一 逢 ~ さまよう想い ~ (4)
戸惑ってしまった。だって、普段の姿とは違ったから。
白く大きなボタンがつけりた黄色い衣装を着て、とんがり帽子を被った、ディフォルメされたピエロの人形。
大きな球に乗り、両手を広げ、白い顔の目元には星がペイントされ、笑っていた。
ピエロが瑠香の動きに合わせて左右によって揺れていた。
「私ね、ここなシュークリームが好きなんだ」
「ーーシュークリーム?」
ピエロに魅入っていると、不意に瑠香が呟き、司は慌てて視線を瑠香に戻した。
スイーツ売り場に着くと、おもむろに瑠香はシュークリームの置かれた棚に手を伸ばした。
「よかった。今日は残ってた」
棚には二つのシュークリームが残っており、瑠香はホッと胸を撫で下ろすと、残った二つを手に取り、
「ーー行こ」と、呆然と動きを眺めていた司を促し、そのままレジへと進んだ。
二つとも……?
と浮かんだ疑問を投げつける暇もなく、面倒そうな店員に会計を済まし、瑠香は店をあとにした。
半ば、圧倒されっ放しの司は、息も忘れたように口を半開きにして瑠香の動きを追い、彼女が入り口を出たところでようやく我に戻り、慌てて店を出た。
もう帰ってしまったのか、と辺りを見渡した。
片側二車線の国道に面した角のコンビニ。夜はふけ、人影は少なかったが、歩道に沿って設置された街灯に車の通りは多い。
それでもコンビニの明かりは際立っており、夏の森に灯る蛍の明かりのようになっていた。
「こっち、こっち」
そらでも一瞬瑠香の姿を見失い、遠くで大きく口を開く暗闇に吸い込まれそうな不安に、心臓が締めつけると、柔らかい声が届く。
横に振り向くと、駐車場のスペースの縁石に座っていた瑠香が、司を手招きした。
隣に促されて座ると、唐突に顔の前に、先ほど買っていたシュークリームを瑠香が差し出した。
咄嗟的に「ありがと」と手にした。
半分に割られたシュークリームに、カスタードクリームがとろりととろけた写真が印刷された袋を眺めていると、隣では瑠香が、静かに袋を開き、シュークリームを恥じらいなく頬張った。
「美味しっ」
満足げに間を細める瑠香の姿に、司は呆気に取られて呆然としてしまった。
「ーーどうしたの?」
「いや、ちょっとイメージと違ったから」
思わず本音をこぼし、気まずさに鼻頭を擦り、苦笑したが、瑠香は気にせず遠くを眺めていた。
「……そっか」
遠くを眺める眼差しは一点を捉えており、気高い凛とした雰囲気を漂わせていたが、それに反してこぼれた声は途切れそうだった。
垣間見た姿に、普段の瑠香に戻った気がして、司は臆して何も言えなくなった。
すると、クルッとこちらに向けた瑠香の笑顔に戸惑ってしまう。
「ねぇ、竹内くんって、なんのバイトしてんの?」
一瞬見せた表情とは違う、明るい口調に戸惑いながらも、
「駅前にある店」
働いていたのは全国チェーンのファミレスのフロア係であり、店のある方角を指差した。
すると、瑠香は口をすぼめながら何度か頷き、不敵に口角を上げた。
「じゃぁ、ライバルになるのかな」
「ライバル?」
「そう。私のバイト先はーー」
瑠香は司の働く店から少し離れた場所にあるスーパーらしく、そこでレジ打ちをしているらしい。
意外に近い場所で知り合いが働いていることに驚いてしまう。
「あそこ、時給はいいんだけど、人使いが荒いんだよね。それに、駅前で時間帯によっては、無茶苦茶なことを言ってくるお客もいて。ほら、「もっと値引きしろ」とかって。閉店間際は特に。その反動かな、これ」
照れくさそうにシュークリームの袋を揺らした。
ストレスか、と納得する。司にも思い当たる節はある。バイト先に一人の苦手な人物がいて、司も気をもむことは何度もあったから。
「それを言うなら僕もそうかも。バイト終わり、なんかすぐに帰るのもなんだし。時間潰し、みたいな」
同情するわけでもないが、髪を擦り、乾いた声で冷笑してしまった。
嘆く司に、瑠香は「そうでしょ」と嬉しそうにまたシュークリームを頬張った。
「ねぇ、竹内くんって、週にどれだけ入っているの?」
何気ない問いだったのかもしれないが、一瞬動きが止まり、ビー玉みたいに目を見開いてしまった。
驚いているのは伝わってきた。だからこそ、素の姿を出しても悪い気分じゃなかった。




