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46.閑話 旅の空

 ヴィクシスバリーを出ることを決めたわたし達は、ちょうど王都方面に向かう隊商に護衛として便乗することが出来た。

 四人纏めて一日あたり金貨一枚、食事は付くと言われたけれどそれは断ることにした。だってカイもロックもご飯食べたいし、エルはコロッケとメンチが食べたいのだから仕方ない。


 馬車はサスペンションがあまり良くないようで、乗っていると些かお尻が痛い。なのでクッションを作って皆に配ったりした。何しろ長旅なので少しでも快適に過ごしたいもんね。


 馬車の中では暇なので、ゲーム等をして過ごしているが、わたしはそれよりも先に済ませたい事があった。


「…という訳で、この子に名前付けたいの。皆で考えて?」

「みー」


 チビ毛玉を抱き上げて告げると、カイ、ロック、エルの三人はお互いの顔を見合わせてから、わたしに向いて言う。


「コロ」

「タマ」

「チビ毛玉」


「却下」


 わたしはにっこり笑って答えた。


「犬や猫じゃないんだから、安直過ぎるでしょ。エルなんか、そのまんじゃない。皆もう少し真面目に考えてよ」


 続いて三人からネーミング候補が提案される。


「ポチ」

「ミケ」

「毛玉猫」


「却下。犬猫から離れようね?」


「鉄兜」

「鉄帽」

「おにぎり」


「却下! カイ、ロック、それどっちも同じヘルメットのことだよね!?」


「まぁ、実は違う意味も…」


 とカイが言いかけたら、ロックが慌てたように横からカイの口を塞いだ。


「な、なんでもない。気にしないでくれ」


 必死な様子で言うので、とりあえず深く追求は止めておく。


「とにかくヘルメットなんて可愛くないでしょ。エルは、食べちゃだめ!」


「ちぇー、食べたりしないよ。それよりルカはどうなのさ? そいつの名前考えたの?」


「うーんと…。みーみー鳴くから、ミー…」


「「「安直!」」」


 三人でハモってダメ出しされてしまった。うーん、それなら…。


「じゃあ、丸いから。ポポロン!」

「みー!」


 わたしが叫ぶと、今まで無反応だったチビ毛玉が、まるで返事をするように鳴いた。


「えっ、気に入ったの? それじゃポポロンで良いね?」


「みー、みー!」


 再びポポロンと呼ぶと、嬉しそうな様子で鳴きながらぽわわっと身体を震わせる。


「そんなヘンテコな名前が良いのか? 意味が分からんぞ」


「まぁ、ルカが良いと言うんだから良いだろう。それに俺は可愛い名前だと思うぞ」


「ちぇー、やっぱり食べ物の名前じゃないかー」


 ともあれこうしてチビ毛玉の名前はポポロンに決まったのだった。




 夜になると、隊商は適当な場所でキャンプをする。街道はけっこう切り開かれていて馬車を脇に止めるくらいは余裕である。

 

 キャンプ場所が決まると、隊商全部を被うように魔物除けの結界を張るのもわたしの仕事だ。

 いっそ魔法障壁で全部覆ってしまった方が楽なのだが、一人でそんな高度な魔法を使うと(結界より障壁の方が難しい魔法らしい)また驚かせてしまうので止めておくことにした。


 夕食の際は、わたしが用意した食事に隊商の人達が興味を持ったりして、お互いの食事を交換したりして賑やかに過ごす。

 それからエルを寝かしつけて、皆が眠るまでの間はカイとロックが交代で周囲を警戒する。

 一応魔物以外の人間の野盗などが現れたら、警報が響くように結界を調整してあるので寝ずの番をする必要は無いのだが、見回りして見せた方が隊商の人達が安心するのである。



 そうして皆が寝静まり、周囲がすっかり闇に閉ざされた頃、わたしは夜中にふと目が覚めた。

 頭上にはほぼ真円に近い月が木立の間を縫って、青銀の輝きを放って地上を照らしている。

 わたしはその光に誘われるように起き上がると、月がよく見えそうな場所を探して歩き出した。


「ルカ、どこに行くんだ?」


 すると背後からロックがそう声をかけて、後を追って来た。


「うん、月が見たくなって。ここだと木の枝が邪魔だから」


「そうか。一人だと危険だ。俺も一緒に行こう」


「そ、ありがと」


 にっこり笑って申し出るロックに、わたしも笑って礼を告げた。

 …女の子が夜中一人でどこか行こうとしたら、普通はトイレじゃないかと察すると思うんだけどなぁ…。わたしならトイレならトイレと言うけど、若い女の子だったら恥ずかしくて言えない子もいるだろう。

 こんな朴念仁ではロックの将来が心配だ。


 とりあえず街道に出て少し周囲が開けると、頭上に輝く月がよく見える。

 わたしは以前創造魔法で作ったレジャーシートを出して座った。わたしの横にロックも腰を下ろす。


 暫くの間、中天に輝く月を見上げて、少ししてロックがぽつりと言う。


「綺麗な月だな…」


「そうだね。地球のより大きく見えるけど…模様は似てる気がする」


 丸いものと言えば月もそうだったんだよね。でもファーキャットの名前に『月』なんて付けるのもひねりが無いし、やっぱりポポロンで正解だったと思っておこう。天空を見上げながらそんなことを考えていると、ロックがわたしの言葉に頷いて言った。


「ルカの時代でも、月ではウサギが餅をついていると言っていたのか?」


「うん。月の模様は心に想った形に見える、とも言われてたよ」


「そうか…。確か、1960年台にはもう月へ人間が行ったのだったか」


「そう、アメリカが行ったよ。採算が取れないらしくて、その後半世紀近く人間は行ってないけどね」


 わたしの説明にロックは小さく「そうか」と呟いて、また黙り込んだ。 


 それからまた暫くして、ロックが言う。


「俺の時代も、きみの時代も、月だけは変わらなかったのだろうな…。例えそこに人間が降り立っても、地上から見える姿に変わりはない。そう思うと何十年も経った時代でも、ちかしく思える気がする」


 わたしが黙っていると、ロックは更に続けた。


「この異世界でも、月が故郷に似た姿で見えるのは、有難いものだ──」


「うん…」


 それから暫くの間、わたし達はただ黙って月を眺めていた。




 ──後でこの話を聞いたカイが、

「月が綺麗とか話してて、二人とも何も思わなかったのか!?」

と吃驚していたが、なんだったんだろう…? 

ルカもロックさんも夏目漱石の逸話を知りません(^_^;)


この後少し休憩を頂きたいと思います_(_ _)_

次回は遅くとも12月に投稿いたします



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