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手紙のこと  作者: ひろゆき


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20/37

 二  悩  ~ ピエロは笑う ~ (8)

 何度も綴ってしまう。「ごめん」と……。それが正しいのかも分からないまま……。

               3



 突然の手紙、ごめん。

 電話でもよかったんだけど、それだと出てくれるか不安だったから、こうして手紙を書くことにしました。

 実は、こうして手紙を書いたことがなかったから、ちょっと緊張してしまっているんだ。バカだよな、僕ってほんとに。

 でも、何を書けばいいか分からないんだ。けど、この前、学校で噂を聞いたんだ。

 そしたら、急に会いたくなったんだ。

 あの日、君が僕のことを「好き」だと言ってくれたとき、本当に嬉しかった。誰かに好きだと言われたのが初めてだったから。

 うまく返事はできなかったんだけど。

 あのとき、君が行ったあと、僕は何もできなかった。きっと、君にも事情があるのは分かってる。

 けど、本音を言えば、つらかった。

 きっと、ずっと我慢していたのかな。

 ごめん。僕は何度謝っているんだろうな。けど、やっぱり最近、強く思うことがあるんだ。

 会ってくれないかな。

 僕のわがままなのは分かっている。ストーカーみたいなことをするなって、怒るかもしれない。けど、ダメかな?

 突然、勝手な手紙を出してごめん。

 支離滅裂だよな。うまく書けない。

 けど、何でもいいんだ。返事をくれないかな。なんでもいいから。返事をもらえると嬉しいです。

 待っています。



 見当違いなのかもしれないが、屋上に置いてあったピエロは、瑠香の仕業なんじゃないか、と考えてしまった。

 瑠香が何か思惑を持ち、ピエロを置いたんじゃないか、そして何かを訴えるために紙切れを入れたんじゃないか、と。



 小学校からの帰り、静寂した住宅街の一角に立つポストを見つけたとき、手紙を書いてみようと考えた。

 電話などで済ますにはどこか物足りなさがあり、手紙にした。

 瑠香の住所まではさすがに知らなかったが、友達を辿ってどうにか手に入れることができた。もちろん、瑠香との関係を話してはいない。

 意外にもそれを黙っているのが最大の難関ではあったが、上手く進んでくれた。

 そして、何度も頭のなかで言葉を並べては消して。を繰り返していた。最初は敬語を使っていたが、どこかよそよそしくなって気持ち悪くなり、素直な言葉を並べた。

「この花もあいつなんだろうか?」

 自分の部屋に戻ると、以前に届いた花の絵を眺め、疑問を投げかけてみた。



 手紙を投函してから、どうしても肌で感じる時間がとても長く思えた。早く返事はないか、と焦りが司の周りにつきまとっていた。

 静かに一週間が経っていた。

 返事は一向にないのに、司はじっとしていられず、また小学校に体が向かっていた。

 曇天が広がる空の下。重たい足取りのせいか、司は目を伏せて歩いていた。学校帰り、制服のまま赤いスニーカーが地面を蹴っていた。

 人の気配はなく静かで、時折通る車のエンジン音がより鮮明に聞こえていた。

 住宅の隙間を縫う風も、曇り空の影響で生暖かく、頬に触れても気持ち悪かった。

 細い道を歩いていると、小学校の校舎が見え隠れしていた。自分もここを通学路として歩いた道。体は多少感覚を覚えていた。

 そういえば、一限目に算数がある日は、気が重かったと思い出した。そのころから、数字とは仲がよくなかった。

 一限目から算数の授業が組み込まれていると、拒絶反応から動悸が激しかった。それを友達とくだらない話でごまかし、忘れさせようと奮起していたのを、つい思い出して嘲笑してしまった。

 なぜなら、今まさにあのころ襲っていた動悸に、焦りとなって肩を掴まれていたから。

 気持ちをごまかそうにも、友達はこの場にいない。司の胸は締めつけられる一方だ。

 窒息してしまいそうな苦しさから足を止め、一呼吸置くと、頭を上げた。

「ーーあれは?」

 つい目を凝らしてしまう。小学校の正面前。敷地の奥の校舎を眺める一人の女の子の姿があった。

 司は目を剥き、両手を強く握りしめた。すぐに声に出したいのに、言葉が躊躇して喉の奥に詰まっていた。

 飛び出してくれない歯痒さに、奥歯を噛んでいた。

 衝撃だったベリーショートの髪は、肩の辺りまで伸び、風に微かに揺れている。

 背はあのときと変わらなそうだ。表情は読み取れない。それでも、真剣に校舎を眺めているのは伝わってくる。

「ーー山崎」

 白いシャツに、ピンクのスカート姿の瑠香の横顔がそこにあり、ようやく出たのは名前だけに止まってしまう。

 あなたは…… どうしてその名前を呼ぶの?

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