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30.北の街にて4

 ヴィクシスバリーの街の、冒険者ギルドからさほど離れていない、城壁に近い一角に安宿や安い賃貸の集まったエリアがある。冒険者や日雇いの労働者、あまり裕福でない流れ者などが滞在するための場所らしい。

 D、E、Fランク、それにCランクでも下の方の稼ぎの少ない冒険者は、大体この辺りをねぐらにしているという。

 案内されたのはそのうちの長屋状になった集合住宅らしき建物の、更に奥まった、いかにも安普請な一室だった。

 建材は木造を基本にしたモルタルか何かだろうか? 何しろ森を切り開いた街なので、木材ならばくさる程ある。


「おい、コリンズ、デズモン! 治せる奴を連れて来たぞ!」


 そう大声を出しながら、イーノは扉を開けて中に入って行った。

 後ろからわたし、エル、ロック、カイと続く。

 内部は八畳程の一間で、奥に簡易なキッチンがある。部屋の中央に簡易な木のベッドが二組並べられ、見知った顔の二人が寝かされている。それぞれ手足に接ぎ木がされていた。

 そして室内には更にもうひとり、初見の人物がいた。


「イーノ様、お帰りなさい! その人たちは…?」


 オレンジ色の髪の女性が、髪と同じ色の目をこちらに向けて、驚いたようにカン高い声を発した。


「ああ、スティファ。喜べ、回復魔法士を連れて来た」


「その方達が…?」


 スティファと呼ばれた女性は、目をまん丸く見開いて、わたし達をじっと見つめる。

 ──と、わたし達が挨拶をするより先に、エルが叫んだ。


「あれ、オッパイ? すげー、おっきい!」


 その声にロックがフリーズし、カイが吹き出しそうになる。わたしは慌ててエルの口を塞いで、女性に向かって愛想笑いした。


 ──うん、確かに大っきいね。アレは90は軽く超えてるわ。服装は一般的なワンピース風のロングスカートで、ウエストの辺りを絞ったデザインだが、そんな強調する必要も無いほどに胸のラインは際立っている。

 身体のラインを出すのが恥ずかしいこの世界の習慣、どこ行った。


 わたしは内心でツッコミを入れつつ、次からは他人の身体的特徴を大声で叫んだりするものじゃない──と、後できっちり言い聞かせようと固く決意したのだった。




 説明によると、このおpp…スティファという女性──年齢は十八才になるそうだ──は、イーノの実家で働いていたメイドさんだったそうだ。母親と共に仕えていて、イーノとは幼馴染のように一緒に育ったという(因みにイーノは二十才だそうな)。

 家を継げない末子のイーノが一念発起して冒険者になる為に家を出たときに、彼女もメイドを辞して一緒に付いて来たのだそうだ。

 そして駆け出しの冒険者時代のイーノを、何かと支えていたらしい。


「…お屋敷に住み込みで、子供の頃からメイドとして働いていましたから、お給金は殆ど使わなくて溜まっていたので。イーノ様の為に使えるのならばお金も喜ぶというものです」


 そう言ってにっこりと笑う傍らで、当のイーノサマは不貞腐れたような顔をしてそっぽを向いている。

 彼らがカイと組みたがったのも、きっとスティファ嬢に援助して貰ってるのが情けなくて、手っ取り早く稼げるようになりたかったんだろう。

 …当然ながらカイが彼らの事情を汲んでやる必要など全く無いので、全然同情はしないけどね。


 わたしがコリンズとデズモンの腰巾着二人に回復魔法をかけている間、スティファは居心地悪そうにしているイーノを全く気にしない様子で、カイとロックを相手に「いかにイーノ様は素晴らしいか」熱弁を振るっていた。


「…イーノ様はそれは小さい頃から心優しい方で、私が転んで泣いていると側に来て手を差し出して下さったんです。使用人の子をご主人のご子息が助けるなんて、とんでもないことです。それなのにイーノ様は気にもとめずに私を助け起こしてくれて…他にも本をくれて、字も読めない私がいかに怠け者であるか、気付かせてくれたこともありました。私はそれから必死に勉強して、武器を扱えるようになり、また魔法も多少は覚えて使えるようになったんです。それもこれも全部、あの日イーノ様が、私の怠惰な心根を叱ってくれたお陰なんです…! 他にもイーノ様はいつもお兄様方を立ててご自分は控えめで、謙虚で…。だから家督に口出ししないでお家を出た時、私はイーノ様なら必ずそうするだろうと思ってたんです。だってイーノ様はご自分の為にご家族が争うなんて、見ていられないに違いない優しい方ですから。だからイーノ様がご自分の力で生きることを選んで冒険者になった時、私は迷わずイーノ様を一生支えると決めて、一緒に付いて来たんです!」


 …何だか凄い超絶主観フィルターの掛かった主張を聞いたような気がするけど、ケガ人に回復魔法かけてたから、右から左に抜けてったわ。律儀に話に付き合ってるカイとロックはご愁傷様。エルはいつもの如く、最初の一行でもう、その辺の椅子に座ってすぅすぅと寝息をたて始めてしまった。

 コリンズとデズモンの腰巾着達は少しバツの悪そうな顔をしながら、わたしに向かってペコペコと頭を下げて「ありがとよ…」と、言っていた。


 終わって後ろを向くと、まだスティファ嬢の演説は続いていた。


「…だから冒険者になったイーノ様は、将来きっと勇者になるんです!」


 はぁ? と思わず口を付いて出そうになった。カイとロックの二人も、何と言ったらよいのかという感じで微妙な表情をしている。

 

「だって私が五才でイーノ様が七才の時に約束したんですから。『将来絶対に勇者になって、悪い魔王も悪いドラゴンもやっつけて、世界を平和にするんだ!』──って。そうですよね? イーノ様」


 呼びかけられたイーノは返事をせず、ただ黙って下を向いていた。

 わたしがコリンズとデズモンを振り返ると、二人は何とも言えないしょっぱい顔をしてわたしを見返した。その表情が、スティファ嬢のあの様子が、いつもと変わらない普段通りの状態──なのだと、雄弁に語っていた。


 …ああ、うん。なんか、初めてイーノに同情したくなったかも。

 誰彼構わず掴まえて七才の頃の黒歴史暴露されまくるなんて、どんな羞恥プレイだ。


 再び前を向くと、困惑しながらもやれやれといった様子で微苦笑を浮かべているロックと対象的に、うんざりした顔になりつつあったカイが、わたしと視線が合った。


「ルカ、終わったのか?」


「うん終わっ」

「ルカ!? ルカですって!?」


 カイの呼びかけに返事をしようとしたわたしに被せて、スティファ嬢が高い声で素っ頓狂に叫んだ。

読んで頂きありがとうございます_(_ _)_

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