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ミーアの赤ちゃん

 嵐のような一日が過ぎて、出産の疲れから一眠りして起きた時には、ミーアはもうお母さんになっていました。


暗くなった部屋の中で「ホンャ~ホンャ~。」と子猫のような泣き声が聞こえます。

どうもその泣き声で目が覚めたようでした。


フィブが隣の居間にいるのか、ドアの隙間から電灯の光が漏れてきています。その(かす)かな光を頼りにして、ミーアは赤ちゃんの姿を探しました。


いました。

ミーアがいるベッドとは反対側の壁に寄せて、ベビーベッドが置いてあります。

妊娠中に何度も生まれてくる子を想像して撫でていた、手作りの布団の上にうごめいている小さな命。

息子の元気のいい声に、ミーアの顔もほころびます。



「あらあら、キッド。お尻が汚れたのかしら? それともお乳が欲しいの?」


ミーアが怠い身体を何とか動かしてキッドの世話をしていると、部屋のドアが開いてフィブが入ってきました。


「起きたんだね。母さんが夕食を作ってくれてるよ。食べる?」


「うん。私たちもお腹が空いてるけど、キッドもご飯にしたいみたいよ。」


フィブはそれを聞くと部屋の中まで入って来て、ミーアのそばに並んでキッドを優しく見つめます。


「可愛いね。」


「うん、やっと会えたね。どんな子になるのかなぁ。」


「ミーアに似て面白い子だよ、きっと。」


「あら、フィブに似て真面目な優等生かもよ。」


二人はいつもの言い合いをして、顔を見合わせて笑いました。


顔を横に動かしてしきりに乳首を探しているキッドを抱いて、ミーアが初めての授乳をしていると、フィブもベッドの隣に座って、ミーアの身体を支えてくれました。


「吸い方が下手くそな奴だな。」


「初めてだもの、こんなものよ。フフッ、ほらほらここよ。気持ちが急いているのね。」


「あ、やっと飲めた。やれやれ、見てるこっちに力が入るよ。」


「私も肩が凝っちゃった。」


フィブがミーアの肩をちょっと揉んでくれます。


「キッドの食事の邪魔になるから、後で肩を揉んであげるよ。」


「ありがと。」


ミーアがフィブに笑いかけると、フィブは照れて部屋を出ていきました。



野いちご村の学校時代から、ミーアに対する優しさが変わらないフィブ。

ミーアの父親は寡黙でぶっきらぼうな山の男だったので、フィブのような大人しくて優しい男の子がいることに驚いたことを覚えています。


村役場に勤めているフィブは若いのに村長さんの片腕で、村の近代化を進めています。

もうすぐ水力発電を利用した大きな発電所が山に出来る予定です。

そうなると、街で噂になっているテレビもこの村にやってくるかもしれません。


キッド…この子達の世代が、豊かに暮らしていけますように。


満足して眠りにつこうとしているキッドを、ミーアはお母さんの顔をしてそっと抱きしめました。

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