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47.海を越えて

 王都を目指す隊商の旅は順調だった。

 偶に魔物に襲われたり、盗賊や山賊の類に遭遇したりはしたが──何れもカイとロックの二人で対応すれば大体は解決し、わたしやエルの出番などはまず無かった。


 尤もカイもロックも、そうした賊の対応からは、わたしとエルを意図的に外している節がある。

 言うまでもなく山賊や盗賊とは、その殆どが人間である。ゴブリンやオークやオーガ等の魔物が共に混ざっている場合もあるが、中心者は大体、人間や獣人等のヒト族だ。

 

 わたしはこの世界に転生して以来、今までずっと冒険者稼業を続けているが、まだこの手で人を殺したことはない。

 ヴィクシスバリーでの依頼任務でも人間の討伐は受けたことがない。

 これはカイとロックの二人が、わたしとエル──特にわたし──に殺人を避けさせる為だった。


 二人から見ると、わたしはとても『危なっかしい』のだそうだ。何がと問えば、この世界で生きることが、と。


「ルカがのほほんとしているのは、それだけ未来の日本が平和だった証明のようなものだから、俺達にとっては喜ばしいことではあるんだが…」


 やはり危機意識が足りなさすぎて心配になる、と。

 これでもわたしなりに、危機感を常に持って行動しているつもりでいるので、のほほんなどと言われるのは心外だ。


 ともあれカイとロックも、わたしがそんな平和な世界で生きていた人間であることを鑑みて、人間と戦うような状況にならないように気を遣ってくれているという訳だ。

 人間のみならず、人型をしたゴブリンなどの魔物についても、極力わたしが戦わないようにしてくれている。


 この世界はわたしが転生前に生きていた現代日本と違って、殺生への忌避はそれほど高くないらしい。

 もちろん、戦争でもないのに人を殺めれば犯罪になるが、それを捕縛したり罰する司法制度はまだまだ未熟だ。

 罪を犯した土地から逃げ出してしまえば捕まることなどまず無いので、省みない者は更に罪を重ねることも多い。

 そうした者たちが更に寄り集まって山賊だの盗賊団だのと結成したりすると、ますます街の自警団程度では手に負えなくなって、更に増長して悪事を積み重ねることになる。

 こうした賊を一般人が自衛の為に殺す事は、罪にはならない。また依頼を受けた冒険者が討伐の為に殺してもやはり罪にはならない。


 だから冒険者で人を殺めた事の無い者はまずいないのが普通だ。

 勿論カイもロックも、この世界に来てからそうした経験をしたことは一度や二度ではないという。

 転生前は戦争をしていた軍人だったのだし、今更だとも言っていたが。


 例えそうした状況になったとしても自分達が対応するから、わたしが心配することは何もない──と二人は言う。

 

 今のところは盗賊の襲撃に遭っても、殺すまでには至らずに対処出来ているが、何れはそうした場面に遭遇する事にもなるかも知れない。



 でもまぁ──今は二人に甘えておこう。

 出来ればこのまま平和に護衛任務を終えたいものである。





 そんな順調な旅路を続けていた、ある日のこと──。

 

 その日の野営場所を見つけてキャンプの準備をしていた時のことだ。


「何か来る!」


 と、突然にエルが叫んだ。

 その叫びから暫くして、彼の指さす方向、夕闇が迫る薄暮の遠い空の彼方に、何やら黒い点を認める。

 点は見る間にどんどん大きくなり──やがて大型の乗用車くらいのサイズはありそうな物体が、わたし達のすぐ近くに舞い降りた。


 すぐさま隊商の人達を守るためにカイとロック、わたしとエルが壁になって前に立ちはだかる。


 見たところは鷲のような頭と前半身で、大きく立派な翼を持った怪物だ。後半身がライオンぽければグリフォンという魔獣だが、こいつの半身は見たところどうも馬っぽい。恐らくヒポグリフという魔獣ではなかろうか。

 魔獣の中でも比較的温厚で攻撃性が低いと言われているようだが、それでも魔物は魔物である。空腹だったら人間を襲うのも当たり前だ。


 だが──目の前のヒポグリフは何故か、いつまでたってもこちらに敵意を向けてくる様子はなく、睨んでいるうちしまいにその場に足を折り曲げて、座り込んでしまった。


 首を傾げていると、ロックが突然、武器を下ろしてそいつに近付いた。


「ロック! 何してるの!」


 思わず叫んで駆け寄ろうとするわたしを、カイが制した。


「あれは、もしかして…」


「なに、知り合い?」


 言ってから、自分でも間の抜けた質問だと思ったが、どうやらそれで正解であったらしい。


 でかいヒポグリフ、略してでかグリフは側にやってきたロックに向かって一声鳴いた。それから頭を垂れてロックに頭をすりつけるようにする。心なしか喉をぐるるる…と鳴らしているような気もする。

 ロックも嬉しそうな様子でヒポグリフの鷲頭を両手で抱えてわしゃわしゃと撫で回してやっていた。


「よーしよし。まさかお前とまた逢えるとはな。元気そうで良かった」


「ロック、それ…そのひ…とじゃなくて、まじゅ…ひ、ヒポグリフ? さんと、お知り合い?」


 キョドりながら尋ねてみると、ロックはこちらを振り向いて、にこやかな笑顔で言った。


「ああ。俺がこの世界に来た時に初めて騎獣になってくれた、ヒポグリフの『隼』だ。ほら、皆に挨拶しろ」


 鷲なのにハヤブサとはこれいかに。いや、鷲と隼って素人目には同じように見えるくらいには外見似てるけどさ。

 真っ先に浮かんだわたしの内心のツッコミなど知る由もなく、ヒポグリフのハヤブサ君はわたしたちに向かって雄々しく一声雄叫びをあげた。


「ゲギャー!」


 鳴き声は猛禽類というか…怪獣みたいだけど…ね。


 とは言え──そもそもヒポグリフの前半身が鷲であるというのは、古神竜の知識を更にわたしに合わせてか、分かりやすく日本語に自動翻訳されているものに過ぎないので、もしかしたら前半身が鷲じゃなく隼の個体もいるのかもしれない。シロウトのわたしには鷲と隼の区別はつかないし、カイに尋ねてみても


「残念だが俺も鳥類にはそんなに詳しくない。済まんな」


 と素っ気ない。

 ロックはハヤブサ君というネーミングに自分で全く疑問を持ってない様子だし…。

 もうこれは隼ということで良いかな…良いんじゃないかな。よし決めた、もうハヤブサ君は隼でいいや! あ、因みに後半身は栗毛の馬です。


 ひたすら生ぬるい笑みを浮かべつつ、わたし達は旧友との再会を喜ぶロックを見守るのだった。

体調を崩して入院する羽目になりまして、投稿が遅れてしまいました

どうも申し訳ございません_(_ _)_

もしかしたら今後は少し間が開くこともあるかも知れませんが

ちゃんと投稿は続けて行きますので

どうかこれからも宜しくお付き合いお願い申し上げます_(_ _)_

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