三 花 ~ 覚めない心 ~ (7)
確かめたかっただけなのに、これじゃぁ、責めているみたいだ。
「正直、幻滅よね。お姉ちゃんが選んだのが、あんたみたいな冴えない奴だったなんて」
反論できずにいた。自分をバカにされているのだが、きっと双子であり、やはり雰囲気が瑠香に似ており、彼女に言われているようで、ショックが大きかったから。
「お姉ちゃんはあんたのことがまだ好きだった。やっぱり、無理をしているのは分かった。あんたに合いたかったのかな。それで、あんな絵を描いたのね」
「ーー寂しい愛情?」
リンドウの花言葉を呟くと、瑠香は力なく頷く。
「ねぇ、知ってた? ほかにも“誠実”や“負節”ともあるらしいわよ」
嘆くように言い、璃香はかぶりを振る。
「何枚も描いて、辛そうだったから、私言っちゃったんだよね。「届けてみたら」って」
「じゃぁ、あの、「あなたが見えない」ってのは」
「今の状況を訴えていたのかもね。で、私なりにあんたの出方を見たかったのよ。お姉ちゃんのことなんか忘れて、お気楽に暮らしているのかをね。ま、あんたは手紙を返してきたみたいだけど。ねぇ、なんで手紙だったの?」
一つの疑念を抱いたのか、璃香は司を見据えた。
「何度も電話はしたんだ。けどダメで。メールも考えた。けど、それはなんか素っ気ないというか…… ちゃんと、向かい合いたかったから」
「ふ~ん。ま、いいけど。ま、確かに信用できるかなって思ったわよ。だけど、一応あんたを試したかったの。小学校の屋上に、お姉ちゃんにお願いしてピエロの人形を置いたりして。あそこの小学校のことは、私も知っていたから」
「あれ、お前の仕業だったのか?」
そうよ、と悪びれず、逆に璃香の視線がさらに鋭くなる。
「でも、勘違いだったみたいね。小学校の前であんたに初めて会って、私を見てお姉ちゃんだって騒ぐのかなって思えば、話を合わすなんて。しかも、変な敬語で話すし。幻滅よね、ほんと」
憤慨する璃香を見ていて、不意に司は額に手を当て、頭を抱えてしまう。
何も答えずにいると、この態度が気に障ったのか、「何?」と璃香は突っかかる。
「分かんないんだよね」
「何が?」
そこで今度は司が璃香を怪訝な眼差しで睨んだ。
「お前は何がしたいの?」
司の指摘に、一瞬ではあるが、たじろいでしまう璃香に、司はさらに眉間にシワを寄せる。
「山崎のことは僕も手紙で知った。正直、信じられないよ。けど、だからってお前の行動は意味が分かんないよ。僕を試したがっているけど、なんで?」
話をじっと聞いていて、漠然と浮かんだ疑念をそのままぶつけてみた。すると、これまで威勢よく話していた璃香だが、急に唇を噛み、目を伏せると肩をすぼめてしまう。
何も話さずじっと黙ってしまった。
「……私はただ、お姉ちゃんのことを思って……」
「ーー本当に?」
追い打ちをかけるように司は問う。
「分かんないわよっ」
問い詰められたあと、顔を上げると、胸に詰まっていたとか、一気に吐き出すように、肩を震わせて叫喚した。
その勢いには、司も驚いてしまう。
「私だって、こんなことになるなんて思わなかった。あんなのって、テレビや小説でしかないって思っていた。けど…… どうお姉ちゃんに接したらいいかさえ分からなかった。自分なりに普通に接しようとしてた。けど、ふとした瞬間、まるで腫れ物に触っているんじゃないかって、自己嫌悪になるときもあった。自信がなかったのよ」
璃香は拳を腰の辺りで握り、迷子の子供が泣き叫ぶように叫喚した。
「あんたに分かる? 部屋の壁越しに泣いて、嗚咽をもらしているのが聞こえたとき、何もできない自分の悔しさがっ。まるで、役立たずだって責められているような痛みがっ」
感情を爆発させ、しばらく肩で息をしたあと、気持ちが落ち着いたのか、璃香は髪を撫でた。
「もしかしたら、あんたに相談したかったのかもね。認めたくないんだけど、それでも、どこかで信じたくなって。それで、あんたを試すようなことをしたんだと思う」
ならば、ここにいるとこは、認めてくれたのだろうか。
怯える璃香に確かめることはできなかった。
「ーーでも、やっぱり」
冷静さを取り戻した璃香は、体勢を直して司と向き合うと、鋭い眼光をぶつけられ、司に緊張が走る。
「……あんたに助けでもほしかったのかも。家族じゃ助けられない部分を、私たちじゃ支えられないことをあんたに」
司の心を締めつけるような重圧を、唇を噛み締める璃香の姿から強く受けてしまった。
息を静かに呑んだ。どんな言葉を返せばいいのか浮かばない。
助けを懇願する璃香に、司は目を会わせられないでいた。
「……ごめん。勝手なこと言って」
重い沈黙のあと、申しわけなさげに璃香は謝り、逃げるように公園をあとにした。結局、司はちゃんと返事をできないまま、ずっと黙り込んで立ち尽くしていた。
風が躍る公園にただ一人……。
リンドウの花言葉……。 分かる?




