表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/24

真相

 



「はーっ……」

 僕は公衆浴場ほどもあるだだっ広い湯船にひとり浸かっていた。こんなに広いお風呂を独り占めなんて気持ちいいなぁ。あの後、エリザの屋敷……じゃなくて僕の新しい家を案内されたり、ギルドの長屋に戻って引っ越しの荷物をまとめたりしているうちに陽は落ち夜も更けていた。寝る前に風呂に入って引っ越しの汚れを落としておくのをエリザに勧められたので、ありがたく風呂を使うことにしたのだ。

 もともと某有力貴族の別宅だったというこの屋敷にエリザたっての希望で大きな風呂を増設したそうだ。この国では湯船につかる習慣はあんまりないので、ここまで大きくて深い風呂で肩まで浸かるのは初めてだけど、とんでもなく気持ちいい。




「……僕は何考えてんだろうなぁ」

 ザブンと僕は風呂に首まで沈んだ。

 唯々諾々とエリザの言うことを聞いてしまったことと、それに違和感のない自分がよく分からない。とりあえず完全にヒモみたいになるのは避けたいので、明日からはできることを探さないとな、とかなんとか考えていた時だった。




「失礼しまーす……」

 ガチャ、と扉が開く音と、女の子の声。


「えっ……!?」

 扉を開けて入ってきたのは体にタオルを巻いたエリザだった。

 タオル越しの体のラインと、露出された柔肌が目に眩しい。あとタオルから上乳と谷間が見える。おっぱいが大きい。じゃなくて。

「ちょっとちょっと何考えてるの!? 僕入ってるんだけど!」

「知ってるから来たんだけど……」

 頬を恥ずかしそうに赤く染めながらひたひたと足音を立てて近づいてきた。赤面しながらタオルを抑える絵面が目に毒すぎるので、慌てて背中を向ける。


「お兄ちゃんとお話ししたかったんだけど、ダメ……かな?」

「ダメでしょ! 嫁入り前の娘がはしたない」

「妹がお兄ちゃんとお風呂入るのは何もおかしくないもん」

「実の兄妹でも思春期になったらもう一緒にお風呂は入らないと思う」

「よそはよそ、うちはうちだよ、お兄ちゃん」


 押し問答してるうちに僕が逃げ出せればよかったんだけど、僕は完全に裸でタオルもないので立ち上がって逃げるわけにもいかない。

 そんなこんなしてるうちに、水音が近づいてきた。

 風呂場の壁の方を向いて湯船の中に座っている僕の後ろからチャポンと肩まで浸かった感じの音と気配がして、その後、僕は背中に暖かくて滑らかな感触と心地よい重さを感じた。背中合わせに座ったエリザがもたれかかってきたらしい。

「なっ……」


「あのね、お兄ちゃん」

 とても穏やかな声だった。自分が焦っていたのがおかしく感じるくらいに。


「私のこと、信じてくれてありがとう」


「普通なら私のこと、気持ち悪いと思う。お兄ちゃんは私のこと何にも知らないのに、とにかく私のことを信じてくれたのが、とっても嬉しかった。だから、お兄ちゃんに言うのが怖くて、さっきまで隠してたことを言います」

「本当のこと……?」




「私たちは、私たちの知らない別の世界の、とある兄妹の生まれ変わりなんだ」

「……」

 突飛な話だ。だけどなんだか笑い飛ばす気にはならなくて、とにかく話を聞いてみたいと思った。

「……話続けて」

 エリザがポツポツと話し始めた。


「私は十四の頃に、魔力暴走で死にかけたことがあるの」

 魔力暴走は生まれ持った魔力が強い子供によくある、魔力のコントロールが未熟なで発生してしまう、強すぎる魔力の弊害で起きる症状のひとつだ。オリハルコン級の冒険者であるエリザ・ノースウッドが歴史上類を見ないくらいの魔法の才能を持ってるっていうのは有名だ。生まれつき保有する魔力も膨大だったらしいし、症状は重かっただろう。


「その時に意識が朦朧としてる間に前の私の記憶を思い出したの。その私が主人公の連ドラを一気見……じゃなくて、長い演劇や、長編の本を一気に読んだみたいに。それで、私がこうやって生まれ変わってるならお兄ちゃんもどこかにいるのかもしれないってそう思った」


「それで私はお兄ちゃんを探すことにした。全くあてがなかったけど、神聖魔法の神託なら望む情報を得ることができるかもしれないって知った。私には神聖魔法の才能があって、ちょっと修行するだけで神託を得られる高位の神聖魔法使いになれた。そしたら百年後のカルナディアス迷宮のどこかでお兄ちゃんと会えるって神託があったの」


「お兄ちゃんは前の私のことをずっと守ってくれてた。今度こそ私がお兄ちゃんを助けなきゃ、私がお兄ちゃんを守らなきゃって思った。だからもう一回お兄ちゃんと会えるまでの間、準備することにしたの。お兄ちゃんをどんなことからも守れるくらい強くなって、お兄ちゃんが働かなくてもいいくらいにお金も稼げるようになった。あの時のお兄ちゃんが私のためにそうしてくれたみたいに」

 僕には何にも記憶がないんだけど、この子は百年間ずっと僕のために過ごしてきたってことか。

「……うーん」

「僕には何も記憶がないけど、とりあえず事情は分かった。疑う理由もないし信じるよ」


 僕を担ぐ理由も、神託が絡んでいる以上嘘の可能性もない、何より僕がこの子を信じたい気持ちになっている。


「わ、私のこと信じてくれるのは嬉しいけど、無理はしないでね。お兄ちゃんには無理せずに自由に生きてほしいから」

 信じるの言葉を口にした途端、エリザの声色が明るくなった気がした。


「僕には前世の記憶もないし、一方的に養われて勝手に過ごすだけになるけど、せめてお兄ちゃんらしく振る舞ってくれとかないの?」

「私からお兄ちゃんに何かを強制するなんてことはぜったいないよ。それに……」




「お兄ちゃんがかわいがらずにはいられない最高にかわいい妹になってみせるから……覚悟しててねっ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