二 悩 ~ ピエロは笑う ~ (16)
まだ理解できない。意味が分からない……。
8
重たい雲が、今にも落ちてきそうなほど曇天となり、太陽の日差しを遮断されてしまうほど、司の心は滅入りそうであった。
ある公園のなか、司は一人。園内はどこか外国の街並みに見立てられ、街灯の下には、石畳になり、公園を横断していた。
空は暗くなっていたが、まだ灯りは灯されていない。
公園は町中にある児童公園とは違い、ハイキングコースなどが盛り込まれている、規模の大きい公園となっていた。園内はいくつかのエリアに分けられ、主な通路は石畳となり、その脇にはススキの木が植えられており、茂みが広がっていた。
その一角に司は学校の帰りに一人、街灯の下にたたずんでいた。
「……ここにいるってことは、それなりの覚悟ができたってことよね」
背中に当てられた声に反応して、司は振り返る。すると、通路の奥から、瑠香がこちらに歩み寄り、声をかけたところだった。
白いカーディガンにジーンズ姿の瑠香は眉をひそめ、訝しげに司を睨む。
そのたたずまいに、以前のようなおっとりとした様子は微塵もなく、毛を逆立てて牙を剥き、威嚇している猫みたいに。
敵意に似た雰囲気に包まれる瑠香に対し、司は奥歯を噛み締め、こちらも目尻を上げ、険しい眼光を注いで睨み返した。
「この手紙はどういう意味だ」
司は昨日、病院で男の子から預かった手紙を握り締め、瑠香に向かって突き出した。
「そこに書かれていたのはすべて事実よ」
瑠香は一度目を伏せ、抑揚のない声で呟く。
「だったら、お前は何者なんだ、山崎…… 璃香」
感情を押し殺し、低い声で吐き捨てると、彼女は冷淡な眼差しで司を睨んだ。
手紙を読み終えて、あなたがすべてと向き合えるのなら、○○公園の石畳がり、街灯のある通路に来て。
山崎 璃香
昨日、男の子から預かった手紙は、実は二通あった。重圧な内容とは別に、便箋の中央に簡潔に書かれた内容の手紙があった。
司は今、この手紙を強く握り締め、突き出した。
山崎璃香。
瑠香でなく璃香。真相が知りたい司には、焦りが煮えたぎってしまう。
「別に驚くことはないでしょ。私は双子の妹、リカ。山崎瑠香は私の姉よ」
「ーー双子?」
「ま、別に信用されなくてもいいけど。どうする? あんたが信じないってんなら、もう話す必要がないから、帰るけど」
ーー 信じる…… のか?
璃香は正面を向いて腕を組み、悠然と向き合う姿に、記憶がざわめく。以前にもあった。それは病院の小児科病棟でピエロを見つけたとき。それに……。
「もしかして、小学校の前で会ったのは」
「そうね。あのときも私だった」
「じゃぁ、最近会っていたのは山崎じゃなくて……」
「……お姉ちゃんは二年前、別れを告げてから、一度も会っていないわよ、あんたに」
……あんた…… そうか。
小さな違和感はずっと抱いていた。それに今、気づいた。瑠香に「あんた」とは一度も呼ばれたことがなかったことに。
小学校の前で会ったとき、よそよそしく、他人行儀であったのは、こういうことなのか、と納得せざるを得ない。
ずっと自分を納得させていた。
二年の月日が、性格にも影響を及ぼしているのか、と。別人だと納得するべきなのか、まだ心は迷ってしまう。
確かに雰囲気が変わったと思っていたが、双子だと説明されれば受け入れるしかない。
司はうなだれるように頭を落とす。
「じゃぁ、あいつは……」
「お姉ちゃんは来ないわ。二度と、この場所には…… 私だって、ここにいるなは嫌なんだから」
「それって、まさか……」
「お姉ちゃん、言ったんでしょ。「私は死んだ」って。そうよ、ここでお姉ちゃんは…… 殺された……」
そこで唇を噛んで目を伏せると、璃香は組んでいた腕を下ろし、腰の辺りでギュッと拳を握った。
「お姉ちゃんは、この公園で…… レイプにあった……」
覚悟をするって、やっぱり辛いよね……。




