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ハーピーは街道に似合わない  作者: 斉木明天
第四章:ハーピーは街道に似合わない
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40.自由の限りの締結

 締結が走らせるバイクが、コンテナの上を走りだした。


「おらぁっ!」


 コンテナの端にまでバイクがたどり着くと、締結はバイクに乗ったまま跳び上がる。

 そして、角度が傾いて浮かんでいるコンテナに狙いを定め、その表面に着地した。それからの勢いは止まりを知らない、次から次にコンテナの上を跳びのっていき、宙に浮かぶ卯未へ接近してきた。


「それがなんだ。あんた生身の方が強いだろ!」


 卯未は締結の攻撃に対して、脚を構える。


「どうだろうなぁ!」

「な……っ!」


 締結は席から立ち、バイクの前方に身を乗り出したかと思うと、バイクを掴んで振り回してきた。

 鉄パイプとは比べ物にならない質量。それが卯未の全身に直撃する。

 卯未はガードしていた体もろとも地面へ向かって打ち飛ばされた。


「えほっ、けほっ! ぐうぅ!」


 呼吸が一瞬詰まったのを整えて、卯未は翼を翻す。

 地上に体をぶつける直前、翼で衝撃を和らげる事に成功しゆっくりと着地した。


「さっきのだけじゃねえ」

「!」


 顔に影が差したかと思うと、上から締結が降って来ていた。

 締結は、卯未の頭を両腕で勢いよく振り下ろす。が、卯未の頭にその一撃は入らなかった。

 急ぎ、付き上げた卯未の右足が、まっすぐ上へと蹴りあがってその一撃を抑え込んでいる。


「初見なら、なんでもかんでも見切れないと思ったか!」


 卯未はそのまま右足の爪で、締結の拳を掴む。そのまま激しく羽ばたき、締結ごと空に浮かぶと、逆に締結を地面に投げつけた。

 締結は、背中から地面に衝突し、血反吐を吐く。


「ごはッ!」


 口から真っ赤な血を吐いた締結だが、即座にその頬に真っ黒な毛細血管が走る。すると、咳き込んだばかりの呼吸が落ち着きを取り戻し、またも卯未に跳びかかってきた。


「艦上のクルー達と一緒か…!」


 攻撃しても攻撃しても、再生してくる。まさに不死身の兵士だ。


「あっはっはっは、あっはっはっはぁ!」


 締結は聞きなれた笑い声を上げながら卯未に殴りかかってきた。


「凄いぞ! さいっこうに楽しい! この間は自分が何も考えない内に死んだらそれでいいか、みたいな気持ちで受け身取らねえで攻撃してきたやつが、かなり良いガードするようになってきてんじゃねえか!」


 そこからは猛攻の嵐だった。

 締結の攻撃を卯未が翼で弾き飛ばしたら、締結はコンテナの上に乗って鉄パイプを投げてくる。

 その攻撃を卯未が足爪でキャッチをすると、鉄パイプの隙間からどろりと沼が溢れてきて、卯未の足を絡めとる。

 卯未がうわっと声を挙げて鉄パイプを振りほどこうとしたら、その隙に締結が卯未に飛び掛かってきて背中から羽交い絞めにする。

 何事かと卯未がばたつくと、締結は卯未を空に向けて仰向けにする。


「!」


 卯未が気が付いてみれば。眼前に締結が空中にさっき捨てたばかりのバイクが迫ってきていた。

 卯未はすかさず翼を振り、今度は自分の手で地面に向かって急降下する。

 地面に、締結を下敷きにする形で落下。自分と床で締結をプレスした。


「がはっ!?」

「お前が喰らってろ!」


 衝撃で締結が卯未から手を離したところで、卯未はそのまま横へ転がり離れる。

 そこに、締結の腹目掛けてバイクが直撃した。

 卯未背中にバイクの部品が当たる程、あちこちにパーツがぶち巻かれた。


「どうだ、戦闘狂! ざまを見ろ!」


 卯未が立ち上がり、締結に目を向ける。どんだけ高い所から落ちてきたバイクを受けたと思ってんだ、さすが潰れてるだろ。そう思った。

 だが、バイクの残骸がうごめきだした。


「……嘘でしょ」


 思わずため息が出てしまう。だが、それで何が変わるとわけでもない。バイクだった残骸を押しのけると、その下から締結が現れた。


「ひゅぅ…! やっぱおもしれえぜ、あんた」

「……そりゃどうも」

「本当に驚いたんだぜ? たった一日の仲だが、あんたの目はだいぶ変わった。何があったんだ?」

「見ての通りだよ。エリカを救うため、どかせるまで!」


 卯未は締結に翼を広げて飛びかかった。跳び蹴りをかまそうと足を上げる。

 だが、そこで妙な動きに卯未は気が付いた。


「…?」


 締結が、むしろ足側に当たりやすいように、()()()()()()()()()。結果的に蹴りやすくはなったが、締結は足による攻撃だと気づくと、腕を構えてガードした。

 なぜ、脚ばかりが攻撃である奴相手に、この男はわざわざしゃがんだんだ?

