試されるお兄ちゃん
同居生活二日目。
昨夜と同じように風呂にエリザが乱入してくることを恐れた僕は、ルリアさんに嫁入り前の主人の蛮行を止めてくれるように事前に頼んでおいた。妹だろうともう大人……エルフとしては若いんだろうけど、大人なんだから妹だろうがお風呂には一緒に入りません。そもそも前世で妹だろうが今は血繋がってないし、僕に記憶がないんだから一緒にお風呂はまずいでしょ。昨日は真面目な話だったから平気だったとは言え僕の理性が持つかあやしい。
根回しも済ませた僕が安心して風呂に浸かっていると——。
ガチャ。
「お兄ちゃん、失礼しまーす……」
「ちょっと!?」
ドアが開き、昨日と同じようにタオル姿のエリザが入ってきた。
白い肌が目に眩しいしやっぱりおっぱいがでかい……じゃなくて。
「ちょっと昨日も今日も何考えてんの!? というかルリアさんに止めてもらうように言ってたんだけど……」
「あのね、お兄ちゃん、ルリアが私を止めると思う?」
そういえばルリアさんはエリザが白といえば黒でも白、どころか率先して白の絵の具持って塗り替えますって感じの人っぽかった。僕は、怒られてでも主人の間違いを諌めるのが本当の忠誠心だと思うけどね。
完全に油断していたので、昨日と同じくタオルや桶なんかの股間を隠せるものがない。つまり湯船から逃げ出せない。
「きょ、今日も何か話があるのか?」
「え? 話なんてないよ、お兄ちゃんと一緒にお風呂入りたかっただけ」
タオルを抑えながら頬を染めて近づいてくるのホントにやめて……! とにかく背を向けて目を逸らしたけど、その隙に昨日と同じように背中あわせに湯船の中に座られてしまった。詰んだ。昨日と同じで先にエリザがお風呂を出て行くまで出れなくなった。
その後、ふやけそうになるまでお互いの身の上話やとりとめもない雑談をして、ようやく解放された。
エリザから遅れて風呂から上がり脱衣所を出ると、廊下でニヤニヤ顔のルリアさんに出迎えられた。
「いや〜、愛されているでありますな〜。ご兄妹仲が良くて大変結構であります」
「止めてって言っといたでしょアンタ……」
翌朝。
僕が目を覚ますと、顔が柔らかくていい匂いの感触に包まれていた。ふわふわしてて甘い匂いで温かくて……ってこれまさか。
僕がその感触を振り払ってガバッと上半身を起こすと、案の定、エリザが寝ていた。
「なっ、なにしてんの……!?」
薄いネグリジェ姿が目に毒なエリザはどうやら僕が寝てる夜中のうちに潜り込んだんだろう。僕の顔を包んでいたのは僕に抱きついて寝ていた寝間着の薄布一枚しか隔ててないエリザの胸だったみたい……ってことに気づいた途端心臓がバクバクしてるし、朝っぱらからこんな刺激的な目覚め方してたら心臓止まりそう。
「んにゃ……?」
僕が跳ね起きて布団の中に外気が入ったことでもぞもぞと寒そうにしていたエリザがゆっくりと目を開けて、僕のことを見た。
「あ……おにーちゃんだぁ……えへへ……」
幸せそうなだらしない笑顔を浮かべて半身を起こして腕に抱きついてきて僕を布団に引き戻して、その僕の腕を枕にまたスヤスヤし寝息を立て始めた。
「はぁ……」
邪魔なんだけど、まぁいいか。
心の底から安心して嬉しそうに寝てる感じで、腕を引き抜いて起こすなんて考えられなかった。
前世がどうなんて僕には分からないけど、この子にとって僕がお兄ちゃんなのは間違いなく真実なんだと思った。
「ちっちゃいなぁ……」
体の話です。巨大なドラゴンを一刀両断にしたなんて信じられない、ほんとに頼りなくて可愛らしい、お人形みたいだ。ちなみに胸はでっかい。
この小さな女の子がずっと一人で頑張ってきたんだなぁと思うとなんだか誉めてあげたい気持ちになるというかなんというか——
「失礼するであります。おはようございますケイン様、ご起床時間でありま……って、あらら……お邪魔だったでありますか?」
「……おはようございます。そのニヤニヤするのやめてもらって良いですか……?」
「ケイン様のそのめちゃくちゃに優しい手つきの頭なでなでをやめないと治るニヤニヤも治らないでありますよ?」
……無意識だったよ。