第8話 ユカ
ソウコウ、サトシが不在の間、艦の指揮はユカが執った。
結局ジェミ軍の攻撃がプレアデスに及ぶことはなかったが、プレアデス艦内の戦闘準備は十分に出来ていた。
艦の指揮を執ったことのないユカになぜそのようなことが出来たのか。
それはユカという人物を知らねば説明はできない。
◇
グローバルシステムズ株式会社。
品川に拠点を置く社員数約80人のIT企業だ。
自社パッケージ製品の開発、導入、運用から、下請け開発、派遣、カスタム開発の提案と幅広く手掛けている。
主要な製品は、
理容、美容店向けwebアプリケーション『切っ太郎』。
『切っ太郎』は、顧客毎のオーダー内容と担当者の履歴管理、顧客フィードバックアンケート機能を提供し、次回来店時の接客向上に繋げる事ができるという製品だ。
企画および初期開発時の開発主任はサトシで、ユカの初めてのプロジェクトでもある。
サトシの休職中にリリースまでこぎ着けたのはユカの功績が大きい。
◇
話は5年前にさかのぼる。
平田ユカはK県の県立S工業高校を卒業後、グローバルシステムズに入社した。
本当は進学したかったが、ユカの実家は看護師の母親と2人の弟たちで暮らしており、貧しかったため選択肢はなかった。
ユカは実家から会社に通い、初任給はすべて家に入れた。
実家はユカの稼ぎを生活の頼りにしていた。
入社してすぐ、ユカは自社サービスの企画開発プロジェクトに配属された。
チームはユカを入れて3人。リーダーは25歳のサトシだった。
ユカから見たサトシの第一印象は少しチャラい雰囲気の先輩という感じだ。
しかし、サトシは女性に対してはチャラいものの、仕事はできる男だった。
ユカと同じく、高卒で就職。若いけどベテランの社員だった。
サトシは開発中の自社サービスを『切っ太郎』と名付けた。
『切っ太郎』の開発は順調に進んだ。
サトシは夜間だけの参画だったが、精緻に設計をしてくれた。
日中にユカともう一人が作業し、夜間はサトシのフィードバックを受ける。
初期リリースまであと1ヶ月というところまで来たとき事件が起きた。
製品企画とリーダーを兼ねていたサトシが突然職場で倒れてしまったのだ。
サトシは当時、複数の案件を任されており、日中は請け負い案件の開発、夜間は自社製品開発という殺人的なスケジュールで働いていた。
そのため、過労によって倒れてしまったと考えられる。
(※この時、サトシの意識は異世界に行っていた)
自社製品の開発であるため、厳密な納期はない。
会社はリーダー不在となった『切っ太郎』の開発凍結を検討した。
ユカは案件の担当から外れ、お茶汲みや書類整理の仕事をすることになった。
当時のグローバルシステムズでは女性はその能力を軽視されていた。
毎年数人の女性採用はあったが、ほぼ全員が一年以内に先輩社員と結婚して寿退社している。
会社全体に女性社員を男性社員に対する福利厚生の位置付けとして認識する風潮があった。
ユカに対しても例外ではなく、サトシの同期の唐澤は毎日のようにユカに言い寄っていた。
ユカはシステム開発の仕事を続けたいと思っていた。
実家にお金をいれないといけないが、この会社の男と結婚し、家庭に入るとなれば、豊かな生活は望めない。
なにより、ユカは働くことが好きだった。
そこでユカは部長の長谷川に『切っ太郎』開発の継続を直談判することにした。
長谷川はカスタム開発部の部長で、エンジニア出身だ。
保守的な上司が多いグローバルシステムズには珍しく、挑戦的なことを好む。
ユカの直談判に対し長谷川部長は条件付きで要求を飲んだ。
「良いだろう、
だけど片山くんの抜けた分を埋める余裕はない。
平田自身が残りの仕様確定と実装をするのなら話をしてみよう」
長谷川は女性の視点で製品開発をしてみることに可能性を感じた。
会社は女性社員一人での開発と言うことで他チームに迷惑もかからないならと言うことで『切っ太郎』の開発継続を認めた。
開発継続をきっかけに、ユカの猛勉強が始まった。
書籍や先輩社員への質問はもちろん、社外の勉強会へも参加した。
休日は美容師専門学校に行った友人と連絡を取り、製品の仕様に関するヒアリングを実施した。
ユカの努力は周囲の意識を変えた。
「たかが女性社員」と考える者は部内にはもういない。
先輩社員たちも手が空いたときに開発の手伝いをするようになった。
サトシが倒れて約半年後、『切っ太郎』は初回リリースを迎えた。
初めての顧客は長谷川部長の行きつけの床屋で、導入にかかる費用はグローバルシステムズがサービスした。
その後も顧客の意見を反映し、細かいサービスの追加と改修をタイムリーに行った。
顧客の数も増えていった。
顧客からの評判は良く、『切っ太郎』は瞬く間に会社を代表するソリューションになった。
ユカはその功績を評価され、入社わずか一年でチーフエンジニアに昇進したのだ。
◇
ユカの行動力、状況分析能力、適応能力があったからこそ、艦は対した混乱もなく、事に備えることが出来たといえる。
ソウコウは、ユカの指揮能力を評価し、低階級ながら第2副長として任命したのであった。




