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勇者の動向

 



「会おう、たってそんな簡単に会えるものなのか?」

「教会側としては、自分の権威の象徴、裏付けでもある勇者を、外部とかんたんには接触させたくないだろうけど、私なら会えると思う。私は創世神の巫女の資格者だからね。教会に所属してなくても実質関係者と言うか、かなり強い発言権があるんだよ。だからこそ普段は教会には関わらないようにしてるんだけど」

「きょ、教会に強い発言権……」

 この国で教会と言えばもちろん、創世神教の教会だ。国民の全てが創世神教と言ってもいいこの国では、教会が政財界に与える影響力はとても強い。政治・経済の中枢に熱心な信徒が多く、しかもこの国の騎士団にも匹敵するという神官戦士団、そして件の獣の勇者を抱え、武力もかなりのもの。そもそも、この王国の正当性自体が、創世神に王権を授けられたという創世神教の教典に由来している。創世神教は外交や内政にすら口出しができる組織なのだ。

 そしてエリザはそんな創世神の神託を受けた巫女の資格者。教会への発言力は当然強いに決まっているんだけど……。

「ん? お兄ちゃん、どうしたの?」

「……久しぶりにおまえの規格外さを実感してた」

「私としてはそろそろ慣れてほしいかな」


 さて、なんでも獣の勇者はすでに迷宮都市に到着していて、この街の教会に滞在している、という噂だ。エリザはその教会に向かうことになった。僕は、創世神の神託でエリザの兄だと認められているとは言え、本人はただの一般人であり教会とは無関係。勇者に会いに行くにせよ一般人すぎる僕がいない方がいいだろうという判断で、屋敷で待機することにした。




 そして――、


「申し訳ありません、巫女様。いくら巫女様の頼みでも、獣の勇者様に会わせることはできません」

「――なんで?」

「ひっ……。し、仕方ないのです。獣の勇者様は獣の神ビースティア様からの直接の啓示で動かれています。その勇者様が今は誰にも会いたくないと仰せなのです。獣の神様の勅を受けておられる獣の勇者様には、創世神様のご意志ではなく、個人のご意向で来られた巫女様を会わせることはできません」

「獣の勇者がこの街に来てる理由は? 私は、獣の神の司る調和に何か危機があって獣の勇者が動いてるんじゃ、と思って話を聞きに来たんだけど」

「……巫女様にはお話ししますが、獣の勇者様は我々神官団には何も話してくださらないのです……。もちろんビースティア様の啓示、ご意思の下で勇者様が動かれているのは間違いないのですが、何を考えておられるのか。最近は各地の迷宮でそれは熱心に魔物退治に励まれています。此度の大迷宮に来られたのもその関係だと思うのですが、それも定かでは……」





 と、いうのがぷりぷり怒りながら戻ってきたエリザの回想だ。「会ってみよっか」、なんて、自信満々に出て行ってこれである。

「な~んにもわからないし、な~んにも答えられないってなんのなのよ~!」

「あんなに自信満々で出て行ったのに」

「う、うるさいなぁ。私ってばホオントに偉いんだからね!?」

 そのときエリザが話した教会の神官長は創世神の巫女の資格者であるエリザの圧に顔を青くしていたらしいけど、それでも会えなかったのだから本当に会えない事情があるんだろう。

「本当になんの収穫もなかったのか?」

「収穫……あ、教会に勇者はいなかった、ってことだけは分かったかな」

「いなかった?」

「勇者の魔力を全く感じなかったんだ。獣の勇者は獣の神さまの使いでしょ。だからその魔力は神さまのもので、とびきり強力なもののはず……、なんだけど、教会にはそんなに獣の神さまの魔力も気配もなかった」

「なるほど……」

「もう大迷宮に行ってるのかもね」

「ってことは大迷宮のことは任せて大丈夫、なのかな」

 エリザやアイリスで感覚が麻痺しているけれど、勇者なんて世界でもぶっちぎりの最強格の存在だ。ちょっとやそっと、いや、どんな魔物にも負けないだろうし、丸投げしてしまってもいいかもしれない。勇者が神託で動いているならなおのこと。何かしら起きつつある異変に対するのに十分な戦力であるからこそ勇者に神託が下ったはずだ。

「そりゃあ大丈夫だと思うけど……。わっ、私の方が簡単に片付けられると思うよ!?」

「なんで対抗心燃やしてるんだ……」

「だ、だ、だ、だってお兄ちゃんがこの街に何かあると困るっていうから私の出番だと思ったのに、勇者なんてどこの馬の骨とも知らない人に任せてなんていられないよ!」

「勇者は馬の骨じゃないだろ……」

 獣の神ビースティアと創世神教のお墨付き、これ以上ないほど確かな身元だし、その戦闘力もエリザには劣るかもしれないが、それでも十分、いや十二分以上に強いはずだ。


「異変の調査……私もやります!」

 きりっと表情を作ったエリザの様子に、またややこしいことになった、と思った僕は、いや、と思い直す。神託の剣姫と獣の勇者が二人がかり、どんな異変だろうとどうせ何事も起きずに片が付く。そしてもちろん戦力外の僕は家で待ってるだけだ。何もややこしいことはない。ややこしくはないが、情けないのはこの際置いておこう。

「止めても無駄だろうし止める気もないし、お前に何かあるとは思わないけど、まぁ一応気をつけて……」

 僕は考えるのをやめた。




しばらくぶりの更新。待ってくださっていた方、申し訳ありません。そしてありがとうございます。

設定やらなんやら忘れ気味で齟齬があるかもです。

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