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手紙のこと  作者: ひろゆき


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 二  悩  ~ ピエロは笑う ~ (5)

 大勢の人がいると、つい探してしまう。どうしても……。

 一階に戻り、正面ロビーへと向かった。時間にして十分ほど前に通ったのだが、先ほどよりも人数は減っていた。

 診察を終え、会計カウンターに向かう人に紛れて歩くと、受付ロビーのエントランスに出る。

 すでに受付時間が終えており、ほとんどの人が会計カウンターの前に流れて、溢れた人によって椅子はすべて埋まっていた。

 ふと、司は足を止めてしまう。

 分かってはいる。無謀な願いだと痛感していても、待っている人の顔に注目してしまう。

 あの黒髪、リスのような丸い目。人の合間に埋もれるかと疑うほどの、小さな背丈。髪はあの衝撃を受けたときから伸びているだろうか。

 そんなことを考えながら、司は目を凝らしてしまう。きっと、また眉間にシワが彫られ、目つきの悪い獣みたいに吊り上がっているだろう。草むらで草食動物を狙って潜んでいるように。

 何人もの人を眺めたあと、諦めて目を伏せた。やはり、彼女はいない。

 もう、諦めよう。

 集中しすぎて疲れてしまい、眉間を指で揉みながら、体を正面の扉へと向けた。

 眉間を揉んだまま、うつむき加減で足を進めた。いつしか消毒液の臭いには抵抗がなくなっていた。

「ーー竹内司っ」

 慣れてしまった消毒液に名残惜しんでいると、司は息を呑んでしまう。

 突然、どこからともなく自分の名前を呼ばれて。

 どこか聞き覚えのある、索漠として棘のある口調であったが、彼女の声。耳に届いた瞬間、司はすぐに振り返った。

 ざわめきのなかに逃げ込んでしまった声。動揺が邪魔をして、挙動不審に目線が泳いでしまうが、司を意識する者はいない。

 何人かはあたふたとする司を横目に去っていき、何事もなかったように時間が流れていく。

 それでも辺りを捜してしまう。受付ロビー、会計カウンター、さらには通路を歩く人、診察室へ向かう人の後ろ姿まで追ってしまうが、やはりどこにも彼女の姿は見当たらなかった。



 確かに聞こえたのか、それとも司の願望が空耳となって聞こえていたのか。

 ただ、聞こえた声は司の体の奥底に重く沈み、彼女に対する感情が強まっていく。

 それでも、気の迷いだと、自分の気持ちをごまかすことにした。

 竹内司……。

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