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始まり

初投稿です。

 


 ——カルナディアス大迷宮・一般踏破済みエリア——




 ブロンズランクのパッとしない迷宮冒険者であるところの僕こと、ケインは、生活のため、カルナディアス大迷宮で犬鬼コボルト退治に勤しんでいた。コボルトは人間の子供ほどの大きさで、二足歩行する犬そのものといった姿をしたモンスターだ。こん棒くらいのちょっとした道具を使う知能はあるものの、身体能力は小さな体に見合って低い。僕みたいな冴えない冒険者のかっこうの獲物となる雑魚モンスターでもある。


「はぁっ!」

 片手半バスタード長剣ソードをコボルトの脳天に向け力任せに振り下ろした。身を守ろうととっさに掲げた棒切れごと頭部をかち割られたコボルトは血とよく分からない色んなものをどろりと溢れさせながら仰向けに倒れ、やがてさらさらと光る魔素マナ粒子に変わった。その粒子も空気に溶けて消えていき、小指の先ほどの大きさの魔石だけが残った。


「ふう……」

 敵を倒した直後の油断が一番危険だ。倒したコボルトの消滅をきちんと確認しながら周囲を見渡す。いつもと変わらない迷宮の岩肌を、壁に設置された魔力灯がぼんやりと照らしている。安全を確認してからようやく一息。僕は魔石を拾い、腰の巾着に入れた。

 コボルトをはじめとする迷宮のモンスターは、万能のエネルギーであるマナが凝固して生き物のような形をとっただけの擬似生命体だ。そういったモンスターは死ぬとその場に魔力の結晶である魔石を残し消滅する。魔石は魔法薬や魔剣の材料としてちょっとした価格で売れるので、僕のような底辺冒険者の生計を支えてくれるのだ。


「とりあえずこれくらいにしておくか」

 今日は四匹のコボルトを仕留めて魔石を回収した。これだけあれば一週間ほどの生活費にはなる。

 僕が帰路につこうとしたその時——。


 ドガァァンッ!


 突然とんでもない轟音と振動が僕を襲った。

「なっ、なんだ!?」

 僕が反射的に頭をかばいしゃがみこんだ直後、ガラガラと土塊や石が降り注いだ。

「いたたた!?」

 左腕の丸盾バックラーがダメージを和らげてくれていなければ頭部に当たった瓦礫で大怪我をしていたかもしれない。




 突然の崩落によってもうもうと舞っていた砂煙が晴れたあと、魔力灯の薄明かりが照らし出したのは大きな影。

「ド、ドドド……ドラゴン!?」

 

 それは巨大なモンスター、ドラゴンだった。

 それぞれが馬上槍ランスほどもある大きな牙、全身を覆う鱗は一枚一枚が大盾くらいある。太い四肢は巨木のようだ。

 ブロンズ級冒険者の僕は当然、最高位のモンスターであるドラゴンなんて見たことなかったけど、伝説やおとぎ話、冒険者組合の記録で見知ったそのままの姿と、なにより放つ魔力と存在感がこいつがその伝説のドラゴンそのものだと教えてくれていた。


 地面にはとても大きな穴が開いていて、どうやらさっきの揺れと音はこいつが下の空洞から床を突き破ってきた時のもので、さっきの瓦礫はそれで巻き上げられてきたらしい――なんてことを考えているより、僕は全力で走って逃げるべきだったのだけど、恐怖と驚きのせいで体も思考も完全に停止してしまっていた。


 彼我の距離はほんの数メイルほど。

 そして、今回がドラゴンさんとのはじめましての僕にもわかるくらい気が立っているドラゴンと目が合ってしまった。

「あ……」

 これはやばい。


 こちらを見たドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

 ゴオッ、と音を立てながら空気と周囲の魔力が大きな口に吸い込まれ、その魔力エネルギーはドラゴンの喉でみるみるうちに炎に変わっていく。


 死んだ——。

 ドラゴンの口からついに炎が吐き出され、

 僕が死を覚悟したその時。



 ——……!

 誰かの声が聞こえた気がした。


 炎のあまりの眩しさに目の前が真っ白になる。思わず目をつぶった僕は、炎に焼き尽くされてもう一度目を開けることはなかったはずだった。


 その僕がもう一度目を開けると、僕に背を向け、炎に向かって立ちふさがり手をかざしている誰かの姿があった。

 その前にはキラキラと光る半透明の魔力障壁が展開されていて、それが炎を防いでいた。薄氷のような障壁一枚が、岩盤も融解させる高熱を春のそよ風程度にまで減衰している。僕には想像もつかないほど高レベルな防御魔法だ。


 そして数十秒にも渡るドラゴンのブレスが止まり、

「——あなた、私のお兄ちゃんに、何してるの」

 その人物がよく分からない言葉を女の子の声で口にした、次の瞬間だった。

 ゴゴゴゴゴゴ……と女の子から魔力の奔流が立ち上り始めた。目の前のドラゴンをはるかに上回る、とんでもない魔力だ。

「許さない……!」


 そしてその膨大な魔力が、女の子が片手に軽々と持った大剣に集中し——次の瞬間ドラゴンの体がぐらり、と傾いた。

 今まで目の前にいてドラゴンと向き合っていたはずの女の子が、剣を振り抜いた姿勢でドラゴンの後ろにいる。


 ズシン。大きな音と揺れと共にドラゴンの巨体が倒れた。


 まさか、斬ったのか……!? 見えなかったどころか、動いたことを認識すらできなかっ——

「ぐえっ!?」「お兄ちゃん!」

 胸とお腹に衝撃。

 さっきの女の子が僕に抱きついていた。いつのまに……!?

 動いたことを認識すらできなかった。

「ぐすんっ……お兄ちゃん…お兄ちゃん……」

「えーっと、そのー、いろいろ説明してもらいたいんだけど……」

 驚きながらなんとか口を開く。

「ぐすっ……うえっ……うえーーん!!」

「あの……」


 どうしたらいいの、これ?


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