終 望 ~ 手紙のこと ~
手紙により始まったこの物語。最終話になる今回、希望となる想いが綴られます。
終
あのとき、月は私を見ていました。
決して手を差し出そうとはしないまま。
ただ眺めている。
それは、深海の奥底にいるような心細さ。
心が壊れていくなか、助けを求めても、そこで眺めているだけ。
誰も助けてなどくれない。
私はそう諦めていました。
でも昼間、空を見上げれば何事もなかったみたいに太陽が昇っていました。
時間が経てば、月があったところに太陽が昇る。
太陽は私に何があったのかを知りません。
なら、太陽に手を伸ばせば、今度は拒絶せずに手を掴んでくれるでしょうか?
私を暗闇の深海から引き上げてくれるのでしょうか?
優しい温もりで包んでくれるでしょうか?
助けてくれるでしょうか?
信じていいのでしょうか?
私が“私”として生きていくことを。
あなたなら……
あなたなら……
信じたい。
信じたいです。
ポケットに忍ばせていた手紙には、短いながらも、自分の気持ちを綴っていた。
病院の廊下。璃香のふりをして近づいた。本人として会うのはまだ怖かったから。
まだ、彼の顔がちゃんと見られる自信がなかったから。
だから嬉しかった。
璃香ではなく、自分の名前を呼んでくれたことが。
気づいてくれたのが。
だから、この手紙は出さなかった。
期待を籠めた言葉ではなく、前向きになる言葉を書こうと思えたから。
信じられる。
そう感じられた。
いつか、竹内司の顔から、靄が消えてくれるんだと。
彼の顔をしっかりと見つめることができるんだと。
だから、信じていいですか?
信じさせてください。
了
今回の物語は、ピエロを登場させられないかなと思っていました。司と瑠香の二人の間に、関わりを持たせられるように考えていきました。
そして、今回は「前書き」と「後書き」も、いつもとは違う使い方をしようと思いました。
DVDなどにある、「コメンタリー」として、「前書き」を司、「後書き」を瑠香が俯瞰的に物語を眺め、自身の想いを伸べているような感じになればいいかな、と描き、本編と三つが一つの形になるようにしてみました。
話のなかで、二人がどう思っていたのかが伝わっていると嬉しいです。
「手紙のこと」を読んでいただき、本当にありがとうございました。




