35.北の街にて9
待っていたエルとカイと、金髪エルフを交えて食事をとる。
「ふむ…この穀物を茹でたモノが主食のようだな…うむ、美味い! そうか飯と言うのか。この焼いた魚にかかった黒いソースが飯の味わいを引き立てるのだな。そうか、これが醤油というものか。これは卵を溶いて焼いて丸めたものか。ほのかな味付けがこれも飯に合う。こちらは野菜の酢漬けか? それにしては風味が違うが、これもなかなか飯を引き立てて美味であるな。うん、この貝の風味のするスープも良いな! 身体に残る酒精が洗われるようですっきりする…!」
金髪エルフはどこかのグルメ番組のタレントみたいに大袈裟に感動しながら、朝食を平らげていった。
わたしが創造魔法で出したアジの干物を焼いたものに同じく創造魔法製のぬか漬けのお漬物に、出汁巻玉子に、しじみのお味噌汁という特に豪華でもなんでもないメニューなのだが。
そう言えば収納魔法空間で熟成させられるのなら、ぬか床を作って自家製のお漬物を作る手もあるな。この世界の野菜や作物はかなり元の世界と共通しているものが多いが、見たことが無いものもそれなりに在る。そういった未知の野菜をぬか漬けにしてみるのは結構楽しいものなのだ。
「お口に合って良かったです。エルフの方の食事はよく分からないので…」
とりあえず愛想笑いを返す。エル、ロック、カイの3人も胡乱気な様子で金髪エルフの食事の様子を眺めている。
特にエルは、いつもの元気さが鳴りを潜めたように、ただ大人しくエルフを見ている。どうしたんだろう? 人見知りするような子じゃないのに。
「エル、どうかした?」
「ううん、なんでもない」
わたしの問いにエルがにこっと笑って答えた。相変わらず愛らしい表情もいつも通りで、特におかしなところは無い。
わたしとエルのやり取りを全く気にしない様子で、エルフが話を続ける。
「エルフと言ってもそう変わったものではないぞ。肉も魚も穀物も食えば、酒も飲む。他の種族の者共と何ら変わらん」
「そうなんですか? なんだかエルフって菜食主義者なイメージがあって」
「何故かそのように思い込んでいる人間は多いようであるな」
そういったエルフのイメージがわたし達の元の世界で作られたものと共通することを考えると、広めたのは転生者なんじゃないかとも思うが、美形であったり長寿だったりとイメージ通りな部分も多いのはなんでなんだろう。
一番考えられるのは、こちらの世界──或いはまた更に別の、エルフやら存在するファンタジー世界──から、わたし達の元の世界へ転生した誰かがいたのかも知れない、というパターンだろう。
向こうからこちらに魂がやって来るのだから、その逆があったっておかしくはない。推測だけで、確かめる方法は全く無いけれど。
「そこで、だ。娘よ、我とそなたの間に障害となるモノなど何もない。これからは我が妻として共に過ごそうではないか」
はぁっ? まだ言うかこのオッサン…と思ったら、ロックとエルが同時に叫んだ。
「おい、ルカは俺の」
「オレのモノだいっ! お前なんかにやるもんか!」
言ってから、二人でお互いの顔を見合わせる。
「おいロック、ルカはオレのものだからな。お前にもやんないぞ」
「なっ、何を…っ!」
顔を真っ赤にして口籠るロックに、カイが横から口を挟む。
「『俺の』──なんだ? 続きをぜひ聞きたいものだな」
「お、俺の…俺たちの、仲間、だろ。ルカは」
まだ頬を若干染めて、吃りながら答えるロックに、エルとカイの二人はあからさまにがっかりした様子で大きく溜め息をついた。
そして朝食を終えると、エル、カイ、ロックの三人は寄ってたかって何だかんだと、金髪エルフを家から追い出してしまった。
「ほら、土産にこの酒をやる。もう二度と来るなよ」
庭のお風呂に興味を引かれているっぽい様子のエルフに、こっそりとわたしに作らせた日本酒の一升瓶を押し付けて、さっさと送り出す。一応ヴィクシスバリーの街への行き方はちゃんと教えていた。
「でも、よかったの? エルフって狙われやすいんでしょ。一人で行かせて大丈夫かなぁ…」
姿が見えなくなってから、ちょっと心配になったわたしが呟くと、カイが肩をすくめて言う
「大丈夫だろう、あれは」
「どうして?」
「冒険者ランクで言えば、恐らくA以上の実力者だ。あのエルフは」
「えぇっ!? 強いんだろうなとは思ったけど、そんなに!?」
「ああ。身のこなしに全く隙が無かった」
その言葉に思わず、一升瓶を抱えただらしない寝姿を思い出して首を傾げたくなったが、Bランク冒険者のカイが言うんだからそうなんだろう。
冒険者ギルドの定めるランクは、Bまでならば通常の依頼任務を達成することと討伐数を重ねることで上がる。
だがA以上に上がるには、ギルドが定めるAランク以上の魔物で、尚且つエリアボス以上の魔物を討伐する程度の実績が要る。
エリアボスとはある一定範囲の魔物の群れの頂点に在ると認められる魔物のこと。但しAランク以上の竜種ならばボスでなくても良いそうだ。竜種も種類によってランク分けされており、例えば伝説の古神竜エルダードラゴンならばSSS級以上となる。
つまりあの金髪エルフはエリアボスかAランク以上の強さのドラゴンを、恐らくは単独で倒せる程度の腕前──と思われる、という事だ。
「ヴィクシスバリーにエルフはいないから、流れ者だろうが…。記憶が無いというのが気になるな」
ロックが言う。わたしもそれは気にはなったが…。
「何にせよ、奴がヴィクシスバリーに行くならまた会うこともあるだろう。今はそう気にすることもない」
カイの言葉を締めくくりに、わたしはエルフのことはとりあえず気にしないことにした。
読んで頂いてありがとうございます_(_ _)_
なんとかペースを保てるようがんばります(*`・ω・)ゞ




