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手紙のこと  作者: ひろゆき


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 一  逢  ~ さまよう想い ~ (5)

 不思議だった。こんなに自然に話すことがあるとは思わなかったから。

               3



 きっかけなんてものは、何気ない日常に紛れ込み、突然の突風のように舞い込んでくるものかもしれない。うつむき加減で道を歩いていると、百円玉を道端で見つけるように。

 と、その数時間後に、司は静かに実感していた。

 先ほどの会話が瑠香との、初めてといっても過言ではないほどに喋ったが、少なくても、どこか冷たい雰囲気があったはずの瑠香と話せて、司は素直に嬉しかった。



 それから、示し合わせるわけでもなかっが、司はバイトがあった日の帰りは、必ずコンビニに来るのを楽しみにしていた。

 いつも雑誌を読んで待ち、バイト終わりに訪れた瑠香が、ガラス越しに小さく手を振る。「待った?」と口元を動かす瑠香に、「お疲れ」と店内から返事をする。

 そして、店に入って来た瑠香とともにシュークリームを買い、店を出て帰る。

 時には待つ側と遅れる側が変わることもあった。それでも、そのあとは二人して帰る。という日常が、司の行動に自然と入っていた。

 ただ、不思議と学校では「またコンビニで」といった約束を交わすことはなかった。学校ではさほど親密に話すことはなく、同級生の一人として、何気なくすごしていた。

 もしかすれば、司にとって、偶然を装った待ち合わせを演出したくて、話さなかったのかもしれない。

 また、これは司自身の感覚ではあるが、学校で見せる見えない壁に守られ、人を拒もうとしている瑠香とは対照的な、明るく分け隔てのない瑠香の姿を、自分だけが独占できている高揚感に浸っていて、誰にも知られたくなかったのかもしれない。

 しかし、夜空の片隅に追い払われた星を探しながら、司はふと聞いてみた。学校と雰囲気が違うな、と。

 すると瑠香は足を止め、雲に隠れた星を探すように、暗闇に淡く光る三日月を眺め、

「なんか、難しいんだよね。人前で本心を見せるのって。なんだろう、やっぱり、イメージとかがあれのかな。私の場合、この黒髪みたいに」

 おもむろに、瑠香は右に流していた前髪をさすり、

「この髪のイメージで、私って暗いって思われてるのかな」

 瑠香は前髪をねじりながら皮肉ってみせた。

「まぁ、人見知りなのは自覚があって、よく妹にバカにされていたんだけど」

「人見知りか。まぁ、それは僕も一緒かな。なんか、初めて喋る人に対して、なんだろう。こう、身構えてしまうっていうか、仰け反ってしまうっていうか……」

 司自身、人付き合いに自信がなく、瑠香の気持ちも分かる気がして頷くと、ボクサーのファイティングポーズをおどけて見せた。

「じゃぁ、なんで接客なんてしてるの? ホールなんて、一番人と接するじゃん」

「う~ん。もしかしたら、ワザとかな。その人見知りを少しでも治したくて。荒行事っていうか」

「ふ~ん。そういうものかな」

「ねぇ、じゃぁ、なんであの日、私に話しかけたの? 私たち、学校じゃ大して喋ってなかったじゃん。なんで?」

「あぁ~。それは……」

 突拍子のない問いに、司は逡巡してしまう。忙しなく鼻頭をさすっていたが、前髪をさすりながら、挑発的に首を傾げる瑠香に、半ば圧倒されていた。

 答えはない。本当にただの偶然であり、気まぐれである。それでも、素直に答えれば、なぜか逆に罵倒されそうな空気に、司は「なんでだろう」とごまかした。

 実は、気まぐれだと言って、不機嫌そうに唇を尖らせる瑠香を見たくはなかったのだ。

 楽しくなっていた。瑠香との時間が。

 二人で帰る短い時間をずっと続けたくて、司は答えを濁していた。素直に言ってしまえば、瑠香との会話が途切れてしまいそうで。

 別に隠さなければいけないことじゃないよ。でも、秘密にしているみたいで楽しかった。

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