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2.プロローグ2

 ドラゴン──エルダードラゴン、古神竜──は、此の世界の数多存在する竜種の中でも、最大最強にして唯一の、世界に君臨しているに等しい、別格なドラゴンなんだそうだ。


 此の世界がいつから存続しているのかは分からないけれど、今わたしの目の前にいるこのドラゴンさんは、少なくとももう数万年は生きていて、その前にもやはり先代のドラゴンはいたらしい。

 だからエルダードラゴン、古神竜がもう何代続いているのかは分からないけれど、彼らはいつも此の世界に、常に一体だけ存在していたそうだ。


 竜というけれど、どう考えても只の生物ではない。或いは此の世界の神様にも等しい存在なんじゃなかろうか?

 そんな質問をしてみると、ドラゴンは首を横に振った。


≪我は常に此の世界に唯一体存在し、恐らくはその存在が此の世界を支える要の一つであろうとは、自覚している──。だが、決してお前たちの思う神と等しくはあるまい。我は只、存在しているに過ぎぬのだ≫


 厳かにそう告げると、ドラゴンは更に説明を続けた。


 エルダードラゴンは世代交代の時期になると卵が一つ生まれる。その状態で数百年を過ごし、先代竜が滅びると同時に卵から次世代が孵る。だから常に世界に一体のみ存在するのだそうだ。

 

 現在も次世代の卵は既に生まれているという。まだ生まれて百年ほどしか経っておらず、本来ならばもう四、五百年は、卵のまま過ごさなければならないそうなのだが──。


 つい最近、人間の勇者がエルダードラゴンに挑みに来て、激しい戦いの末にドラゴンさんは酷く傷付いてしまったんだそうだ。


 勇者もエルダードラゴンと同じく、人間の中に、世界でたった一人だけ生まれる存在らしい。世界の危機を救うのが役目──と言われているが、具体的にどんな世界の危機があるのかは分からない。此の地とは遠く離れた別の大陸に、魔王が支配する魔族の国はあるらしいが。


 エルダードラゴンは本竜の弁によれば、決して討伐されるような存在ではない。むしろ討伐してしまったら世界のバランスが崩れて、ヤバい事態になりかねない可能性があるようなのだ。

 その事をエルダードラゴンに指摘された勇者は、自分の非を詫びて、あっさり剣を収めて去って行ったのだという。


 竜の身体は、此の世界の人間にとって宝の山であるそうで、捨てる所など無い極上の素材だそうだ。まして世界に唯一体の古神竜の素材など、どれほどの価値であるのか想像もつかない。

 恐らくはその価値に目の眩んだ人間に誑され、エルダードラゴンを倒しに来たのではないか──ということだ。


 あっさり説得に応じて引き下がった辺り、その可能性が高いんだろう。と言うか、そんなに簡単に人の言葉を信じて大丈夫なのか勇者。なんだか話を聞いただけで心配になってきたぞ。


≪闘いそのものは、楽しいものではあったのだがな≫


 そう言ったドラゴンさんは、言葉通りになんだかご機嫌そうだった。

 唯一の世界最強竜だから、全力で戦える機会なんて滅多に無いんだろう。だから思いがけない勇者との闘いは、ドラゴンさんにとっても嬉しいサプライズではあったのかも知れない。


≪ともあれ──我は勇者との戦いで、深く傷付いてしまったのだ≫


 言われて改めてドラゴンの身体を見ると、確かにあちこち傷だらけだ。

 思わず側に寄って、そのうちの傷の一つに触れる。


 すると──傷に触れた手が一瞬だけ光った。その光が収まると、確かに触れたはずの竜の身体の傷が消えていた。


「!?」


 驚いていると、説明するように竜の声が響く。


≪『癒しの手』の効果であろう。お前に与えた魔力の一つだ≫


「癒しの手…」


 こんな力があれば、弟がケガしたあんな時やこんな時に、治してやれたのになぁ…と、掌を見ながらちょっとだけ思った。


≪我の傷には構わぬがよい。もう滅びる身ゆえ──。お前に頼みたいのは、我が後継のこと≫


 ドラゴンは言うと自分の畳んだ翼を少しだけ持ち上げた。するとその下から横幅の直径一メートルはありそうな、巨大な卵が現れた。

 なんとなく薄ぼんやりと光っているように見える。


≪古神竜は卵の状態にて世界に遍満する魔素を取り込み、充分に魔力に馴染んでから孵るものだ。だが我がもう保たぬ故に、世代の交代を急がねばならぬ。新たに生まれる次世代は、未だ魔力に馴染まず、本来の力を存分に振るえぬであろう──。故に、足りぬ魔力を常に補う存在が必要なのだ≫


