二 悩 ~ ピエロは笑う ~ (8)
何度も綴ってしまう。「ごめん」と……。それが正しいのかも分からないまま……。
3
突然の手紙、ごめん。
電話でもよかったんだけど、それだと出てくれるか不安だったから、こうして手紙を書くことにしました。
実は、こうして手紙を書いたことがなかったから、ちょっと緊張してしまっているんだ。バカだよな、僕ってほんとに。
でも、何を書けばいいか分からないんだ。けど、この前、学校で噂を聞いたんだ。
そしたら、急に会いたくなったんだ。
あの日、君が僕のことを「好き」だと言ってくれたとき、本当に嬉しかった。誰かに好きだと言われたのが初めてだったから。
うまく返事はできなかったんだけど。
あのとき、君が行ったあと、僕は何もできなかった。きっと、君にも事情があるのは分かってる。
けど、本音を言えば、つらかった。
きっと、ずっと我慢していたのかな。
ごめん。僕は何度謝っているんだろうな。けど、やっぱり最近、強く思うことがあるんだ。
会ってくれないかな。
僕のわがままなのは分かっている。ストーカーみたいなことをするなって、怒るかもしれない。けど、ダメかな?
突然、勝手な手紙を出してごめん。
支離滅裂だよな。うまく書けない。
けど、何でもいいんだ。返事をくれないかな。なんでもいいから。返事をもらえると嬉しいです。
待っています。
見当違いなのかもしれないが、屋上に置いてあったピエロは、瑠香の仕業なんじゃないか、と考えてしまった。
瑠香が何か思惑を持ち、ピエロを置いたんじゃないか、そして何かを訴えるために紙切れを入れたんじゃないか、と。
小学校からの帰り、静寂した住宅街の一角に立つポストを見つけたとき、手紙を書いてみようと考えた。
電話などで済ますにはどこか物足りなさがあり、手紙にした。
瑠香の住所まではさすがに知らなかったが、友達を辿ってどうにか手に入れることができた。もちろん、瑠香との関係を話してはいない。
意外にもそれを黙っているのが最大の難関ではあったが、上手く進んでくれた。
そして、何度も頭のなかで言葉を並べては消して。を繰り返していた。最初は敬語を使っていたが、どこかよそよそしくなって気持ち悪くなり、素直な言葉を並べた。
「この花もあいつなんだろうか?」
自分の部屋に戻ると、以前に届いた花の絵を眺め、疑問を投げかけてみた。
手紙を投函してから、どうしても肌で感じる時間がとても長く思えた。早く返事はないか、と焦りが司の周りにつきまとっていた。
静かに一週間が経っていた。
返事は一向にないのに、司はじっとしていられず、また小学校に体が向かっていた。
曇天が広がる空の下。重たい足取りのせいか、司は目を伏せて歩いていた。学校帰り、制服のまま赤いスニーカーが地面を蹴っていた。
人の気配はなく静かで、時折通る車のエンジン音がより鮮明に聞こえていた。
住宅の隙間を縫う風も、曇り空の影響で生暖かく、頬に触れても気持ち悪かった。
細い道を歩いていると、小学校の校舎が見え隠れしていた。自分もここを通学路として歩いた道。体は多少感覚を覚えていた。
そういえば、一限目に算数がある日は、気が重かったと思い出した。そのころから、数字とは仲がよくなかった。
一限目から算数の授業が組み込まれていると、拒絶反応から動悸が激しかった。それを友達とくだらない話でごまかし、忘れさせようと奮起していたのを、つい思い出して嘲笑してしまった。
なぜなら、今まさにあのころ襲っていた動悸に、焦りとなって肩を掴まれていたから。
気持ちをごまかそうにも、友達はこの場にいない。司の胸は締めつけられる一方だ。
窒息してしまいそうな苦しさから足を止め、一呼吸置くと、頭を上げた。
「ーーあれは?」
つい目を凝らしてしまう。小学校の正面前。敷地の奥の校舎を眺める一人の女の子の姿があった。
司は目を剥き、両手を強く握りしめた。すぐに声に出したいのに、言葉が躊躇して喉の奥に詰まっていた。
飛び出してくれない歯痒さに、奥歯を噛んでいた。
衝撃だったベリーショートの髪は、肩の辺りまで伸び、風に微かに揺れている。
背はあのときと変わらなそうだ。表情は読み取れない。それでも、真剣に校舎を眺めているのは伝わってくる。
「ーー山崎」
白いシャツに、ピンクのスカート姿の瑠香の横顔がそこにあり、ようやく出たのは名前だけに止まってしまう。
あなたは…… どうしてその名前を呼ぶの?




