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異世界転生だって繰り返せば飽きる

作者: シロボウ

俺は基本なんでも出来るやつだった。

勉強も運動も、大体の事は最初から出来た。

しかし俺は異常な体験をした。というより今まさにしている最中だ。

漫画や小説で嫌という程ある『異世界転生』。あれを何度も何度も繰り返している。

どの異世界でも俺は主人公だった。

特別な能力が使えて、権力のある人と仲良くなれて、可愛い女の子にも囲まれる。毎回そうなる。

今回の異世界は中世ヨーロッパ風の場所。異世界転生モノで恐らく一番よく出て来る所だ。

前回は確か古代ローマ風、前々回は遥か未来の電脳世界、前前前回は自然あふれるジャングルの中だったな。

全ての転生前の記憶を受け継いで転生しているが、中世ヨーロッパはもう見飽きる程見た。

俺が道端で呆けていると、超が付くほどの美少女が現れた。

「大丈夫?貴方さっきからずっと立ち尽くしてるけど、何かあったの?」

とりあえず『ずっと見てましたアピール』がしたい事はわかった。自分の容姿は中の下ぐらいだと思っていたが、どの異世界でもモテるのなんの。

どうせこの女も俺を誘いに来たのだろう。わかっている。既に転生した数は百を超え、好きと言われた数は500超えた辺りから数えていないような俺が言うんだ。間違いない。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

俺はさっさとこの場を立ち去ってしまおうと思ったが、彼女も譲らない。

「本当に大丈夫?この辺りじゃ見かけない服装だけど…あ、近くにカフェもあるし、ちょっとお茶しない?」

古風なナンパだ。中世ヨーロッパでカフェというのもわけがわからないが、とりあえず断ろう。

もう飽きたのだ。女に合わせて生きるのも、人を楽しませる行動をとるのも。

「結構です。急用を思い出したので、これで失礼しますね。」

俺は逃げるようにその場を後にした。しかし、またもや美少女に話しかけられる。

それを断り、また別の人に誘われ、また断り、また誘われ、断り、誘われ、断り…なんとか人気の無い場所まで来た。

「適当に進んでるうちに海まで来ちゃったのか…」

人気が無い所まで来て安堵したこともあり、思わず独り言が漏れる。

「寿命は後2日半ってとこかな…」

実は異世界転生についていくつかわかっている事がある。

一つ目、常に自分は高待遇であること。

二つ目、必ずハーレムが出来ること。

そして三つ目、転生は三日周期であること。

これは何度転生しても絶対に変わらなかった。自殺は出来ず、必ず12時ピッタリに何らかの理由で死ぬ。

色んな死に方をした。通り魔に殺されたり、交通事故にあったり、バグか何かで突然死したり、呪いをかけられたり、自殺せざるを得ない状況になったり、心臓麻痺になったり。転んで頭を打って死んだ事もあったな。

縁起でもない事を思い出していると、後ろから声をかけられた。

「あれ…こんな所で何してるの?」

振り向くと、小さな女の子が立っていた。小首をかしげ、こちらを覗き込んでいる。

気付けば周りは薄暗く、ずっと呆けていたことがわかった。

もう逃げる気も起きない。幼女の一人ぐらい、逃げなくても平気か。

「海を見ていたんだ。ちょっと悩み事をしててね。」

「なやみごと?」

「僕はもう少しで死んじゃうんだよ。後二日ぐらいかな。この世界とバイバイするんだ。」

幼女はキョトンとして、また質問をしてくる。

「それは、かなしいこと?」

「僕はそうでもないかな。何度も経験したんだ。世界とのお別れはもう悲しくなくなったよ。」

「でも、こわい?」

「…どうだろう。何度も経験したし、それほど怖くも―」

「何回やってもこわいものはこわい…ちがう?」

「…そうだね。確かに死ぬのは怖い。でもわかってればあんまり怖くないよ。」

「…しにたくない?」

「まあ、出来ることならね。でも絶対死ぬんだ。何があっても必ずね。」

「かえりたい?」

「そりゃ出来ることなら…帰る?」

俺はふと思い出す。最初に住んでいた世界。たった三日間の体験版の様な所じゃない、ちゃんとした現実の世界。

元々は普通に生活していた。学校に行って、勉強して、友達と遊んで、家族と飯を食って。今じゃ会うことも無くなった家族や友達の事を、思い出すだけで涙が出てきた。

「ないてるの?」

「久しぶりに泣いたなあ。目まぐるしい毎日だったから忘れてたけど、俺の家族…どうしてるかなあ。」

俺の最初の死因は交通事故だった。転生モノでよくある、トラックとの衝突。

初めての異世界転生は興奮した。自分が最強で、異常にモテた。最高に楽しいと思った。

でも何度も転生して気付いた。俺はちょっと体験したかっただけだったと。

こんなにも色んな人間に愛されて、人生常にイージーモードで、気味が悪い。なんて世界だ。

元の世界は、今考えれば充実してた。例え友達がいなかろうと、家族が酷い奴だろうと同じことを思っただろう。

こんな気色悪い世界達に慣れてたなんてどうかしてる。記憶がありすぎて、とうとう頭がおかしくなったか。

ああ、元の世界に戻りたい。家族に会いたい。友達に会いたい。辛い辛いと言われてる社会がどんなものかもわからないまま、ただただ愛されるだけの生活なんてもう嫌だ。

こんな気持ち悪い世界なんて。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

ふさぎ込んだ俺に、幼女がまた質問をしてきた。

「かぞく、会いたいの?」

「会いたい。とっても。でももう無理だよ。神様が決めたことなんだ。俺にはどうしようもないことなんだよ。」

世界を救えても世界を自分で選ぶことなんて出来ない。…惨めだ。

「じゃあ、わたしがなんとかしてあげる。」

「キミが?…気持ちだけ受け取っておくよ。キミと同じような見た目の魔術師にも頼んだ事があったけど、結局どうにもならなかった。無理なんだよ。」

「貴方はここにいるべきじゃない。元の世界におかえり。」

優しく包み込むような声。周りが輝き始め、自分の体が薄くなっていくのを感じる。この幼女が何かしたことは間違いない。しかも雰囲気が全くの別人だ。

「私の事覚えててくれたんだね。キミの転生の話を信じて頑張ったんだから。」

「もしかしてあの時の魔術師…でもあれから百回は転生した!なんでキミがこんなところに…」

「私も転生したのさ。1日周期で何度もね。毎回死ななくちゃならなかったから結構辛かったけど…なんとか出来てよかったよ。」

「なんでそんな…俺のために…」

「私は意地を張ったら誰にも負けないからね。転生の魔術を研究して、習得して、キミに会えるまで何度も何度もやってやったよ!」

ありがとう。ありがとう。最後の俺の声は届かず、別れも言えないまま消え去った。

「人探しの魔法で似た魂の奴に何度も話しかけたけど、正直当たりが来るとは思わなかったな。…良かったね。私の愛する人。」


俺は元の世界に戻り、以前の日常を取り戻していた。

きっとあの魔術師が使ったのは魔法ではない。全てに恵まれているのに疎まれる事も無かった俺は、誰からも肯定されていた。

『否定の言葉』。俺には、それが足りなかったんだと思う。

否定されることで、人は精神を強くする。立ち向かおうとする。しかし俺は否定されたことが無かった。元の世界を含めて、誰からも。

あの魔術師が言ってくれたおかげで、俺は強くなれた。たった一回でなんだという話かもしれないが、0と1じゃ大きな差だ。

大きな一歩。俺は体験版の様なあの異世界ではなく、この現実世界で強く生きていこうと思う。

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