「それが、わたし…ですか?」


 思わず口に出して尋ねると、ドラゴンの巨大な顎が頷く。


「でも、魔力なんて持ってないですよ?」


≪お前の身体は、魔素を取り込み我の魔力を注ぎ込んで創ったものだ。普通の人間よりも遥かに魔力を溜め易い特性がある──。人間の強大な魔導師であろうとも、お前ほどの魔力を持つ者は居るまい≫


 おおっ、なんかスゴそう。

 でも…なんだか、生まれる子供の為に餌を用意しておく昆虫とかみたいな

生物がいるけど、それっぽいような気がするのは気のせいかな…?


≪深く考えるものではない≫


 あれ、口に出してはいなかったつもりだけど。考えが読まれた?


≪今さらであるな≫


 そうですね…。

 なんだかこのドラゴンさん、思ったよりもノリが良いのかも。


≪ノリとはよく分からぬが。理解したようであるな≫


「はい。わたしはつまり、この卵から新しく生まれる次世代のドラゴンさんの、非常食みたいなもの──という認識で宜しいんでしょうか」


≪それだけではない。強大な古神竜と言えども孵ったばかりでは未だ幼竜。どうせ次世代の連れとするならば、多少なりとも面倒見の良い者が良いと我が願ったが故に、お前が呼び寄せられたのだ。その特性を存分に活かし、我が次世代の面倒を見てやって欲しい≫


 ええぇー。非常食兼、ベビーシッターの役目も…?


「でも古神竜さん、わたし、数万年も付き合うなんてとても無理ですよ?」


 この世界での人間の寿命は知らないが、成人や出産年齢の早さから考えても、平成日本の平均年齢より長いということは無いだろう。


≪それ程は要らぬ。百年もあれば成竜に育つであろう──。お前は我が創りし存在故、此の世界の普通の人間よりは長く生きるであろうが、人間ならば百年も生きれば充分であろうしな。我が次世代が離れたならば、お前は好きにするが良い。魔力を全て放出すれば、存在を維持できずに消滅することも可能であろう≫


「そこまで心配して頂いてありがとうございます」


 思わずぺこりと頭を下げると、ドラゴンさんはちょっと微笑んだ──ような、気がした。


≪それではそろそろ時間が来たようだ──。後は我が次世代と話すがよい。我はもう逝かねばならぬ≫


 その言葉と共に、巨大なドラゴンの全身が、強く輝き始めた。

 同時に次世代の卵が、ぶるぶると震え始める。


 輝きが強くなって──!


 ──と、思ったら、突然にその輝きがぷしゅーっと衰えた。

 卵の震えも止まる。


≪済まぬ済まぬ。忘れるところであった≫


 申し訳なさそうにドラゴンが言う。卵が一瞬ずっこけたような気がしたのは、気のせいだろう、きっと。


≪我らエルダードラゴンは世界唯一竜であるが故に、固有の名は持たぬが、お前たち人間はそうではあるまい。だから我がお前に名をやろう──。此の地の大陸名はエメルカ、大地の女神の名であるという──。それより肖り、

『ルカ』。これからはそう名乗るがよい≫


「ルカ…」


 たった今付けられた名を、口に出して復唱する。

 この瞬間、わたしは本当に此の世界と繋がったのだ。此の世界に生きとし生ける存在の一つとなったのだ──。


 ドラゴンは満足そうに頷いた。


≪それでは、今度こそ、さらばだ──! ルカよ、竜の乙女よ──我よりの餞別である。受け取るがよい──!≫


 ドラゴンの身体が再び光り輝いた。それは段々と強くなり、この空間全体を満たす程に広がる。


 やがてその光は一つに収束していき──光の奔流は、わたしに向かって押し寄せた。


 光に包まれると共に──様々なことが、わたしの中に流れ込んでくる。

 此の世界のこと。五つの大陸と竜や魔物や魔族、人間達の世界──エルフやドワーフや彼らの文化、生活について。そして魔法について──。様々な使い方についても。


 一挙に雪崩込んできた情報は、とても今すぐに全てを把握することは出来ない。整理するにはそれなりの時間が必要になるだろう。


 それよりも──今は先ず、託された事だ。


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