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5.旅立ち2

 この不毛の大地や大森林もそうだが、此の世界の人間の支配地域以外は、大部分が魔物の生息域と呼んでいい。

 不毛の大地は餌となる植物も動物もろくに無さそうだから、恐らくは魔物もそれほど多くは生息していないだろうが…。せいぜいが地を這うスライム程度のものではなかろうか。

 土地そのものには、探せば鉱石や資源などが眠っていそうではある。だがこんな辺境まで手を伸ばすほどに、人間の支配地域は広がっていない。


 問題は大森林の方だ。こちらは多数の魔物が生息しているらしい。しかも強力なものも多く、ドラゴン級までいるようだ。


「ねぇ、エル。この先は魔物が多そうだけど、このまま突っ切って大丈夫? 念の為に迂回した方が良いんじゃないの?」


≪だいじょーぶ、へーきへーき! オレを誰だと思ってんの、世界最強にして唯一竜たる古神竜、エルダードラゴンだよ? ドラゴンの群れが現れたって、秒殺で蹴散らしてみせるよ!≫


「……」


 大言壮語は良いのだが、エルはついさっき卵から孵ったばかりの幼竜だ。確かに岩盤に穴を開けたブレスの威力は凄かったが、戦闘力にそこまで期待して良いものだろうか。


 内心に若干の不安を抱きつつ、それでも空から眺める広大な景色に心を奪われ──やがてエルの向かう先に、濃い緑の帯が見えて来た。

 あそこから先が大森林地帯なのだろう。


 わたしは念の為に探知魔法を展開しておくことにした。

 これはレーダーのようなもので、探索範囲に在るものを発見出来る。魔物ならば魔石の反応があるので特に見つけるのは簡単だ。但し偶に隠蔽の魔法を持つ魔物もいるので、絶対ではないが。


 眼下の岩と土が剥き出しの地面に、まばらに植物らしき物が増えて行き、やがて一面の樹木の絨毯に変化する。

 上から見た限りでは植生など詳しい事は分からなかった。先代竜の知識の中にも無く、彼はこういった分野には関心が無かったようだ。


 と、エルが声を発した。


「ぴぎゃー!」


 もう少し大きな竜ならば空気を震わす咆哮なのであろうが、やはり幼竜と再確認してしまう程の可愛らしい鳴き声だ。

 同時に念話がわたしの頭に響く。


≪なんか来る! 空飛ぶやつ!≫


 わたしも探知魔法で発見している。十体ほど、魔石の反応があるモノが、明らかにこちらに向かって移動して来ていた。速度からして空を飛ぶものであるのは間違いない。

 だが──ドラゴンにしては、魔石の反応が小さいような気がする。


 目視出来る距離にまで来たところで、正体が判明した。ワイバーンの群れのようだ。


 ワイバーンは竜に似ているが、竜種ではない。竜のカテゴリにはレッサードラゴンという小型の竜もいて、それよりも大型に成長する個体もいるが、あくまで分類上は飛行能力を有するトカゲの魔物の範疇になる。

 最も大きな外見上の違いは、竜の翼が背中から生えていて独立しているのに対して、ワイバーンは前足と翼が一体化していることだろう。


≪うわっ!≫


 比較的大型のワイバーンが顎を開けたかと思うと、こちらに向かって火の玉を吐き出して来た。エルが慌てて躱す。

 続けて、二発、三発──。いずれもギリギリのところでエルが躱したところで、火の玉攻撃は止まった。


 ワイバーンは竜種のようなブレスを吹くことは出来ないのだが、偶にこうしてファイヤーボール程度は出せる個体が存在する。人間による危険度カテゴリ分けでは、Cランク程度に相当するらしい。

 それがどの程度の危険度なのかは、今の所わたしには実感は出来ないが、少なくとも初心者向けということは無いと思う。


 エルは大きく息を吸い込むと、ワイバーンの群れに向かってブレスを吹きつけた。

 岩山で穴を開けるのに使った収束するブレスではなく、今度は広範囲に広がるタイプのようだ。

 わたしがシャワーになったりストレートに切り替わる水道の蛇口を連想した一瞬のうちに、ブレスの範囲にいたワイバーンが三匹、黒焦げになって、眼下の森林に落下して行った。


 その攻撃に残りのワイバーン達は散開して、ややこちらと距離を取る。


 次の瞬間、四方に散ったワイバーン達は、それぞれの方向から一斉に、グライダーのようにこちら目がけて滑空して来た。


「ぴぎゃ!!」


「エル、ブレスは!?」


 体当たりを躱しきれずに翼にかすられ、声を上げたエルに、わたしは問いかけた。


≪吹けない! 魔力切れ!≫


「ええっ!?」


 そういえば先代竜は──後継は未だ魔力に馴染まず、本来の力を発揮出来ない──と言っていたっけ。

 だから、補うために、わたしの存在があるのだった。


「ぴぎゃっ!」


 再びワイバーンに体当たりされ、エルが声を上げる。わたしは自分に纏っていた魔法障壁を広げ、エルの身体全体まで覆った。

 ワイバーンの体当たり攻撃が突然に現れた見えない障害物に阻まれる。

 下方は開いているから、揚力を発生させている風魔法に影響は無い筈だ。


「エル、お願い、少しでいいから、姿勢を安定させて! 魔法障壁があるから、体当りされる心配は無いから!」


≪う、うん、分かった!≫


 エルは前方に向かって飛びながら、わたしの頼んだ通りに、揺れないよう姿勢を安定させる。

 わたしはしがみついていたエルの首から手を離すと、エルの背中に座った状態で、身体ごと後ろを向いた。つまりエルの背中に後ろ向きに座っている体勢になる。


 後方からはワイバーンの群れが、まだ諦めずに、わたし達を追いかけて来ていた。


 魔法障壁は、術者が調整すれば、敵からの攻撃だけ弾いて、こちらからの攻撃は通すという使い方も出来る。

 わたしは手の中にとある物体をイメージしながら、敵意を剥き出しに追いすがるワイバーンの一匹に対して、狙いを定めた。


 わたしが十七年間働いていたスーパーの、従業員用休憩室には、娯楽用品が幾つか置いてあった。その中にダーツがあり、よく一人で投擲して時間潰しをしていたものだ。

 おばちゃん達はダーツなどに興味は無く、花札やトランプをして、お金を賭けていたけれど。そこに混ざれば例え少額であっても賭け事に参加せざるを得なくなるから、そんな事にお金を使いたくなかったわたしは、誘いを断る為にも一人で黙々とダーツに集中するしかなかったのだ。


 と、言うわけで──。


「十七年間磨いたダーツの腕前! くらえぇーーーっ!!!」


 創作魔法で作ったダーツを投げつける。狙いは過たず、先頭のワイバーンの片目に命中する。


 間を置かずに、更に続けて作成したダーツを、上半身だけで振りかぶってスナップを効かせて投げつける。

 わたしが投擲する度、ワイバーンの身体のどこかしらに命中して、彼らは速度を落としていった。


 どうやら振り切ったところで、わたしは再び前を向いて、腹ばいになってエルの首にしがみつく。


「な、なんとか…助かったみたい…」


 夢中でワイバーンを撃退したのは良いが、ここは空中なのだ。下を見ないようにしていたからだと思うが、よく身体が動いたものだと、改めて自分で感心してしまう。


≪もう、疲れた…休みたい…≫


 エルは念話でそう告げると、高度が段々と下がって行った。


読んで頂きありがとうございます_(_ _)_

ブックマーク、評価もありがとうございます!

これからもがんばります!

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