い点] ラストにあとがきと出たとき、『ええ?!』ってなりました。 すっかり騙されました(笑) ラストに向けたの怒涛の展開は、涙なしには読めませんでした。 毎日の楽しみでした! 本当に面白かったで…
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