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手紙のこと  作者: ひろゆき


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 二  悩  ~ ピエロは笑う ~ (4)

 授業をサボる罪悪感なんか気にしない。責められても、やっぱり……。

 数学は苦手だった。数式を答えろといわれても、どう答えればいいのか、ペン先が宙で迷子になってしまう。

 ペン先を誘導するにはどうすればいいのか。

 簡単だ。問題に直面しなければいい。

 金曜日の三時間目に数学を組み込んだ学校が悪いのだ、と司なりの湾曲した結論を導き出す。

 答えはサボり。

 現実にいえば二時間目が終わったあと、学校を抜け出した。

 明日、担任の石田に叱咤されれば、気分が悪くなり早退したと言えばいいと、高を括っていた。

 現に司は病気になれば訪れる病院にいたのだから。

 ピエロが呼んでいる。バカげた話だが、本当に司はそう考えていた。

 金曜日の昼間、時間的には昼食前であり、午前の診察に駆け込む人や、会計の清算でロビーは人で混んでいた。

 受付ロビーの横。奥へと続く通路を進み、内科、小児科を通りすぎる。やはり、小児科の前はどこか賑わっていた。

 さらに進むとエレベーターホールとなり、そのままエレベーターに乗り込むと、入院病棟に辿り着いた。

 扉が開くと気のせいか、一階にいるときよりも消毒液の匂いが強いようで、鼻を触ってしまう。

 正面の白い壁に、左右に伸びる通路の表示がされていた。小児科は右の通路を進んだ先にあった。

 さすがに平日の昼。病棟に制服姿は浮いており、司は重い足取りで歩いた。

 すると、先の一角から、賑わっている声がこちらに届いた。

 通路には右側に自動販売機と、いくつかの椅子が設置された休憩所で、通路を挟んだ前はナースステーションになっている。

 通路はナースステーションの角を左に曲がると、病室が並ぶ通路になっていた。

 声がもれていたのは、正面にあるガラス張りの部屋から。よく見ると、入院患者だろうか、パジャマ姿の子供と、親らしい女性の姿が集まって賑わっていた。

 部屋は大きめの共用の休憩室らしく、今日はイベントのためか、パイプ椅子が弧を描くように並べられ、子供たちが椅子に座っていた。親らしき人物は、その後ろや壁際に立っていた。

 そして誰もが扇の中心に注目し、目を輝かせていた。中心にはこのイベントの主役であるピエロがいた。

 子供たちの先にいた小柄なピエロは、黄色いつなぎの衣装に、ちょっと小太りで、いかにもおっちょこちょいな雰囲気を醸し出していた。

 特徴的な赤鼻で、大きな口で満面の笑みを振る舞いながら。

 赤いアフロ姿は以前、家具屋にいたピエロがここに飛び出してきたみたいで、ふと思い出して懐かしくなった。

 司は休憩室には入らず、ナースステーションの手前で立ち、遠目でなかの様子を伺った。

 やはり制服姿の高校生が入るのは場違いで恥ずかしい。周りを見渡しても、同年代の者など一人もいなかったから。

 それでもその場を離れずにいると、椅子に座るこどものなかに、以前、一階のコンビニで買い物をしていた男の子を見つけた。やはり入院患者だつたらしい。

 ただ、違和感を覚えてしまい、司は眉をひそめてしまう。

 ほかの子供は、ピエロの動きに歓声を上げて夢中になっているのだが、その子は仮面 でも被っているみたいに無表情で関心はなく、ピエロを呆然と眺めていた。

 面白くないのだろうか、と司は不思議になって逆に気になってしまう。

 目線を動かしていると、お手玉をしていたピエロが玉を落として失敗し、あたふたとおどけた。

 コロコロと転げる玉を、プリプリとお尻を振って追う姿に子供たちは笑い声が咲いた。

 玉を拾い上げたピエロが再びお手玉を始めると、今度は成功して、親たちからも歓声が湧き上がった。

 宙に舞っていた玉がピエロの手の平に戻り、左手を腰に当ててお辞儀をすると、今度は拍手が起こる。

 顔を上げたピエロがおどけて笑うと、ふと司と目が合ってしまう。ピエロは何事もなかったように、大きな目をほころばせたが、司は急激に胸を締めつけられた。

 ふと我に返り、周りを見た。今日、司がここに来た理由はピエロを見に来たわけではない。瑠香を捜していたのだ。

 また微かな焦りに襲われて必死になったが、当然ながら瑠香の姿はどこにもない。

 あらためて、司自身がこの場にいづらくなり、その場から離れた。

 エレベーターに乗り込むと壁に凭れ、ふとため息がこぼれる。

「……何、期待してんだか」

 自分が情けなくなり、自然とこぼれたあとに頭を抱えた。

 みんなを楽しませるのは難しいよね。でも、笑えるのなら、笑えた方がいいよね。

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