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「ヒャッハー!!」


一度これを言ってみたかったんだよ!

Tシャツにジーンズ、ハーフヘルメットのシンプルな恰好なのが残念だが、荒くれ者感はこれで多少出てるのではないだろうか?

暑さを理由に革ジャンを着なかったのは許してほしいね。

勾配や走行を阻害する小石などが少ないのがより一層バイクの進みを加速させる。


家の周囲は人通りが多い所が殆どだったので、かなり乗るのに気を使っていた。

バイクの爆音もさておき、こんな声を上げるとまず間違いなく変人扱いになり住みづらくなってしまう。

唯一気兼ねなく乗れる場所が近くの高架下だったのだが最近は住所不定の方々がいらっしゃるのでそこも行きにくくなってしまった。

この世界は道の作りは荒いものの、その辺の憂いが無いのがなんだかとても嬉しい。



その後、数キロ程走ったが未だに人里などは発見できなかった。

都度都度スマホを除いたりもしたが遂に地図すら表示されなくなり、

丸い点が中心に存在するのみとなった。


荒野の中にただ一人走る様は、世界で取り残されたような寂しさが押し寄せてくるものの

地平線の先まで続く荒れ果てた道をただひたすらバイクで走っているだけでとてつもない解放感があった。

まるで映画の中に飛び込んだような情景に、今までの生活で閉塞していた気持ちがどこかへ消え去っていく。

今、ここには何もないが不思議と何でも出来る気がする。

昔みた冒険映画のヒーローもこんな気分だったのだろうか?


良く見た映画とかだとこういうシーンって唐突に横から悪者がいきなり攻撃してきて妨害をするのがお約束だよな。

オープニングが終わり、イントロダクション的な話があった後、現地へ移動する最中に悪役が登場する。

とにかく派手な妨害をすることで観客に分かりやすく印象付けするポピュラーな手法だ。


考えてはいけないと思いつつも物語のような世界に飛び込んだ手前、そうしたお約束は回避できないかもなと思っていると後方からエンジン音を遥かにしのぐ爆音が迫ってきていた。

波打つようなうねりを持った音は鞭のようにアキラの耳を刺激し、心音を加速させる。

こんな音を出すものがこの世界にあるのだろうか?

かすかな煽り風を背中に感じつつ、サイドミラーを覗いてみると……


「ド……ドラゴン!!?」


小さなミラーの面一杯にメタルCDで馴染みのあるドラゴンらしき物体が映っていた。

ダンプカー程の大きさの体で羽を大きく羽ばたかせじわりじわりとこちらとの距離を縮めてくる。

黒い鱗で覆われた体は嫌な光を放っており、ギラついた瞳がこちらを見つめていた。


「あれって想像上の生き物じゃなかったのかよ!」


まだトリロジーが出来るほどこの世界での物語を作ってないのにこんなラスボス的なものと早々に遭遇するとは!


ロブ君の速度を上げてなんとか巻こうと走るが、

まるでけん引しているかのような動きで引き離すことが出来ない。

かすかに後方から先ほどとは違う音が聞こえたのでサイドミラーを確認すると、

ドラゴンの口に紅い塊が作られており、まさにそれが吐き出されようとしていた。


「やっぱり火も吐くんかーーーー!」

どこまでもこちらの想像している生き物のようだ。


こちらへの攻撃と判断しハンドルを右に切っていく。

その僅か数秒後にドラゴンの吐いた塊が居た場所に衝突し爆風が押し寄せた。

バランスを崩しそうになるが何とかこらえ、ハンドルを回し走り続ける。

(車体重量が無かったら危なかった……、原付だったら飛んでたかもな。

ロブ君に無理させるんじゃねーよ!!!)


判断が遅ければ真っ黒に日焼けしていたかも知れない。

ロブ君の安定感に感謝はするが、何度も運よく避けきれるとは思えない。


何とか逃げ切らなくては!


焦りで心拍数が上がる中、進行先に黒い口を開けた洞窟らしきものが見えた。

距離があるので掴みづらいが漆黒に近いそこはやや幅があるもののドラゴンが入るには狭いように見える。


「ええいままよ!」


中が安全とは限らないがこのままではどちらにせよ終わってしまう。

なるべく洞窟内手前で止まれるようターンの姿勢を整えつつ

激しく地面を削る音と共に洞窟内へと滑り込んだ。

すぐさま中で見つけた近くの岩陰にロブ君と共に隠れるとエンジンを切り息を殺した。


頼むから気まぐれで追いかけただけであってくれ。

アキラは存在するかどうかもわからないこの世界の神に祈りを捧げると、

頭を抱えてうずくまった。

その刹那、入り口から凄まじい風が押し寄せ洞窟の中へと外気が押し込まれていく。

バチバチと砂が岩に当たる音が暫く続いたが、砂を運んだ風が収まった後、一変して静寂が訪れた。


「行ったか……?」


耳を凝らすが先ほどまで聞こえていた暴音も聞こえず、

風が吹いているような気配も無い。

追いかけられないとわかり諦めたのだろうか。

立ち上がり入り口を覗いていたアキラは

岩に背を押し付けるとよろよろと地面に座り込み、呼吸を整える。

人生色々あったが死とここまで直面したのは初めてだ。


「言ってた以上にファンタジーな世界じゃないか、とても並行世界とは思えないな」


女神はここを並行世界と言っていたが、元居た世界の分岐とは思えない程の体験だ。

もし並行世界とするならここは地球なはずだ。

行った事はないが勝手なイメージで言ってしまえばこんな荒野があるのは海外だろう、

そして実は俺が知らないだけで海外ではドラゴンがいるのが当たり前だったのだろうか?

インターネットの世界でもそんな情報は見た事がない、もしかして何かの理由で俺だけその存在が知らされていなかったとか?


そんな事してなんの意味があるんだよ……


錯乱した頭を落ち着かせたい一心で何とか納得できる理由を模索する。

が、いくら考えてもとうてい納得のいく結論に達することが出来なかった。

魔神達のもたらした魔法というのはここまで世界を変化させるのだろうか。

なんとか死なないように安全な場所にたどり着かないと……


鉄のように重い体を気合で起こすと、

ドラゴンが近くにいないかを確認に入り口に向かおうとする。

念のためと思いロブ君のエンジンをかけた瞬間、


『早く出ないと死ぬぞ……』


頭の中に声が響いた。

別の物事に気を取られすぎていて、入る直前まで気になっていた洞窟の奥がどうなっているかわからない事を今思いだした。

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