表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/43

1

光に包まれたかと思った次の瞬間、壁らしきものに衝突した。

粉のような感触が唇に(まと)わりつく、

重力から察するにどうやら地面と濃厚なキスをしたようだ。


唇についた赤みがかった砂を払うとアキラは立ち上がり周囲を確認する。

かすかな風が砂を運び擦れる音がするのみでほぼ無音の空間に近く、

まるで西部劇の舞台のような枯れた大地の中心に一人ポツンと佇んでいた。

人類最後の1人というどころか生物最後と言えるような雰囲気で、

辺りを見渡すが文明的な物は何一つ見当たらなかった。


遠くに鳥のようなものが飛んでいるのが微かに見える程度で、

雲一つない空は今まで見たものよりも高い気がする。


ふと気が付いたように体に異常無いか手を使ってあちらこちらと確認をしてみたが痛い所などは特になく、

逆に手の一部と化していた楽器の練習ダコが無くなっている事に気がついた。


あの女神の言った通りになったのだろうか?


半信半疑ではあったが先ほどまでいた場所と異なる場所に来たという事に

聞いていた話が真実だと実感する。


なんてことだ。

アキラは感情の高ぶりを隠すこともせず、拳を握り正面に突き出すと


「ここがこれから俺がゴッドとなる地か!」


声高らかに叫んだ。


女神との話し合いの末、この世界に来る事を望んだ。

不安が無いとは言えないが、新たな一歩を踏み出せた喜びの方が勝っていた。


聞いた話では文明の発達が異なるこの地では、

音楽が無いわけではないが、まだ爛熟期(らんじゅくき )にほど遠くジャンルの乱造も起こっていない。


やり方次第ではメタルが世界の第一党となる事も夢ではないのだ。


この世界とは違う世界から来たアキラは、

前世界ではうだつが上がらないミュージシャンをやっていた。


いつか日の目を見れることを信じて頑張ってきたが現実は厳しく、

焦心の日々を過ごしている際にある場所で女神に声をかけられた。


【別世界は音楽不毛地帯、そこなら音楽の始祖になれるかもね!】

【なんと即決の場合は嬉しい特典もついてます、金利手数料一切不要!】


全ての芸術で言える事だが

凄まじい先人のいる世界で名を馳せるのは並の努力では成し得ない。


努力するものの上手くいかず、くすぶっていたアキラにとって

未知の世界での活動は険しい道だが可能性を見出すには十分だった。

決してこちらの方がワンチャンあるかもと思っただけが理由では無い、多分。


「待ってろよー!!!かならず俺のサウンドで悶絶させてやるからなー!!」


山の上でヤッホーと叫ぶような声で広大な大地に向けて言葉を発した。

反響するような物は見当たらないのだが、心なしか世界のアンサーが返ってきたような気もする。


どちらにしてもまずはこの世界の事を知らなくてはならない。

今のアキラは目隠しをされて知らない場所に連れてこられたように土地勘もなく、

ましてや世界も違うので文化などもサッパリである。

言語が通じるかはわからないが、とりあえず現地の人に話を聞きたいのだが・・・


「人類はどこーーーー!?」


西部劇でおなじみ、コロコロとよく言われるタンブルウィードのようなものが

まさにコロコロと風を受けて転がっており、

人どころか動物の気配すらない。


下手したら数キロ圏内レベルで生命が存在しなさそうだ。


「いくら転生を見られるわけにはいかないっていってもさぁ」


無事転生できたのはいいがある程度の文明が近場にないと流石に生きていくには厳しい。

サバイバル番組のような都合のよい環境ではない為、ヒントすら見つける事も叶わないし

女神から特典を貰った身といえど不死身ではないし腹も減るのだ。


「無理だとは思うけど地図アプリでも見てみるかなぁ……」


女神から貰った特典の1つである無限袋(アキラ命名:インフィー君)に手を突っ込むと、

頭の中でスマホをイメージして手を引き抜いた。


手にはスマホがしっかりと握られており、これでインフィー君の機能を再度確認する事が出来た。


「どういう理屈かはわからんが本当に凄いな、これ」


転生前の持ち物を収納するため貰ったインフィー君は、入れても入れても一杯になる事は無かった。

そもそもサコッシュ程度の外観にも関わらずギターやらドラムやらを放り込む事が出来たのだから、

どこぞやの多次元ポケットと同じような仕組みなのだろう。


壊れた様子も無く、いつも通り画面が明るく表示される。

スマホは使うことは出来たのだが、当然というか圏外となっており

地図アプリのGPS地点も転生前の場所で止まっている。


「勢いで来ちゃったけどもう少し細かい話聞いときゃよかったな」


テンションや好奇心が先行して、ろくにこの世界について質問もせず来てしまった事に少し後悔したが、

いまさら言っても仕方ない。


手元で情報を仕入れる事が出来ない以上、足で稼ぐしかないよな。

本当はこんな環境では使いたくないのだが仕方ない。


インフィー君の口を地面に向けてイメージを固めると、

そこからクルーザーバイク(ロブ君)を叩き出した。

ほんとすげぇなインフィー君……


神と呼ばれるアーティストが乗っている姿がかっこよく、かなり高かったが勢いで買ってしまった。

サイズや音量の問題で向こうでは余り乗る機会に恵まれなかったけど

こちらでは有効に活用できると思い連れてきたけど正解だったかな。

こんな大きな物がインフィー君に入っていく様は異様としか言いようがなかったが

この際どうでもいい話だ。


なるべく小石の少ない平らな場所に手押しで移動し本体周りを確認する。

来る前に悪路を想定してタイヤも変えておいて良かった。

流石に別世界に舗装された道路があるとは思えず、悪路用に切り替えておいた。

車体的には適さない環境ではあるが贅沢は言えないので、出来る限りの補強もしておいた。


「何処かでガソリンが調達できるといいけど、まぁその時はその時か」


この世界ではガソリンが存在しないかもしれない、というか基はあっても精製の技術が無い気がする。

その場合はガス欠になる前に別の移動手段を用意しないとな、

このロブ君以上にかっこよくないと嫌だけど。


「さーって、お願いだから近くに人里があってくれよ!」


アキラはエンジンをかけると爆音と共に荒野を進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