ウェンディの寂しい秋
秋の日の午後のことです。野いちご村の学校に向かっているウェンディは溜息をついていました。
チェリーとは夏休みもなかなか遊べなかったけど……秋からポーラさんに勉強を教えてもらうなんて知らなかったわ。
小さい頃からずっと一緒だったチェリー・パタバーが、看護士さんになる勉強をするためにこの秋から学校をやめたことが、ウェンディにとってはひどくショックな出来事だったようです。
アキアカネはそんなウェンディの気持ちも知らずに、晴れ渡った空をツーイツイと飛んで行きます。九月になって、村もすっかり秋の装いになって来ました。街道沿いにはコスモスの花が咲き始めています。
村の広場を抜けて林の中にある学校へ到着すると、同級生のタグがお姉さんのベラと一緒に校舎に入っていくのが見えました。このフォルト姉弟はベリー湖の北東に住んでいます。そのため村の街道を使うウェンディたちとは違って、二人とも森の北を通っている裏道を使って登校しているのです。
「あれ? チェリーは休み?」
教室の机に鞄をドサリと置いたウェンディに、タグが声をかけてきました。ウェンディは首を振ってぐったりと椅子に腰かけます。
「ううん、もう学校には来ないの。チェリーはこの秋から看護士の勉強をするんだって。」
「え? じゃあ大きいクラスは私たち三人だけになっちゃったの?」
鞄から筆記用具を出していたベラもショックを受けたようです。それでなくても少ない人数だったので、一人減っただけでも教室の中がガランとした感じがします。
チェリーは元気で賑やかな女の子でしたから、よけいにその不在が際立つようです。三人の中に一瞬シンとした空気が流れました。
そこにリベロ先生がやってきました。
「皆さん、こんにちは。今日から新学期ですね。また新たな気持ちで、勉強を頑張って行きましょう。」
「「「…はい。」」」
「どうした、元気がないな。ああ、チェリーがいなくなったからだね。彼女は看護士の勉強をするためにホスピ先生夫妻のところで勉強することになりました。一年後には町へ試験を受けに行くそうだから、皆で応援してあげましょう。さぁ、一時間目は数学をします。教科書を出して。」
それから授業が始まったのですが、チェリーがいないと先生の質問に答える回数が、いやに多いような気がしました。ウェンディにとってリベロ先生はお父さんなのですが、学校ではちっとも手加減をしてくれません。
あーあ、踏んだり蹴ったりってこういうことをいうのかしら?
ウェンディはまた溜息をつきながら、しぶしぶと問題を解いていきました。