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~NWODHM~ 新流異世界メタル

「なにがあったって言うんだ……」

ムネタカは眼前に広がる光景を前に、消え入りそうな声で呟いた。


山の中腹(ちゅうふく)にある採石場は伝え聞いた話とは程遠く閑散(かんさん)としており、建物の影は無く、地は自然さとは異なる違和感をもって荒涼(こうりょう)としていた。

山麗(さんろく)の一部はえぐられたような跡を残して消失し、地面のクレーターは足の運びを慎重にさせる。


「微かに魔力が残っているわ、パスクアの雷撃によるものかも」


レイナがクレーターに触れながら答える。

魔法遣いである彼女は魔法の痕跡を見つける事が出来る。

本人が言うには何となく感じる程度だそうだが、そこから想定以上の分析結果をあげてくるのでムネタカ的には何となくどころではないのではと思っている。


「危険を承知で来るべきだったかもな」


ムネタカの元に巨人パスクアと魔物達の情報が入ったのが3日前、現在拠点としている所に届いた新着案件で、アラン採石場を領地にもつ領主からの依頼だった。

もともとそれほど魔物が寄り付かない平和な地域だった事もあり、さしたる防衛力も持っていなかったアラン採石場から最近、魔力を含んだ石が発掘されたとの噂が流れた。


何処から聞きつけたのだろうか、噂の出始めから時を置かずして魔物が大量に押し寄せてきた。

突如の襲来により、もとより防衛力に乏しいアラン採石場はなすすべもなく蹂躙じゅうりんされ、魔物たちに占拠されてしまった。


領主は私兵を投じて奪還を試みたが魔物の中には魔神直属の配下【巨人パスクア】の姿があり、物理的な攻撃力もさながら、パスクアの得意とする広範囲の雷撃魔法により、数多くの者が命を落とした。

幸いと言うべきかは難しい所だが採石場の占拠後は更なる侵略をせず、こう着状態が続いている。


「あれだけの雷鳴に、深夜でも出立しようだなんてバカのする事よ。少なくとも勇者のする事じゃないわ」


こちらに利点の無い限り、夜間の戦闘は避けたい。

アラン採石場付近に夜に到着したこともあり、籠城(ろうじょう)を続けると予想した一行(いっこう)は採石場の付近に野営をし、翌日より攻略を開始するはずだった。


はやる気持ちを抑えながら時を待つ中、耳をつんざく激しい雷鳴に、飛び出すムネタカを押しとどめたのはレイナだ。


「こんな所に()(さん)じまするー! なんて勢いで来たらとばっちりで(ちり)になってたわよ、間違いなく」


(はす)を連想させる穴まみれとなった地面の端は大きく崩れ、(ふもと)まで土砂が木々を巻き込みながら滑っている。

上からは崩れた木々や土に阻まれ、状況を確認することが出来ないが被害は甚大(じんだい)だろう。


「おーい! そっちはどうだー!?」


近辺の確認に出ていたジャックが大きな声でこちらに向かってくる。


「採石場の中には魔物1匹いやしねぇ、一体どこに行ったんだあいつらは?」


レンジャーである彼が気配を感じないという事は魔物達はこの辺りからは撤退をしてしまったようだ。


「この場所での目的を果たし、証拠隠滅の為に周囲を破壊していたとしか思えない」


この採石場で何かを探していたことは籠城していたことから大よその推測は出来る。

噂の魔石を探していたのだろうか、目的の物を見つけ出しその痕跡が出ないよう周囲を破壊した……


徒労(とろう)に終わっちまったなぁ……、これからどうするよ?」


「一先ず領主には魔物がいなくなったことを報告しよう、不本意だが戦いの末撤退と伝えれば彼らも安心するだろう。それとレイナ!」


「わかっているわ、もう採取済みよ」


袋に入れたクレーターの一部の土を見せるとアイテムボックスに投げ入れる。


「戻り次第すぐに解析して耐性魔法を研究するわ」


鼻息荒く答えると、そそくさと荷物をまとめ来た道を戻りだす。

手に入れたサンプルを早々に調べたくて堪らないのだろう、今までの速度とは違う歩みを見せている。


かく言う自分も早く戻って鍛錬を行いたい。

知っている地域だけかも知れないが、前の世界と違ってこの世界では簡単に人は死ぬ。

生殺与奪(せいさつよだつ)、魔物による殺戮(さつりく)、病など比べ物にならない。

別の世界より呼ばれ、神の恩恵を受けているとはいえこの世界で死ぬ事は無いとは言えない。

ましてやあのような採石場の有様を見た後だと、この先パスクアと戦う時ただでは済まないのは明白だ。


(必ず勝つ!その為にも鍛錬(たんれん)しなくては……)


