パタバー母さんの洗濯
梅雨が終わりかけたある初夏の眩しい日のことでした。
パタバー母さんはジャブジャブと洗濯に勤しんでいました。
「やれやれ、やっと足ふきマットを洗えたよ。」
パタバー母さんはブラシをシンクの側の釘にかけると、水道の蛇口を開けて迸る冷たい水でマットを丁寧にゆすぎました。
暑い日でしたので水の感触はとても心地いいものでした。子どもの頃に遊んだ川遊びのことを思い出して、母さんはフフフと笑いました。
石鹸の泡がなくなると、母さんは体重をギュッギュッとかけて押しながら、マットの水を絞りました。
「さぁ、七月の空にマットを干そうかね。」
母さんは少し水が滴っているマットを右手で持つと、左手で裏口の戸を開けて外に出ました。そして棚の上に置いてあるピンチを入れたカゴを手に取ると、家の東側の奥にある物干し場に歩いていきます。
物干しの竿は、朝から照りつけている日差しで温もっていました。
「これならすぐに乾きそうだね。ああ、今日は本当にいいお天気!」
空には、モクモクと大空に伸びていく入道雲が出ています。
もう梅雨明けも近そうです。
カゴに一緒に入れてあった古タオルで物干し竿を拭くと、パタバー母さんは重たくなったマットを綺麗に端を揃えて干しました。
「ちょっと下をずらして干しとこう。その方が早く乾くだろう。」
大き目の挟みピンチでマットをとめると、夏の乾いた風が吹いてきました。
母さんは満足して風に揺れるたくさんの洗濯物を眺めると、木と土で出来たぬくもりのある家に入って行きました。家の中は薄暗くて、少しひんやりとしています。
さっぱりと朝の片付けがすんだ台所を、母さんは誇らしげに見回します。
「一休みしてもバチはあたらないね。」
食器棚からドングリのコップを取り出した母さんは、いい香りのするコーヒーを一杯いれました。そしてブンブン回る扇風機のスイッチを入れると、庭が見える窓の側に置いてある座り心地のいい椅子に、よっこいしょと腰をおろしました。
掃き出し窓の網戸越しに、夏の庭の匂いがします。
目に眩しい緑の樹々の中にハッキリした黄色のガザニアの花が咲いていました。
「綺麗だねぇ。来年はタチアオイを植えようかね。」
パタバー母さんは、お向かいのリバロさんちの石垣の塀の向こうから顔をのぞかせている、ピンクや赤のタチアオイが気になっていたのです。夏の香ばしい陽の光を吸って、グングン伸びている威勢のいい様子が頼もしく思えました。花も大ぶりで人目を引きますしね。
そのお向かいのリバロさんの家は五人家族です。
野いちご村では大人数のほうですね。一番多いのは村長さんの家かもしれませんが…。だって村長さんの家は十人家族なんですよ。息子さんの家族が一緒に住んでいますからね。
そういえばリバロ家の話でした。
ご主人のリバロさんは村の学校の先生です。見た目がちょっと犬に似ています。大型犬のゴールデンレトリバーといったところでしょうか。
こんなことを言うと、リバロさんがパタバー家の皆をアナグマ一家と言うかもしれませんね。
リバロさんの長女も長男も、パタバー母さんの娘や息子と同級生です。
末の娘さんの七歳のニコラだけはこの辺りに同級生がいません。この子は食べることが大好きな面白い女の子なんです。
また違うお話でご紹介しますね。
野いちご村のコプリたちのお話が、始まったようです。
皆さん、次のお話でまたお会いしましょう。