アイテムとかもらい出すと本格的にヒモっぽい
同居開始二日目。
昨夜は、今後僕の私室になるって通された部屋の、あまりの広さと沈み込むようなふかふかのベッドが落ち着かずなかなか寝られなかったのに、いつもの癖で夜明け頃には起きてしまった。あのボロ長屋の隙間風に震えて眠るのと比べたら天と地の環境なんだけどこっちの方が現状落ち着かない自分が悲しい。いつもなら夜明けと同時に街に日雇いのつまらない仕事に出るか、装備の点検をして迷宮にいくんだけど……。
エリザとは強さが違い過ぎるから迷宮に冒険に一緒に出るのは無理だとしても、せめて今までと同じ魔石集めくらいはしよう。そうじゃないと本当にただの穀潰しになっちゃうし。なんてことを考えながら迷宮に持っていく一式を整備しているうちに、鐘楼から朝の六つの音が聞こえてきた。
「おはようございます、ケイン様」
自室のドアを開けると、外に控えていた美人のメイドさんに恭しく挨拶された。
「お、おはようございます」
「朝食の準備ができていますが、いかがなさいますか?」
その時、ちょうど僕のお腹がくぅ~となった。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「おはよう」
メイドさんの先導で昨日夕食を摂ったのと同じ食堂に連れていかれた。そこにいたエリザは、まだ食事を摂った形跡がない。どうやら僕を待っていたらしい。早朝なのにエリザは髪も綺麗に梳かし、自然な範囲だがうっすら化粧もしている。
昨日のことがあって若干気恥ずかしいけど、普通に挨拶し、食卓に着く。
まもなく運ばれてきた豪勢な朝食を二人で食べて始める。
「私はギルドの指名依頼があるからお仕事に行かないといけないんだけど、お兄ちゃんは今日どうしたい?」
「どうするって……何もせずにここでダラダラ過ごしてるのもなんだからひとりで迷宮にでも……」
「えっ…!? 迷宮……!?」
カラン、とエリザの手からスプーンが落ちた。
「……って、迷宮なんかに入ってお兄ちゃんに何かあったらどうするの!? 絶対ダメだよ!」
「ええ……」
結構な勢いで否定されて怯んでしまった。
「まぁそりゃエリザと一緒に冒険者として迷宮の危ない深部に行くのは無理だけどさ、流石に何もしないわけにはいかないよ。それに僕に自由にしてほしいって言ってたでしょ」
「そ、それは言ったけどぉ……」
ぐぬぬ、って感じの顔もかわいいなぁ。
「……! とりあえず朝ごはん食べてから話そう!」
何か思いついた顔でそう言って、控えていたメイドさんに何かを耳打ちしている。なんか良くないことの予感がするんだけど。
「私が責任を持ってお兄ちゃんが迷宮に行く準備をしました!」
「えぇ……」
別室にあったのは、エンチャントされたミスリル製の見事なバスタードソードとバックラー、鎖帷子——塗料で黒く塗られてはいるけど、魔力を感じるのでこれもエンチャントされた素材だろう。癒しの神聖魔法の込められた高位の治癒魔法薬の瓶がたくさん、その他一目見ただけで最高級品とわかる迷宮行きの装備と——、
「はじめまして、ワタクシ、今日からケイン様の護衛と専属メイドをやらせていただく、ルリアであります!」
完全武装のメイドさんの姿だった。