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手紙のこと  作者: ひろゆき


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 二  悩  ~ ピエロは笑う ~ (6)

 その言葉は? 何が言いたいんだ?

 あれは空耳だったんだと、無理矢理納得させようとして、四日が経った日、バイト帰りで家にはかなり遅くなっていた。

 以前とは違う仕事。あるスーパーの品出しのバイトだった。以前より閉店時間が早かったので、時間的には以前よりも早く帰っていた。

 意外にも体力仕事になってしまい、家に着くと疲労困憊で、そのままベッドに倒れたかったが、郵便ポストに投函された一通の封筒に意識が止まる。

 A4サイズの封筒を手にした司は首を傾げてしまう。

 バイトの日は司が家に着くのが最後なので、夜に投函されたのは明白であった。

 宛名は「竹内司様」と書かれていたが、怪訝に唇を噛んでしまう。それは、封筒に名前は書かれていても、住所が書かれておらず、切手すら貼られていない。

 直接投函された不可解な封筒に不信感を強めながらも、とりあえず家に入った。

 不気味さは当然あったが、得体の知れない闇に手を伸ばそうとする、無邪気ともいえる好奇心が、司の熱を静かに上げた。

 そして、不信感を好奇心が打ち負かしたのは、日付が変わる午前十二時を回ったところだった。

 パジャマ代わりのスウェット姿で、疲れで重たい頭を鼓舞して、ベッドの上で胡座を掻くと、壁に凭れて封筒を握っていた。

 静かに湧き上がる好奇心を鎮め、封を開けた。封筒のなかに手を入れると、一枚の紙が入っているのが手触りで分かった。

 ゆっくりと引き出してみる。


 あなたはどこにいますか?


 取り出した紙を見た瞬間、またしても難しい表情になる。

「なんだよ、これ?」

 白い紙の右下に一言、何かを訴える言葉が記されていた。意味の分からない投げかけに、唸るしかなかった。

 さらに司は困惑させられ、壁に頭を凭れた。

 意味不明の言葉の上に、一輪の花の絵が描かれていた。

 鉛筆で描かれていた白黒の花。花びらの陰影が鮮明に描かれており、花びらの柔らかさ、葉っぱの強さ、花の周りを包む影が丁寧に描かれていた。

 司はデッサンなどは苦手だったので、賞賛の声を上げたくなる絵であったが、しばらくして驚きによる高揚感も鎮まっていく。

 やはり意図が掴めない。

 これはあいつなのか?

 


 暗い闇のなか、一滴の水がポツンと滴り落ちた。

 水面に丸く波紋広げると、水面に一輪の花が揺れた。

 封筒に入れられていた紙に描かれていた花が、鏡のように映っている。

 もう一滴、空から落ちた水が揺れると、闇に消えていった。



 次の日の朝。胸の底をえぐり取られたような空虚感に襲われ、目を覚ました。夢の内容が克明に刻まれてしまい、目蓋が重いなか、司は学校に向かった。

 昨日サボってしまい、さすがに二日も休んでしまうのは気が引けてしまうのだが、どうしても体は家に引き返そうとしてしまうなか、司は足を止める。

 もう、そんな時期なんだ。

 住宅街の一角にある掲示板に、司は目を奪われてしまう。

 掲示板には七月に行われる花火大会の案内が貼られていた。

 夜空に咲く花火の写真を眺めていると、司の記憶の奥底がざわめき、息を詰まらせるほど、内蔵を叩きつけていた。

 あの日、司は叫んだ。一緒に行こうと。


 いい場所があるんだ、小学校の……。


 空に舞った言葉が司を苦しめた。

 小学校。

 司が昔に通っていた小学校だが、司が中学二年のとき、少子化の影響を受け、隣町の小学校と統合されることになり、結果的には廃校になっていた。

 まだ司が通っているころ、花火大会の日に校舎に忍び込み、屋上で花火を見物している者が少なくなかった。

 それは司たち生徒にも噂として流れていた。もちろん、教師の間ども知られていたらしいが、どこか、黙認している節があった。

 正門、裏門ともに監視カメラが設置されていたが、生徒や卒業生の間では、その死角が知られており、意味をなくしていた。

 屋上には校舎の外に直接続いている外付けの階段があり、屋上とを隔てる扉の鍵には、針金やガムを詰め込み、施錠できないようにされていた。きっと、誰かが忍び込むのを容易にするために、手を加えたらしい。

 中学生になり、廃校になってからは監視の目も緩くなったらしく、忍び込むのはさらに簡単になったと聞いたことがあった。

 だからこそ、あの日、司は一緒に行ってみたいと思った。

 それまでは司も忍び込んだことはなかったのだが。



 あの日、願いは遠ざかる小さな背中とともに崩れ去った。あれから結局、花火大会の日に小学校に行くことはなかった。

 掲示板を眺めていると、ふと考えてしまう。

 行ってみるか、と。

 あの日の声は…… どこに向かったの?

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