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手紙のこと  作者: ひろゆき


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 二  悩  ~ ピエロは笑う ~ (1)

 心に鍵を閉めているはずだった。もう、見えないと思っていた。

             二


             1



「司くんってさ、誰を見てんの?」

「誰って、なんだよ」

「私のこと、見てる?」

「はぁ? なんだよ、それ。それこそ、意味分かんないよ」

「だから言ってんの。誰か別の子と付き合ってるんじゃないの?」

「はぁっ? 人を疑うのもいい加減にしろよ」

「……もう、いい。別れよ、私ら」



 半年ほど付き合っていた彼女から、突然の別れを突きつけられたのは日曜日の朝。家から五駅は離れた駅前にあるファミレスでの出来事。

 一方的に別れを告げた“元”恋人は、注文したアイスティーを一口も飲まずに席を立ち、そそくさと店を出て行ってしまった。

 きっと、周りから見れば、別れ話の光景で、無様にフラれた司は滑稽に映っていただろうと、自らを嘲笑してしまう。

 浮かない表情のまま、ボックス席のソファに凭れた。テーブルの上にはアイスティーのほかに、メロンソーダ。これも一口も飲まれないまま置かれている。

 甘い物好きの司が頼んだ商品であったが、子供じみたものを頼んだのも、嫌気が差す原因の一つだったのだろうか、と頭によぎると、目を逸らして店の外を眺めた。

 窓際の席に座っていたので、外の人の様子がよく飛び込んでくる。

 どんな人がいるのか観察していると、休日も重なってか、人通りも多い。小さな子供連れや、恋人同士の姿が目立っていた。

 誰かを見つけたわけでもなく、ふと司の動きが止まった。

 ガラスに反射した自分の姿に幻滅してしまい。

「ーー誰を見ている、か」

 ガラスに映っているのは、どこか焦点の定まっていない情けない顔。遊園地の中心で迷子になった子供みたいに、どこか切羽詰まっているようにも見えた。

「別に誰かをって……」

 砂を喉に詰められたみたいに、気持ち悪くなった。



 ピエロは笑っていた。

 短い期間であったが、毎日通っていた商店街の一角。家具屋の前に司は立っていた。

 あの日、あの駅で小さな背中が去ってから、いくつかの季節が巡り、二年が経っていた。

 いつからだろうか。自分で区切りをつけ、きっぱりと忘れていたはずだった。

 あれからちゃんと“恋人”と呼べる人もいた。あの小さな背中は、もう記憶の奥にしまっていたはず…… なのに。

 誰を見てるの?

 バイト先で出会った恋人に責められて、ようやく気づいてしまった。

 何気ない日常を、平穏に暮らしていると思っていたのは、間違いだったらしい。

 女々しいよな、ほんと。

 心のどこかで、まだ山崎瑠香の姿を消せずにいた。

 フラれたのは自業自得ともいえる状況に嘲笑し、ショーウィンドーを眺めた。ディスプレイされた一角は、二年前と変わらない光景が広がっていた。

 しかし、二年前、司を見ていた黄色い服のピエロはどこかに旅立ってしまったらしく、今は別のピエロが本棚の二段目に立っていた。

 今は赤い服を着たピエロが小太鼓を抱え、両手にバチを持っていた。どこかで音楽が鳴ると、小太鼓を叩こうとしているようだ。

「ま、それだけ時間が経っているってことだよな」

 時計の針が逆戻りすることはない。もう、戻れない……。

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