一 逢 ~ さまよう想い ~ (8)
まだ不安はさほどなかった。まだ、大丈夫なんだと。まだ……。
朝の弱い司はいつも、目覚ましが鳴ってもギリギリまで眠っていたが、今日ばかりは寝つきが悪く、いつもより早く目が覚めた。
早く瑠香に謝りたい。
そんな気持ちに駆られ、学校に急いだ。
今日ばかりは瑠香に話しかけようとしていた。
だが、司の想いは伝えられなかった。その日の朝、瑠香が教室に姿を現すことはなかった。
普段は、HRの始まる十分ほど前に現れ、仲のいい友達に挨拶して、窓際の席に座っていたが、今日は彼女が現れる前にHRが鳴ってしまった。
遅れるのは珍しいな、と思いつつ、机に頬杖を突きながら、空席になっている席を司はじっと眺めていた。
今日は朝から晴れており、朝日が窓から射し込んでいた。
まぁ、来たら謝ればいいだろう、と瑠香が現れるのを待った。
しかし、その日、瑠香は学校に現れなかった。
一日の授業が終わり、帰り際、姿を現さなかった瑠香の席をもう一度眺め、明日でいいか、と教室を出た。
だが、司の気持ちはまたしても報われなかった。
次の日も、瑠香は学校を休んでいた。
次の日、また次の日と、三日連続で休みが続くと、心配せずにはいられず、その日の夜、また連絡をしようとしたとき、手が止まった。
最後に送ったのはコンビニに遅れた日の夜。それがまだ“既読”になっていない。
それからは連絡もなく、無反応な瑠香に、司は胸を締めつけられ、部屋の壁に凭れながら、大きくため息をこぼしてしまう。
ーー 連絡を受けてくれるだろうか?
不安に駆られながらスマホを持つが、その先には進めず逡巡してしまう。しばらく動けなかった。
ローテーブルの上に置いてある時計の秒針の音がわずらわしく聞こえ、耳を圧迫されるなか、ようやく指が動いてくれた。
スマホを耳に当て、単調な呼び出し音が流れて、繰り返されるほどに司の息が詰まり、手に力がこもってしまう。
ーー 出てくれっ。
と、思いが強まるほどに唇を強く噛んでしまっていた。
聞きたいのは瑠香の「もしもし」という返事。短くていいのに、耳に響くのは、無機質な呼び出し音のみ。
赤信号にずっと立ち往生されるようなもどかしさに締めつけられ、静かに耳元からスマホを放した。
結局、瑠香とは繋がらなかった。
その声は遠いの? 近いの?




