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メイド服って戦闘メイドもいいけどノーマルメイドもいいよね

 エリザは「今日こそ先回りする」、などと息巻いて、迷宮に向かった。エリザの機動力なら確かに異変があればすぐに見つかりそうだ。

 お兄ちゃんは休んでて、と言われて、僕は留守番。まぁそもそも、エリザと暮らしはじめて休んでなかった時はないけど……。


「暇だな……」

「街に出てみますか? お付き合いするでありますよ?」

「うーん、ルリアさんに着いてきてもらうほどのもんでもなぁ」

 一般人の男が街を出歩くくらいで護衛は必要ないし、お守りのメイドさんが着いて来るのはもっとおかしい。

「いやー、ケイン様に何かあったら、ワタクシがドヤされる……というか殺されます……! そもそもワタクシ個人としても嫌でありますし。ここはワタクシの顔を立てると思って……」

「まぁ確かに……」

 言われてみれば僕みたいな一般人を狙う奴がいるわけない、とも言いにくい。こないだウチに押しかけて来てた奴のようにエリザに恨みがある奴がいてもおかしくないし、身代金目的とかもなくはないかも。

「じゃあお願いしようかな……」

「まかせるであります!」




 屋台の焼き物の匂いや甘ったるい果物の匂い。僕らが来ているこの辺りは一番治安の良いエリアで、この都市の市場のメインストリートだ。金回りのいい冒険者や組合関係者が多く、一番栄えてると言っていい。ということは、もちろん人混みもとんでもなくて、ぎゅうぎゅうの人混みをかき分けて進まなければいけない。

 なんとか二人分のパンと串焼きのお肉は買えたもののこんなところでは食べるどころか落としたり潰したりしちゃうのが関の山だろう。

「いや〜、申し訳ないであります。ここまで混んでるとは……! 吹き飛ばすでありますか?」

 今のルリアさんは戦闘仕様じゃない普通のメイド服だ。こうしてみるとめちゃくちゃ可愛いなこの人……。戦闘仕様の時はわからなかったけど胸も大きくてスタイルも良い。本人の柔らかい雰囲気もあって戦闘メイド服じゃない普通のメイド服もめちゃくちゃ似合ってる。

「絶対やめてください……」

 プラチナ以上の強さのこの人ならやろうと思えばできるだろうし、エリザ至上主義のこの人ならやっても不思議じゃない。

「とはいえお守りするとなるとこの人混みだと……。あ、そうだ」

「え、何かアイディアが……」

 ふにっと柔らかい感触と重さがぎゅっと僕の腕に絡みついた。

「こうしたら解決でありますな!」

「なっ……」

 ルリアさんが僕の腕に抱きついている。柔らかいのは胸の感触だったらしい。あったけーやわらけー…じゃなくて!


「な、なにしてんですか!」

「こうでもしないとはぐれちゃうでありますよ?」

「そんなことするくらいなら帰ります!」

「にひひ、そうでありますか。じゃあ手を繋ぐだけでも……とも思いましたが、それはエリザ様の特権ですし、それなら帰りますか」

 まとわり付いた状態から離れてくれてまずひと安心。

「でもわざわざ市場に来たなら裏通りくらいはちょっと見たいですね」

 裏通りの市場は華やかなメインストリートとは違って、実用本位な武具なんかのある無骨な市場だ。偽物の魔法のアイテムなんかも並んでて、けっこうアングラ感がある。もっともルリアさんがいなくてもなんとかなる程度の治安で、冒険者なら何度も立ち寄るような場所だ。

「まぁ別に用事はないけど、たまには汚い空気が吸いたいんだよな……」

 それにちょっとした思い出のある場所でもある。

「エリザ様のあの芳しい香りではご不満が?」

「やめてください……」

 ベッドに潜り込まれてた時のトラウマが蘇る。



 刃こぼれした名剣やらの並ぶ露天を冷やかしながら裏通りを歩く。

 その時、その裏通りから更に奥、治安の良くないエリアに続く細い路地に、誰かが倒れているのが見えた。


「ルリアさん、あれ……」

「む? 行き倒れですかな?」


 そっと近づいてみると、ゴミ山の中に、とんでもない美少女が丸まっていた。

 夜闇のような美しい黒髪、ゴミ山に似つかわしくない、見ただけでわかるとんでもない魔力の込められた純白のサーコート、そして猫耳猫しっぽ。


「猫獣人……ですね」

「で、ありますな」

 比較的珍しい人種ではあるが、まぁいない人種じゃない。

 すー、すー、と穏やかで可愛らしい寝息を立てている。


「寝てるだけっぽいし放置でいいと思うであります」

 ルリアさんは一応僕の護衛中なのでかなりドライな反応。

「いや、でも危険そうな子には見えないですし、放っておいてなにかあったら後味が……」

 この高価な装備とこの美貌だ。このまま寝かしておくのも剣呑にすぎる。


 そのとき、ギューと少女のお腹の虫が鳴いた。

「……ふにゃ……ごろごろ」

 僕らの目の前でゆっくり少女の目が開く。

「……誰ですか?」

 少女がごしごしと目を擦りながら上半身を起こした。

 見かけから受ける印象よりクールな声。まぁ起きて目の前に知らない人がいたら当然の疑問だ。そもそもゴミ捨て場で寝るのがおかしいんだけど。

「通りすがりなんだけど、そんなとこで寝てて平気かなって」と、思ったままのことを言う。

「あ、心配してくれてたんだ。大丈夫、こう見えてボク強いですから」

 一人称はボクだけど、膨らみかけの胸を見るにどう見ても女の子っぽい。

「そんな強そうには見えないでありますが……確かにそのサーコートは神官戦士用の上等なやつであります」

「その強い子がなんでこんなとこで寝てたんだ?」

 かなり年下らしいこの子には、変に敬語なんかは使わずに自分より強くても普通に接することにした。


「それはね……」

 ギューっとまたお腹が鳴った。

「お、お腹が空きすぎて……」

 ぱたり、とまたゴミ捨て場に倒れた。


「なんだこの子……」

 昔、この辺りで行き倒れただ猫獣人の孤児を助けてあげたことがあったのを思い出す。


「これ、食べる?」

 と、僕はさっき買ったパンを差し出した。なんとなくのその行為に何かを感じながら。


「……え」

 少女があり得ないものを見たかのように、目を見開いた。パンじゃなくて、僕を見ている。


「お兄……様?」




 僕を見つめていたそのふたつの金の眼が妖艶に光っ——。




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