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ニコラの苺パイ

 今日は土砂降りの大雨です。


野いちご村にも重く暗い雲が垂れこめて、いつまで経っても止みそうもない雨がザンザンと音をたてて降っています。


昨日パタバー母さんは大洗濯をしていましたから、この降り続く雨を見て「晴れていたうちに洗濯をしといて良かったよ。」と胸をなでおろしていることでしょう。


朝早くに村のサイレンが鳴ったので、リバロ先生はカッパを着て村役場に出かけました。

今日は学校はお休みです。災害時の村の助け合いで大人の男の人たちは、役場に待機することになっているのです。


リバロ家の石造りの家の中では、クララお母さんがもう昼ご飯を作っていました。

どうやら災害に備えて電気などがきているうちに、スープやおにぎりをこしらえておくことにしたようです。クララさんは段取りがいい人なのでした。

家には三人の子どもがいますから、食事の確保は大切です。特に七歳の末娘のニコラは、食べることが大好きな女の子ですからね。


ニコラは台所から漂ってくる美味しそうなスープの匂いをクンクンと嗅ぎながら、窓辺のソファから身を乗り出して、はす向かいのランディさんの黄色い家を眺めていました。


いつもはよく見えるランディさんの家が、激しい雨にかすんでいます。


ニコラがランディさんの家を気にしているのには理由があります。

昨日、ニコラは森で野いちごをカゴにたっぷり採って来ました。それを全部ランディさんの家に持って行ったのです。


若奥さんのミーア・ランディさんは、お菓子作りが得意なのです。

今の時期には、美味しい苺パイを作って、よく近所にお裾分けをしてくれました。でも今年はまだニコラに持って来てくれません。ニコラがミーアさんにそのことを聞くと、今は妊娠中なのであまり遠くへ歩いて行けないと教えてくれました。


「大きなお腹になったから森へ野いちごを採りに行けないわ。ニコラちゃんが採って来てくれるんだったら、苺パイを作ってあげるわよ。」


それを聞いたニコラは張り切りました。

すぐに大きなカゴを持って、森に行ってきたという訳です。


森の中の藪には、赤やオレンジの宝石のような野いちごがどっさりなっていました。キラキラした野いちごの粒を一つ一つ丁寧に採って来たのです。

その時からニコラの頭の中は苺パイでいっぱいでした。



「ニコラ、そんなところで何やってんの?」


台所へ飲み物を取りに来たお兄さんのホスが、片手にすぐりのジュースを持って声をかけてきました。


「あ、ジュース。私も欲しいな~。」


「もうしょうがないな。ニコラのも持って来てやるよ。」


ホスはお向かいのルド・パタバーとは違って、男の子なのに優しいのです。ルドは暴れん坊です…でも十歳の男の子なんて皆そんなものかもしれませんね。

いつも穏やかなホスの方が特別なのでしょう。


ホスがニコラのジュースを持って来てくれたので、ニコラはミーアさんの苺パイのことを話しました。


「ふ~ん。ミーアさんのことだから、苺パイを作ったかもしれないね。でも今日は持ってこれないよ。こんなに雨が降ってるんだもの。うちまで持ってこようと思ったら、パイが雨の中で溺れちゃうよ。」


「えー、待ってたのにぃ~。」


ニコラは残念でたまりません。

口の中にはもう、あのとろりと赤い汁がとけだした甘~い苺パイを迎える準備ができていたのです。

ゴクリと飲んだすぐりのジュースがいつもより酸っぱく感じました。



その日の夜、ニコラが見た夢は苺パイの出てくる夢でした。

野いちご村の明るい森の中に、そこら中に苺パイがなっていたのです。ニコラはワァーイと走り回りながら、次々にとろりと甘い苺パイを食べていきました。手のひらがベタベタしてきましたが、そんなことは気になりません。


ニコラが翌朝目を覚ました時には、身体中にワクワクした幸せが満ち渡っていました。


「あ! 雨の音が止んでる!」


屋根裏部屋の窓に駆けていって、外を見てみると、ミーアさんが黄色い家から出て来たところでした。


その手に持っているのは……


ニコラが走って階段を駆け下りていくのも、仕方ありませんね。

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