一 逢 ~ さまよう想い ~ (3)
それは偶然だった。自分の行動も信じられなかった。でも、惹きつけられた。
時計の針が戻る。
それは、いつかの偶然……。
2
天井のスピーカーから男性デュオのラブソングが店内に響いていた。サビの部分になり、自分では体験したことのない想いが流れ、竹内司は不意に笑みがこぼれてしまった。
きっと、自分にはそんな甘い想いを伝えられない、と自虐も含まれていた。しかも、情けなくなり、足早に雑誌コーナーに向かった。
人気のアイドルが表紙を飾る雑誌を手に取り、グラビアのページを開いた。
夜の十一時を回ろうとしたコンビニには、客は司だけであり、奥の冷凍食品の品出しをする、大学生と思えし男の店員が静かに品出しをしていた。
バイト帰りの司が、コンビニにで雑誌を立ち読みするのはほぼ日課になっていた。
「ーーいらっしゃいませ」
力のない店員の声に、司は顔を上げ、入り口に視線を向けた。すると、背の低い、一人の女の子が店に入ったところだった。
思わず司は眉間にシワを寄せた。自分と同じ制服姿の女の子に気づいて。
どこかで見覚えのある姿。通路を横切ろうとしていた彼女を見て、司の目は緩んだ。
「……山崎?」
思わず口を突いて出た。
小声ではあったが、女の子の耳に届き、足を止めると体を司に向けた。
「……竹内…… くん?」
首を小さく傾げ、戸惑いの眼差しを司へと注いだ。
司よりも頭一つほど低い体は、華奢であった。白いブラウスがどこか大きく見える。
首を傾げ、背中まで伸びた黒髪を揺らし、前髪を右手で払い、現れた、リスみたいな無垢な大きな眼差しが司を捉えている。
「……山崎? なんで?」
山崎瑠香 ーー。
司と同じ高校に通う一年の少女だった。
夜に現れた制服姿の瑠香に、司は戸惑い、声をかけたのに、瞬きを忘れてしまった。
実際、彼女と学校で話したことはあまりなかった。教室でも席は離れており、挨拶を交わしたこともなかった。特に窓際の席の瑠香は、机に頬杖を突いて外を眺めており、どこか近寄りがたい空気を漂わせていたため、躊躇していたのかもしれない。
ただ、授業が終わろうとした時間帯、西日を浴びた横顔は神々しくもあり、司はじっと眺めてしまうときも少なからずあったのだが。
恋愛感情まではいかずとも、どこか惹かれるものもあり、斜め前の席の司は、手を止めてしまうことが何度かあった。
だからなのか、瑠香の姿を見て、咄嗟に声が出てしまったのかもらしいが、普段見ない好奇心を発する目の輝きに、多少後悔していた。
「お前、なんで?」
ようやく出た声は、かろうじて平静を装っていたが、すぐに声が裏返りそうになっていた。
突然の対峙に、右手の人差し指で店内を差し回していた。
「山崎くんは?」
「バイトの帰り。ここでちょっと休憩ってとこかな」
指の動きを追わず、屈託ない目で司を観察する瑠香。
普段聞かない柔らかい口調と、屈託ない表情が、司には新鮮に映り、つられて返事をしてしまった。
つい、吸い込まれそうな笑顔に、司の表情もほころんだ。
「山崎は?」
「私? う~ん。私は糖分補給かな」
「糖分って、なんだよ、それ」
顎に左手を当て、間の抜けた返事に、つい突っ込んでしまう。すると、何も答えないまま、鼻で笑う司をよそに、奥にあるスイーツ売り場を指差すと、リスみたいに大きかった目を嬉しそうに細める。
そのまま司を促すように、瑠香は体をスイーツ売り場に向け、歩を進めた。
司はつられるように、それまで読んでいた雑誌をラックに戻し、瑠香のあとを追った。
背が高い司にとって、瑠香のそばにいると、彼女の背はより小さく見え、肩からかけている学校指定のカバンも大きく見える。
同じバックを使っている司だったか、カバンの膨らみの違いは歴然で、司のものは瑠香の半分でしかなかった。
教科書? ノート? それ以外に何が?
女の子が普段、何を持ち歩いているのか興味を強めていると、バックの持ち手の部分に、小さな人形がぶら下がっていた。
突然のことで驚いてしまった。でも、「どうして?」とは聞けなかった。




