家で寝てるのが一番お得
「はいはいどうどう」
「ぐぬぬぬ……」
エリザにパーティーを組むのを断られたっていうミスリルの人は、そのエリザがブロンズの訳の分からない雑魚と組んだことに文句をつけにきたらしい。まぁそりゃ他の人は納得いかないよね……。
僕が割って入るとすぐにエリザは正気に戻ってくれたので、ご近所や僕たちが氷漬けになったり、凍らされたミスリルの人がトドメを刺されたりする事態は避けられた。ミスリル級の冒険者ともなるとちょっとやそっとのことでは死なないので氷漬けになった程度ならお湯で解凍する程度で大丈夫だろう。彼は凍ったまま荷車に乗せられてルリアさんの監視の下ギルドへと運ばれていった。
「なんで止めたのっ! あいつ私のお兄ちゃんのことを馬鹿に!」
「僕は気にしてない……というかそりゃみんな納得いかないでしょ、仕方ないよ」
「だって私は——私がお兄ちゃんのこと守らなきゃいけないんだもん!」
涙目で僕に食ってかかるエリザだけど、たかがカス呼ばわりくらいでなんて大袈裟すぎる。そもそもブロンズ級の冒険者なんて石拾いどころかゴミ拾いだの揶揄されるくらいだ。実質ゴロツキの冒険者の中でも、飛び切りの最下層で、それだけじゃ食っていけないから日雇いの肉体労働だの使いっ走りだのでこき使われる立場だ。クズだのカスだのゴミだのなんて言われすぎて慣れてるし、いまさらそれで腹立てたり傷ついたるする方が難しい。
「こんな下らないことでエリザが敵増やしたり恨みかったりするんじゃないかって、いちいちハラハラするほうが体に悪いって……」
「……お兄ちゃん」
感激っって感じの顔でこっちを見ないでほしい。こういう言い方が一番言うこと聞いてくれるかなって言ったはいいけど、ちょっと照れ臭いんだから。
この後、さっき途中になってた取り分の話を再開して、僕の割合を減らす提案をしたけどそれは通らず、不本意ながら4000万ゴルドもの大金を手にすることになった。全額受け取るのはちょっと心苦しいし、金銭感覚が崩壊しそうなので、苦肉の策でお金自体は必要な分をエリザから都度受け取る形になった。
「このままじゃいけないと思うんだよ僕は」
エリザが冒険者ギルドから急ぎの依頼とやらに呼び出されていったので、僕はルリアさんと二人、僕の私室で話していた。
「アハハ、そう言われましてもケイン様にできるのはエリザ様を可愛がることだけでありますよ」
「もうそれじゃ完全にヒモみたいじゃん」
「……みたい?」
おい。
「極論すると、ケイン様が迷宮に行ってそれをワタクシや他の方が護衛するくらいなら、ワタクシが一人で行って部屋で寝てていただく方が効率が良いでありますよ?」
「……」
「エリザ様は何があってもワタクシかそれ以上の戦闘力の人間をケイン様の護衛から離さないでしょうし、その能力の人間と同じかそれ以上の稼ぎは、失礼ながらケイン様には現状間違いなく出せないであります」
「…………」
分かってはいたけどそんなハッキリ言わないでほしい。
「で、ですが、エリザ様にとってケイン様が必要なのは一目瞭然! 長年お仕えしてきたワタクシが言うんですから間違いないであります!」
「つまりそれは外から見たらさ……」
「ヒモそのものでありますな!」
「断言しないで」
ルリアさんはふふっと笑った後、ちょっとだけ真面目な表情を作って口を開いた。
「エリザ様はいつか再会する兄君のために強くなって今のようにとんでもない収入を得られるようにもなったであります。ワタクシがお仕えしはじめた頃にはもう今のような完成されたお強さでしたが、強くなるために本当に辛く苦しい修行もしてきたに違いないであります」
「……そうだろうね」
「なのでしばらくは好きにさせてあげてほしいであります。どうやらケイン様も可愛い美少女が突然妹になったこの状況、記憶はなくても満更でもないご様子ですし」
確かにエリザはとんでもなく可愛いし、僕としてもなんでも言うこと聞いてあげたいみたいな気分になってる。これが前世のせいなのか、エリザの可愛さのせいなのか僕がちょろいのかは分からないけど。
「まぁそうだよ、悪い?」
「いやいや、とんでもない。この調子でガンガン甘やかして差し上げてほしいであります。『お兄ちゃん』」
にひひ、といたずらっぽく笑うルリアさんも十分可愛いと思ったのは内緒にしておこう。