二 悩 ~ ピエロは笑う ~ (9)
これは罪? それとも罰? 分かっているつもりでも、辛い……。
本音としては早く駆け寄りたい。それなのに、気持ちとは裏腹に足が震えて躊躇してしまう。
「……本当に山崎なのか」
もれたのは途切れそうな声。そばに誰かがいても、聞き逃してしまいそうな声なのだが、あたかも司の声に反応するように、瑠香はこちらに体を向けた。
瑠香に会うことを願っていたはずなのに、小柄でも凛として向き合った瑠香に、司は萎縮してしまう。
何もできずに立ちすくんでいると、「何?」といった様子で、瑠香は首を傾げる。
ここで逃げるわけにはいかない。司は息を呑み込み、重い足を鼓舞させると、瑠香のそばに向かった。
二年前の出来事も同じ状況だった。瑠香と向かい合い、司はオドオドとした目で見、それをぶれない凛とした眼差しで、不安を見据えた瑠香がいた。
今日も瑠香の変わらないたたずまいに、萎縮した司は息を呑む。
二年という時間の流れは、司の記憶さえも塗り替えていたのか、これまでリスのような丸い目だったはずなのに、どこか目尻が上がり、より冷たさが際立たせていた。
久しぶりに会った瑠香。彼女は今、どんな生活をしているのか。どこか別の高校に通っているのか。吸い込まれそうな眼差しに不安が強まってしまう。
それでも声にならない。
久しぶり。
それすら、文字が浮かんでも繫がらない。
「ーー……高校の方ですか?」
黙り込んでいた司に、瑠香はおもむろに尋ねてきた。思わず「ーーえっ?」と声がもれてしまう。
「その制服、そうですよね?」
戸惑う司をよそに、瑠香は司の胸の辺りを指差していた。
何、言っているんだ? 冗談?
耳を疑ってしまう。二年前、短い期間であっても瑠香も着ていた制服。それなのに瑠香はどこかよそよそしい。
「ここの女の子のって可愛いですよね。得にスカートが」
「ーーお前、何ーー」
「私の知り合いが昔、通っていたんです。それで見ていたので」
冗談、言うなよ。
と、続けようとしたが、間髪入れずに遮断されてしまう。
そのまま手の平を見せて制したが、瑠香はさらに険しい表情で司に立ちはだかった。圧倒された司は手を下げてしまう。
私たちは初対面です。私はあなたのことを知りません。あなたも私のことを見るのは初めてですよね?
と、短い間に強い意志がヒシヒシと伝わり、それだけの言葉が襲ってくる。逆らうことのできない威圧に、胸が苦しくなる。
これは罰だ。
あの日、無理にでも瑠香を引き留めなかった臆病な自分に対して。勇気がなく、立ちすくんでいた自分に。
これは形のない叱責。瑠香が自分を拒んでいるのなら、それを甘んじて受け入れなければいけない現実なんだと。
「やっぱり、そうですよね」
瑠香の嘘に乗ったとき、それまでの険しさが嘘みたいに晴れていく。偶然出会ったことに喜ぶように、満面の笑みで。
ここでは笑うべきかもしれない。けれど懐かしい笑みに、司の頬は引きつってしまった。
「この小学校、廃校になっていたんですね」
懸命に明るく振る舞おうとしていると、瑠香は向きを変えて正面越しに校舎を見上げた。
つられて司も見上げた。
廃校とはいえ、まだ四年。それほど崩れてはいなかった。
「はい。四年前だったかな。子供が少なくなったのが原因らしいです。やっぱり」
「知ってるんですか?」
「えぇ、まぁ。一応、ここの卒業生なんで、僕」
あくまでよそよそしく、他人行儀に答えていたが、最後は恥ずかしくなって頬を指で掻いてしまった。
「じゃぁ、寂しいですよね」
「寂しいか…… 考えてもみなかったな」
それまでまったく気にしていなかったが、改めて言われると、校舎とともに記憶が蘇る。虚しさが今になって実感してしまう。
「じゃぁ、もう無理なのかな……」
「何かあるんですか?」
下唇を噛み、残念がる瑠香に思わず聞いてしまった。すると、瑠香はかぶりを振る。
「単なる噂かもしれないんですけど、ここの屋上をから花火が見えるって。私の知り合いが言っていたんです。眺めがいいって」
「そうですよ」
「あれって、本当なんですか?」
「ーーはい」
その知り合いって、僕なんだろうか?
疑問を呑み込み頷いた。
二年……。積み重なったのは時間だけなの? それ以上に積もるものは何?




