アランとチェリーの星の夜
リリリリリと鳴いている虫の声を聞きながら、アランは公園の小高い丘にあるベンチにチェリーと二人で座っていました。
見上げると満天の星空です。
漆黒の空に煌めく星の一つ一つを、歌のように巡っていきたい気持ちになります。
今夜の村祭りで、演目の最後を飾ったのはアランでした。ギターを片手に、昔覚えた『星巡りの歌』を歌ったのです。
赤いタウロス 胸の星
青いドルフィン越えゆけば 見ゆる人魚の涙星
黄色いユリが見つめるは 光伸び行く羽の星
巡り巡ろう 愛するあの子と
涼やかな風に乗って 夏の夜空を飛び回ろう
歌い終わっても会場がシーンとしていたので、歌の選択を間違えたかと思っていましたが、急にドッと湧いた村の人たちの拍手や掛け声で、アランも安心したのでした。
隣に座っているチェリーからはお風呂上がりのいい匂いがしてきます。
今夜、婦人会の人たちと楽しそうに踊っていたチェリーの姿が、アランの目に焼き付いていました。
真面目で、おちゃめなところがあるチェリーのことを、この夏の仕事を通してアランは好ましく思っていました。いつもチェリーのぴょこぴょこと揺れるポニーテールの髪を、楽しく眺めていたのです。
けれどミーア・ランディが出産したあの日、チェリーの髪は風に吹かれてあちこちにうねっていました。
あの日にアランは衝撃を受けたのです。
チェリーを他の誰にも渡したくないと思いました。
ずっと彼女を見ていたい。自分のそばにいて欲しいと思ったのです。
「先生、お話ってなんですか?」
チェリーが星を眺め終わって、アランの方を真っすぐに向きました。
「チェリー、いやチェリー・パタバーさん。」
「は…い。」
アランの胸は高鳴ります。
何もかもが台無しになったらどうしたらいいでしょう。けれど有耶無耶にしておくには、思いが強すぎました。
「僕はあなたが好きです。できたら僕との将来を考えてくれませんか?」
「え…………?!」
「八歳も年上ですが、身体に気をつけて元気でいると誓います。」
「ちょ、ちょっと待ってください。急にそこまで言われても…」
チェリーは戸惑っているようです。
「ごめん、そうですね。今は職場の同僚としてしか付き合いがありませんが、恋人として付き合ってもらえませんか?」
「は…はぁ。」
「ありがとう!」
アランが微笑むと、チェリーは真っ赤になって俯きました。首のおくれ毛が風に揺れています。
ああ、抱きしめたい。
けれどまだ成人していないチェリーをびっくりさせたくありません。
アランはそっとチェリーの肩を抱きました。チェリーがハッとしてあげた顔をもう一つの手の甲で軽く撫でます。
「ゆっくりでいいから、僕に興味を持ってください。何でも聞いてくださいね。」
「…わかりました。」
それからのチェリーは、堰が切れたようにアランにいろんなことを質問してきました。
チェリーを家まで送っていく道々に、アランはおかしくなって笑ってしまいました。チェリーはアランに対して強い恋愛感情はなかったのかもしれませんが、どうやら興味だけは人一倍持っていたようです。
アランの誕生日や学校でのことに始まって、両親がコプリ族と人で、人種が違うのにどうして付き合って結婚することになったのか、なんていう質問までされました。
両親のなれそめなんて、アランもよく知らないんですけどね。
野いちご村の夜空の星たちは、そんな二人を優しく見守っていました。