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ハーピーは街道に似合わない  作者: 斉木明天
プロローグ
4/44

4.来世が現世になった日

 卯未は自分に割り当てられた自室の前に帰って来た。

 扉はハーピーの体に合うように、足元にかぎ爪を差し込み、引いて開ける仕組みに作ってもらっていた。

 さっそく足先の爪をフックに差し込み、カチャっと音がしたのを確認して引く。

 部屋内部は真っ暗。布団の無いつるつるとした表面のベッドに、机。部屋の正面にある窓には、暗い中ぼんやりと佇むビル群と雨の音だけが響いていた。


「はぁ…布団も恋しい」


 ぽつりと独り言を言って、ベッドに倒れ込む。実際被って寝たいのだが、そもそも、この体に合わない。

 羽が抜けでもしたら、布団に絡まるわ、それが寝返りの際に刺さるわで、人間なりのベッドメイクはハーピーの身では困難だった。

 自分の羽があるからそこまで寒くはないが、かつてできた事ができないのも、さらに悩みを加速させるのだった。

 寝る前に何かしておきたい事があるかなと少し悩んだが、任務以外でそんなものも無い。卯未は、そのまま約束の5時まで睡眠をとる事にした。






 先者(さきもの)後者(あともの)とは、人間に近しいような妖怪、魔物等の魑魅魍魎における。生まれの区別用語だ。

 先者(さきもの)とは、そのまま従来で言われるような妖怪、魔物。大昔から生き続けるものの事。

 人間とは別に、それらに時折干渉する存在として姿を見え隠れさせてきた。長生きをする怪異である。

 だが、最近になって生まれたのが。後者(あともの)だ。

 後者とは、近年死んだ人間が、何を間違ったのか()()()()()()()()だ。

 生まれ変わるだけなら、普通に来世としてなにも気づかない、()()()()()()()()を送れたのかもしれない。

 だが問題なのは。生まれ変わった際に、記憶を持ったまま()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()

 死んだ魂はあの世に行かず、この世のどこか、森の中や、海の底、無人の廃墟。人間が見えないような空間に、気味が悪くも塵が集まるようにして形を作り生まれる。

 そして、訳も分からないまま、魑魅魍魎の仲間入りを果たしてしまうのだ。

 それが、先者に対しての後者だ。





 

 卯未もまた、かつては人間であった後者だ。

 最初に卯未が目を覚ましたのは森の中だった。強い痛みの後に、どれぐらい時間が経ったかも分からない、真っ暗な時間が過ぎた後。目を開けてみると、頭上には、高い木々が見えていた。

 雨音が遠くに聞こえ、木々から雫が額に垂れてくる。

 冷たい、って。咄嗟に手で額を遮ろうとしたら、自分の視界に入り込んできたのは、大きな翼だった。

 自分はその時。ハーピーっていう魑魅魍魎の姿をかぶせられ、この世界に生みなおされたんだ。

ハーピーなんて、どこで暮らせばいいのかも分からない、体に。

 驚きのまま飛び上がり、自分の姿を慌てて確認した。そして、なんでこうなったのか、曖昧になりかけていた記憶の中を思い返した。

 探し続けた先にあったのは。

 人とは思えない、大きな口。美味しそうだと言わんばかりの、にやけた顔。

 自分が人間だった頃の、最後の悲鳴だけが残響した。






 ちりりりり、ちりりり。

 甲高い音がして目が覚めた。

 朦朧とした頭で、壁越しに唸るような声が聞こえないことにぼんやり気づく。そうか、お隣の部屋に住んでる奴は、今は任務に出てるのか。

 毎朝、それを聴いて起きるのもセットなんで、目覚めが悪い気もした。


「…なんてこと言ったら、お隣にどやされるか」


 もう少し小さな音量で起きれるようになろう。

 なんてことを思いつつ、床に置いておいた目覚まし時計を、足の爪で止めた。






 部屋を出て、眠たげなふらふらとした足取りでビル内廊下を歩いていく。

 今は5時、外はまだ太陽が出きってないが、それでもなんとなく明るい。

 会社で目を覚まして、廊下をぼやぁっと歩きながら外からの日の出を受ける。字面だけ見ると、ブラック感満載な一文だが。実際に体感してみると、特別なお泊り体験みたいな感じがして、これは割と好きだった。


「しっかしまぁ…。任務終わってすぐに次の任務かぁ…。お隣も居なかったし、そんなに忙しいシーズンなのかな」


 まあ、対処する相手は、いつ出るかも分からない魑魅魍魎なので、そんなシーズンなんてあるか分からないが…。もしかすると、時期ごとに大量発生とかあるのかもしれん。

 眠たい頭でそんな想像をしていると、リーダーの居る元社長室に着いた。


「ふわぁ…。時間は…5分前か。 よーし、眠気冷まし、ねむけー…ねむい…」


 窓の方を向いて、背伸びに外の光を浴びたりと、できる限りの眠気冷ましを試みる。

 すると、背後からぽんぽんと肩を叩かれた。


「んー…?あぁ、おはようございまっ」


 と、ふらり振り向いたところで。卯未の言葉は止まってしまった。

 そこには白い霧の中、手だけが浮いていた。


「きゃああぁぁぁあああ!!!!」


 目が一気に覚めて、みっともないぐらいに悲鳴を上げてしまった。

 そのまま後ろに倒れてしまい、窓際の壁に頭を打ってしまう。


「いぎっ!いったあぁぁ……」

「ふふっ、あっはっは。ごめんごめん、まさか、そんなに驚きますなんて」


 頭を羽で抑えていると、聞き覚えのある声が霧の中から聞こえてくる。

 まさか、朝から会うなんて。

 霧が徐々に集結していき、卯未の前に人型の形を作り出した。


「おはよう。よく眠れたかしら?」

「…エリカ、さん……」


 そこには、昨日一緒に任務を受けていた先者(さきもの)の吸血鬼、エリカ=ウォルフローが居た。

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