二 悩 ~ ピエロは笑う ~ (14)
今、繋がっているのは手紙しかない、と思えてしまう。
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また勝手に手紙を書いてしまってごめん。
前に出した手紙、この前病院で会えたのを考えれば、読んでくれたんだと信じています。
正直、山崎に言われたことに僕はこたえています。
僕のことをずっと、表情を変えないピエロと一緒だと言ったよな。本当にそうだと思うよ。
それに、花のこと。やっぱりあの絵を送ってきたのも山崎だったんだな。
リンドウ。
花言葉は「寂しい愛情」だよな。あの花。
教えてくらないか。どうしてこの絵を送ってきたんだ?
僕はどうすればいい?
本当はこの前、病院で聞けばよかったんだけど、あのとき、正直舞い上がっていたんだな。山崎に会えて。
だから、何もできないで怒らせてしまって。
だからもう一度、会ってくれないだろうか? もう一度会って、今度こそちゃんと話がしたいんだ。ちゃんと山崎と向き合いたい。
あなたが見えない。
この言葉の意味も知りたいんだ。これと花言葉とはどんな関係があるのかまでは分からなかった。山崎さえよければ、教えてくれないかな。
身勝手かもしれない。けど、連絡があるのを僕は待っているから。
いつでもいいから、連絡を下さい。
竹内 司
書き終えてシャーペンをローテーブルに置くと、司は大きくため息をこぼし、ベッドに凭れた。
はたして、これはラブレターになってしまうのか、と緊張が解けた瞬間、間の抜けた考えが頭をよぎってしまう。
「そんなわけないだろ」
くだらない考えを罵り、司は天井を見上げた。丸い蛍光灯の灯りが眩しく、視界を歪めてしまった。
病院から帰ってから、これまで後悔の念が離れてくれることはまったくなかった。
突然現れた瑠香への驚きと、嬉しさに包まれながらも、口論に発展してしまった悔しさ。話したいことの九割が喋れなかった未熟さ。すべてが司を責め棘となっていた。
眩しさに負け、視線を傾けると、ローテーブルの上には、一枚の便箋が広げられていた。
会話で伝えられなかったことを、文面で伝えようと考えたから。
スマホで伝えることもできたが、どこか安易で、薄っぺらくなりそうで手紙を選んだ。
手紙なら、以前に読んでくれた経緯もあり、また、彼女から封書が届けられているから、微かな望みがあると思えたので。
それでもうまく自分の気持ちが書けているのか自信はなかった。
鼻を擦りながら視線を横にずらした。不器用な想いを書き終えた便箋の隣に、二枚の紙が置かれていた。
二日前の夜。司がネットから拾い、印刷した物だった。
届けられた二枚のモノクロの花。どちらも同じ種類であり、何かの意図があるのは感じていた。
それを知るには、まずは花の名前を知らなければ、とネットで検索を続けていた。
モノクロのために色彩は分からなかったので、花びらの形などで調べ、ようやく見つけたのが「リンドウ」と呼ばれる花だった。
司は花に対して無知だったので、想像以上に時間をかけてしまった。それでも、花言葉の存在は知っていたので、すぐにリンドウの花言葉を調べてみた。
寂しい愛情。
デスクトップに表示された言葉に、マウスを握っていた右手が止まってしまう。
愛情。
という言葉を伝えてくれたのは、自分をまだ意識の片隅に留めてくれているのか。
うぬぼれと批難されるかもしれないが、ちゃんと理解したかった。何より、最初の紙に書かれていた言葉も含めて。
だからこそ、もう一度会って確かめたかったのだ。
照れ臭さと、怖さを我慢しながら、書き終えた便箋を三つ折りにして封筒に入れた。
封筒にはすでに瑠香の宛名を書いていた。
これを明日、近くのポストに投函すればいい。
「……返事をくれ」
封筒に書かれた瑠香の名前を眺め、願った。
繋がりを断つこと。その方が楽じゃないの? それなのに…… どうしてそこまでするの?




