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手紙のこと  作者: ひろゆき


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 二  悩  ~ ピエロは笑う ~ (7)

 そこに行くことを望んでいたんだ。そこで……。

 見つかってしまえば、それは不法侵入? それともまた別の罪? と、何かしらの罪になるのだろうな、と皮肉りながらも、その日の夕方。司はある小学校に来ていた。

 もしかすれば、以前に訪れていたかもしれない小学校に。

 久しぶりに訪れた小学校の校舎は、通っていたころよりも小さく感じてしまう。

 グランドは囲む緑のフェンスで覆われていた。学校の敷地のそばには、用水路が隣接している。

 用水路とフェンスの間には通路があり、通路はそのまま裏道へと繋がっていた。

 その途中は、小学校に面した公道から死角になっており、フェンスをよじ登れば、容易に敷地内に忍び込めた。司も初めてではあったが、忍び込んだ。

 午後七時を回っていた。最初は制服姿のままで、と考えたが、誰かに見られるのを恐れ、ラフな格好に着替えていた。

 忍び込んだあと校舎に向かい、階段を登ると、屋上に忍び込んだ。

 噂は本当だっらしく、簡単に入れた。

 ここで、もし鍵がかかっており、仮にも瑠香とここに来ていたのなら、司は赤っ恥をかいていただろうと、内心嘲笑した。

 屋上には出ることができ、ほっと安堵していると、風が司を迎え入れるように頬を撫でた。

 気のせいか、地上よりも心地よく感じる。

 風に髪が流れるなか、辺りを見渡すと、数年間放置されていたさいか、床のコンクリートのマス目の隅にひび割れや、雨の跡で藻が発生して、この場所が廃墟であるのを強く表していた。

 空は晴れているのに、至る場所に染みがあるせいか、歩いていると、どこかぬかるみを歩いているみたいに、靴底がめり込む錯覚に陥ってしまった。

 心なしか、湿気臭い。

 ついさっきまでの心地よさが一気に冷めてしまい、つい指で鼻を擦ってしまう。

 本来、ここは立ち入り禁止の場であるのだが、屋上のいたるところにゴミが散乱したいた。

 空き缶が風に押されて屋上を転がり、フェンスの淵にぶつかっている。白いビニール袋にスイーツの何かのゴミが入ったまま放置され、転がっていた。

 明らかに廃校になったあとに、誰かが忍び込んでくつろいでいた証拠であった。

 散乱するゴミを怪訝に眺めながら、フェンスのそばに来ると、脆くなったフェンス越しに、花火大会の行われる川がある方角を眺めた。

 静寂な住宅街を横断する川。そこから打ち上げられる花火を思い浮かべてみた。しかし、すぐさま想像の淵から現実に無理矢理引き戻された。

 振り返ってみると、ゴミが散乱した屋上が待ち構える。つい目を伏せてかぶりを振ってしまう。

 思い描いていた場所とかけ離れており、幻滅していると、ふと動きを止めて顔を上げた。

 なぜだろうか。誰かに見られているような錯覚に陥る。

 もう一度屋上を見渡すが、やはりゴミが落ちているだけで、人の気配などなかった。

 氷が背中を転げ落ちたような、急激に襲う寒気に、司の足はすくんでしまう。

 恐怖心が忍び寄り、まとわりつきそうな気味悪さから逃げ出そうと、中央の辺りに進んだところでふと足が止まり、横に振り返った。

 行きに上ってきた階段とは別の、校舎へと続く扉の脇だった。驚きを隠せない司は目を見開いてしまう。

「あのときのピエロ……」

 引き込まれるように、扉のそばに近づいていき、呟いてしまう。

 扉のそばで座り込むように置かれていたのは、黄色い衣装のピエロ。そいつは家具屋の本棚に座り、司に不敵に笑っていた奴。

 瑠香に「可愛い」と言わせたピエロと同じ奴であった。

 ピエロのそばに近づくと、ピエロを拾い上げた。

「こいつ、あいつか?」

 いつからこのピエロはここに座っていたのかは分からない。けれど、ホコリなどはさほどついておらず、服も日に焼けた形跡がない。フェルト生地の肌も、綻びは目立たない。

 この数日間に、ここに置かれたのだと察した。

 マラカスを手にしたりピエロを顔の前まで上げると、ピエロと睨み合った。

 不敵な笑みを崩さないピエロに対し、司の頬は次第に険しくなり、唇を噛んでしまう。

 それでも、何かを訴えてくるピエロを地面に降ろすことはできず、つい観察してしまう。

 ピエロの両手を上げさせバンザイさせても、ブーツを履いた足底を見ても異変はない。

 しかし、背中を見たときに手が止まり、眉をひそめた。背中に五センチほどの筋が刻まれていたのだ。

 誰かが故意に布を切り裂いたのか、元からそうなのか分からないが、溝を見つけてしまうと、そこに手を入れてしまった。

 綿の柔らかい感触が指先に触れていると、「あっ」と声がもれ、つい前かがみに食い入ってしまった。

 ピエロのなかに、何か紙が入っている感触があった。

「ーー紙切れ?」

 指先で摘まんで引き抜いてみた。すると、四つ折りにされた小さな紙切れが出てきた。つい、何かの謎解きを正解したみたいで、心が躍ってしまった。

 小さな紙切れを開いてみると、

「……あなたには見えていますか?」

 何かを訴えるような一言が、そこに書かれていた。

「……見えている? 何が?」

 それはピエロからの問いかけなのだろうか。

 そこから見える景色はどんな色なの?

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