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家族会議

 




 何がどうなったら昨日初めて会ったオリハルコン級冒険者とパーティーにならなきゃいけないの。そもそも僕はお兄ちゃんじゃないし。


「え、お兄ちゃんは私と一緒……嫌、なの……」


 うるうるの涙目の上目遣いでこっちを見るのをやめてほしい。これ嫌だって言ったら絶対泣いちゃう顔だよね……。ブロンズ級冒険者がオリハルコン級最強の『神託の剣姫』を泣かせたって騒ぎになったらどうするんだよ。『神託の剣姫』にいきなり百歳下のお兄ちゃんができた時点で騒ぎになるのが間違いないのはもう逃れようがないのはこの際目を瞑るけど。


「嫌じゃないけど……」

「……! 良かったぁ!」

 えへへ、と子どもみたいな半泣きの笑顔を浮かべるエリザ。

「じゃあ後でね! お兄ちゃん!」

 トテトテと小走りで奥のギルド長がいるらしい部屋に消えて行った。


「エリザ様、かわいいですねぇ……」

「かわいいなぁ……」

「……それで、事情は聞いてもいいんですか?」

「聞いてもいいけど、僕にも事情は分からないから意味ないと思うよ……」

 昨日初めて会っていきなりお兄ちゃんって呼ばれだしたとかいう異常な話以外なにも話せないし。




 ——迷宮都市内一等地某所。エリザ・ノースウッド宅——


 流されたとは言え、嫌じゃないとは言っちゃったしパーティーを組む手続きまでしてしまった。彼女が(お兄ちゃん)に固執する理由も知りたいし、今後どうする気なのかも話したい。なのであの後言われるがまま彼女の拠点に来たのだけど。


「なにこれ……宮殿?」

「大げさだなぁ、お兄ちゃんは」

 どう見ても家ではない。とんでもなく大きな白亜の建物と広い庭。これ以上ないくらいの豪邸だ。建物と庭の面積を合わせたら僕のボロ長屋の何十倍あるかも分からない。遠目に大きなお屋敷があるのは何となく知っていたけど、ここがエリザ・ノースウッドの家だったのか。

 メイドさんやら執事さんやらに出迎えられ、当たり前のように堂々と振る舞うエリザを尻目に縮こまりながら屋敷の中を進み、豪奢な絨毯の敷かれた広い応接に通された。


「お兄ちゃんは、多分たくさん聞きたいことがあると思うので、家族会議をしようと思います」

「家族会議て……」

 真っ白な陶磁器に入った、見たこともないくらい赤く澄んだ紅茶が美人のメイドさんに給仕されてきたが、器が高そうすぎて触るのも怖いので、手がつけられない。

 とりあえず本題にいこう。

「まず何で僕がお兄ちゃんなのか教えてもらえない?」

「……お兄ちゃんが私のお兄ちゃんだって神託があったの」

 エリザ・ノースウッドの『神託の剣姫』の二つ名の由来は、創世神の神託を受けた神聖魔法使いであり、超一流の剣士であることに由来している。

 神聖魔法使いは神の名を騙ることはできない。神聖魔法は自然の魔力・外素や体内の魔力・内素を使う普通の魔法とは違い、神から魔力の供給を受ける特殊な魔法だ。その性質上、神聖魔法使いが神託を騙ったり、神の意に背いて怒りを買った場合、たちまち神聖魔法が使えなくなってしまうらしい。

 つまり、神託があったことと、その内容が事実なのは疑いようがない。

 オリハルコン級冒険者『神託の剣姫』エリザ・ノースウッドのお兄ちゃんは冴えないブロンズ級冒険者のケインです、って創世神様の神託があったのは真実なのだ。


「それがまずおかしくない? 年齢的にも種族的にもありえないでしょ?」

「おかしくないもん!」

 血相を変えて涙目で抗議された。コロコロ表情が変わる娘だな……。さっきまで冒険者ギルドでは氷みたいだったのに。

「おかしくないもんって言ったって……」

 神性魔法使いが神託を騙ることは絶対にできない。つまり創世神様は僕がエリザ・ノースウッドのお兄ちゃんだと認識してる……いや、全知全能の創世神が僕をそう作ったってことか?


「私も見た瞬間に分かったもん。お兄ちゃんがお兄ちゃんだって」

「うーん……」

 神聖魔法使いに神託を疑うことは難しいだろう。何せ、本当に神の言葉を直接受け取っているのだ。僕ですら、神託があったと言われたら自分がエリザのお兄ちゃんな気がしてきたくらいだ。


「まぁじゃあそれはいいや」

 この件は棚上げしよう。そもそもが神託に由来することなら僕にどうこうできることじゃない。

「えへへ、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだ」

 照れたようなだらしない笑顔が可愛過ぎて何もかもどうでもよくなってきた。


「それで次なんだけど、何で僕とパーティーなの? 一緒に迷宮探索なんて僕が足を引っ張るだけだと思うんだけど……荷物持ちくらいならそりゃできるけど」

「え、一緒に迷宮探索? しないよそんなの」

「え……」

 どういうことだ……?


「お兄ちゃんのお家は今日からここ! 今日からはお家にいるのがお兄ちゃんのお仕事です!」




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