ムネタカはもう一度周囲を目に焼き付けるとその場を後にした。



『なにがあったと言うのだ……』

パスクアは眼前に広がる光景を前に、消え入りそうな声で呟いた。


光景と言うにも視界の大半が暗く閉ざされ、目を開けているとも言い難い。

中腹から飛ばされ、崩れる土砂と共に埋もれたパスクアは死にゆく中、自分の発言を後悔していた。


(これほどの力があったとは、我はなんと浅はかだったのだ)


豪雨のように降り注ぐ衝撃に打たれ、四肢が無事かどうかももはや感覚が無いためわからない。

毎日のように手入れをしていた鋼のような剛毛も役に立たなかったようだ。


今まで数多の人間族と戦ってきたが傷を負わされた事など覚えていない。

パスクアはただ繰り返される脆弱な生物との戯れ(たわむれ)に飽きていた。

飽きたと言えど命令に背く事も出来ず、嫌でもやらなくてはいけないのが配下の辛い所だ。

せめてこの渇きを潤す者が現れて欲しい、何か好奇心を刺激する面白いことをして欲しい。

期待を込めて戯れ(たわむれ)の際は暫く相手の様子を伺う事にした。

特殊な武器や魔法を使う者、罠などを張り巡らせる者など中々楽しめはしたがやはり傷一つ負うことが出来なかった。


そんなある日、神よりアラン採石場攻略の命を受けた。

何やら欲しい物があるという事で言われるままに現地に赴き(おもむき)、淡々と使命を果たした。

この頃には襲ってくる者で珍しい事をする者もいなくなり、一層飽きが濃くなってきた。


そこに偶然、珍しい物を手に持つ者が現れた。

どうせ期待外れなんだろうと思いつつ、発破(はっぱ)をかけ暫く様子を見るか……、

そう思った結果がこれだ。


いつも通りの退屈な戯れ《たわむれ》があるだけと思っていた、まさか自分が逆の立場(あそばれるがわ)になろうとは。

あぁわが神よ、せめてもう一度チャンスがあるならばその時は必ず……


パスクアは押し寄せる睡魔に瞼の下がりが止まらず、そのまま夢の泥濘(ぬかるみ)に飲み込まれていった。



「あれー?何があったん?」

ラシェルは眼前に広がる光景を前に、状況を飲み込めず聞いてみた。


離れた場所で激しい雷の音を聞き、採掘でも始めたのかなと思ったが、音の方を向くと視界に飛び込んで来たのは猿のような巨人だった。


暗がりで視界が悪く着くのに時間がかかったが、着いた時には猿のような巨人など魔物の姿は無く、荒れ果てた地面だけが物言わぬオーディエンスとして佇んでいた。


「あぁ……やっぱり駄目だったのかよ……。口だけかよ糞ったれ!」

アキラは愛用のアンプ付きギター(ペグノン君)を抱えたまま地団駄(じだんだ)を踏んだ。


「雷の耐性があるから無意味だの、そのような物で我に立ち向かうのかだの……見た目に反して口が達者すぎんだろ」

ちょうどいい具合に突き出た岩によっこらしょと登山帰りの老人のように腰かけると、深いため息をつき地面を見つめる。


「今度は何を(()った)んよ?えらい光まくってたけど」


「どこぞの大物が言ったような意味にするな、(()った)だ(()った)」


テンションは上がっていたものの一抹の不安を覚えたアキラは音量控えめのアンプ内蔵型でパフォーマンスを行ったが結果はこの様だ。


「本当に要らない要素を付け加えやがってあのファッキン女神め……、だが!!」

アキラはペグノン君を地面に叩きつけた反動で立ち上がると天に向かってメロイックサインを突き付ける。


「俺は必ずこの世界で神となる!世界を騒がすのは魔神じゃない、メタルゴッドとなる俺だ!」


痙攣(けいれん)するほどに背筋を伸ばしポーズを決めたアキラだが、ランプを掲げたラシェルの目にはミステリーサークルを前にUFOを呼ぶ怪しげな男にしか見えなかった。

自己満で書いてます、とりあえず書き切ることだけを目標に頑張ります。

(訴えられなければ)

暫くは毎日朝7時更新予定、20回分ぐらいは書いているので20日は続きます

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