 卯未は疑問に思ったが、その答えはすぐに出た。


「……あれか!」


 卯未は間合いを取り、締結とにらみ合う。

 この男。こっちの足業なんてそんなに危険だと思ってないのかもしれない。

 それよりも、受けたらまずいと思っている攻撃がある事になる。考えられるのはただ一つ、こいつの体を一度真っ二つにした想翼刃(そうよくば)だ。

 あの時、あの一撃で締結は危険だと判断したのか?これだけは受けるのはまずいと思ったのか?

 沼が繋ぎ直せないほどに、沼そのものにダメージが与えられるのだろうか?


「……やってみる価値はあるか」


 自分は、ここでくすぶっている場合じゃない。

 エリカが生きて、すぐそこで待っているんだ。それだけが頭の中に込み上がってくる。


「! おいおい……」


 戦いを楽しみばかりしてた締結の顔が一変した。

 笑いつつも、口元を多少引きつらせて眉を潜める。やはり、締結はこれを恐れている。

 もっとだ。もっと集中するんだ。憎いとか許せないとか、そんなんじゃない。エリカに帰ってきてほしい。そのために、今必死で戦ってるんだ。

 そう念じ始めると、身体の中を心臓から肩へ、そして腕から翼の羽の一番端まで。熱を持った蒸気が流れるような感覚を掴み始めた。

 蒸気はやがて、翼の先に溜まり密度を高めていく。噴き出す先を求めてるとばかりにパンパンに膨れ上がっていく。

 今だ。その溢れんばかりの蒸気を、か細い翼の羽の先に微かな穴を開けて噴き出す!


「……想翼刃(そうよくば)!」


 卯未の両翼の先端から、橙色の暖かい光が噴出し、刃物のように煌めいた。


「っち、どちくしょがあぁぁああ!」


 締結が鉄パイプから大量の沼を溢れさせ、沼ごと叩きつけようと走り出す。

 卯未も、静かに締結に跳び込んだ。

 そして、静かに腕にこもった刃を振るった。


「……あっ…」


 締結の小さな声。

 卯未は、締結の背後に立っていた。

 その後ろでは、締結が腰から真っ二つに斬れ、上半身が宙に浮かんでいた。

 締結の切断された腹では、両端から沼が締結を繋ぎとめようと触手を伸ばしている。

 だが。その沼の触手も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、別れてしまったもう片方の肉体を、繋ぎとめる事が出来なかった。

 どさっと、締結の身体が両方とも地面に落ちた。


「……ふう…」


 卯未は翼を優しく振るい、両翼から噴き出す想翼刃を払い消した。

 卯未は、静かになったドッペル回路内部で、真っ暗な空を見上げる。ここから空へ飛べば、元の艦橋に帰れそうだ。

 ……でも、最後に見ておきたい顔もあった。


「……締結」


 卯未は振り返り、地面に真っ二つになって倒れている締結の近くに寄り、しゃがみこむ。

 締結の腹は、以前名前が付いて無かった頃の想翼刃(そうよくば)で斬った時とは違い、締結を再生するはずの沼は、どれも伸びれていない。全部が焼き焦げて動かなくなってしまっていた。


「……あは、は。 なるほどねぇ……肉体戦だけなら、もっと戦えたのによぉ…妖術とか、そう言う気みたいなもんには、弱いのか。はは、は……」


 締結はまだ息があるようだった。痛みを堪えながら、自分を見下ろしている卯未の顔を見る。


「そうみたいだな。自分の力の可能性に驚いたよ」

「……それで、なんでよぉ…とっとと行かねえんだ? もう防げねえ奴の死に顔見る趣味でもあるのかよ?」

「…いや、この力に気づけたのは、お前のおかげもあったんだろうなって思ってな。……最後だ、感謝ぐらいしておこうと思ってな」


 卯未は、静かにそう言った。

 締結は純粋な狂人だったが。そんな奴が三度も気持ちの赴くままに攻撃してきたから、その圧力の中でこの能力に気づけた。敵であるけれど、そう考えると敬意も感じれる気がした。


「……これからお前は亡くなるが、悔しいか?もっと暴れたかったか?」

「……い、やぁ? 案外、満足してるぞ。本物の締結に成り代わって、したいことも、なかったしなぁ……。ただ、限界まで馬鹿みてえに競ってみてえって思ってたんだ。……むしろ、満たせて心地いいわ…」

「…そんな事言うと思った」


 口から出る言葉に裏表の無い男だ。それだけは、卯未も認められた。


「……ありがとうな、卯未。俺の方こそ、真っすぐな目した奴と最後にやれて、嬉しかったぜ」

「!……こちらこそ」


 意外な言葉に、卯未は豆鉄砲を喰らったような顔をしたが。優しく微笑んだ。

 卯未は立ち上がり、翼を広げる。


「…さようなら、締結」

「おう、元気でな」


 最後にそう言葉を交わすと、卯未はドッペル回路内の真っ暗な天井、出入り口へと飛びたって行った。

 締結は、遠くへ消えていくその後姿を、ただ仰向けに眺めてる。

 ああ。前に会った時は惜しいなぁって思ってたけど、あいつちゃんと変われたんだな。

 自分が満足いくやつになった理由に、自分自身も一因として関われたんだと思うと、締結は誇らしい気持ちになった。

 そう思ったのを最後に、締結はゆっくりと目を閉じた。

 ただ、ドッペル回路内の濁流の音だけが木霊し続けた。

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